放浪王子の竜退治#1 革命の後◆2
_王子とリミアイの二人はやがて寒村に辿り着いた。茅葺の掘っ立て小屋が並ぶ、こぢんまりとした村だ。純血のインペリアル・コーラル人である王子は白い肌と赤い髪の毛をしているが、この村に住むのはエシエドール人の一種らしく、浅黒い肌と、艶やかな黒髪をしている。 「竜ですとな」 11
2016-05-26 17:23:28_古風な喋りをする村の若者。明らかに胡散臭い目で見る。無理もない、インペリアル人とエシエドール人の対立は根深いのだ。この二つの種族は子をなしても、その子供は生殖能力を持たない。それほどまでにかけ離れた種族。 「竜などとんと見たことはないが……いや、先日……」 12
2016-05-26 17:29:36_若者によると、山脈のある場所で、巨大な生き物が動いているのを遠目で見たという。そのときは危うきに近寄らずということでその場を去ったらしい。 「ありがとう、恩に着る」 場所を詳しく聞き村の外に出た。仕事をして金を貰いたいが、まずは慣れさせて警戒心を解きたい。 13
2016-05-26 17:34:31_村の外には針葉樹林が広がっており、リミアイはそこで待っていた。彼女もまたインペリアル人であり、魔女と間違われるのを予防して外に待機する。 「手っ取り早く交渉しないの?」 「信頼を手に入れるには金か時間が必要だ。どちらかが欠けてもダメだよ」 王子は雑草を漁る。 14
2016-05-26 17:40:00_やがて手ごろな枝と蔦、石を加工してフレイルを作り上げる。釣り竿の先に可動する石が付けてある形だ。 「それで竜を倒すのね」 リミアイは王子の傍らで作業を眺めていた。薄暗い針葉樹林に、石を振り回す音が響く。王子という肩書に似合わない、強靭な筋肉。遠くで狼の遠吠え。 15
2016-05-26 17:50:35「ひ弱な王子様かと思ったら、バイタリティあるじゃない」 「父に何度も言われた。ひ弱な王子にだけはなるなってね」 魔法もなく、剣もない。手には原始的な鈍器だけ。それでも、王子は竜とされる生き物に全力で立ち向かおうとしている。 「理由があるんだ、聞いてくれるかい?」 16
2016-05-26 17:56:27_王子は静かに語りだした。王家の歴史。そこには、闇に葬られた影の一族がいた。王家を守るためだけに殉じた一族。彼らは日のあたる場所にすら出られず、王家を影から守っていた。名前すらない。ただ「影」と呼ばれている。 「あるとき、当時の王が彼らを解放した……」 17
2016-05-26 18:01:54_王子の言葉は誇らしげだった。 「王家はそのときようやく一人立ちしたんだ。自分の身は自分で守る。影たちには新しい名前と、新しい仕事が与えられ、各地に散らばったという。いつかこんな日が来ると思っていた。とうとう王家は革命で国民からも離れ、完全に自立したんだ」 18
2016-05-26 18:08:21「一人立ち……か。わたくしの助けはいらなそうね」 「もちろん! 僕の王権は与えられるものじゃない、この手で勝ち取るものだ。そして現代の影たちに誇りたい……もう王家は守られる存在じゃないってね」 古来より竜を倒したものに王位が与えられる……そんな古臭いしきたりがあった。 19
2016-05-26 18:14:25「僕はこの手で竜を倒し、その血を浴びて本当の王になるんだ」 フレイルが近くの針葉樹に当たり、上から古い鳥の巣が落ちてきて、王子の頭がゴミだらけになった。 「見ろ、王家の冠だ」 それを聞いてリミアイは肩をすくめたのだった。 20
2016-05-26 18:20:39【用語解説】 【エシエドール諸部族】 灰土地域に広く分布する種族で地域ごとに文化は大きく異なる。インペリアル人と比較すると、若干背が低く、肌が浅黒く、黒髪や赤色の髪の傾向がある。瞳は赤が多い。濁積世創生時に創られた5つの種族のうち、ハイ・エシエドールを起源とし当時の特徴を濃く残す
2016-05-26 18:31:13