「クレイドル・スウェイング・イン・ザ・ストックヤード」

揺り籠は揺れる。ゴミ溜めの中で。 これは、母親の物語。
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

輸送物資は不明なれど、見逃す理由も無い。艦娘達が引き金を引かんとした次の瞬間、電探も感知できぬほどの超高高度から、正体不明の艦載機からの爆撃が見舞われたのだ。その艦載機は緑色の装甲を持った敵の新型機であった。艦娘達は爆撃アンブッシュの対処に手間取り、輸送部隊を取り逃がした。 23

2016-05-28 22:07:43
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「敵の潜水部隊は無事殲滅できたとは聞いた」リカルドは椅子に深く腰掛け、珍しく思案顔を浮かべた。「カンパン湾沖はザハ=サンに任せるとしてだ…あの水母棲姫は一体何だったんだ…一体こんなところで、何を運んでいた?」「それに、あの敵の新型艦載機が気になります」 24

2016-05-28 22:12:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドは瑠奈花の言葉を待つ。「あの艦載機は、恐るべき超高高度から爆撃を仕掛けてきました…恐らくあれは重爆撃機でしょう…ですが、何故そんな新兵器がこんなところに?あれ程の高度を飛べる艦載機なら、こちらの国土を奇襲することもできるでしょう。ですが、それは知らなければの話」 25

2016-05-28 22:18:31
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ああ、そうだな」リカルドは頷く。現に彼は、敵の新型艦載機の事を葛城中将を通して鎮守府へと報告した。「つまり、アイツらにとって新兵器のスペックを晒すこと以上に…あの輸送隊の防衛を優先したってのか…?」「恐らくは…」「まぁ、その辺はあの妖怪人間に押し付けるとしよう」 26

2016-05-28 22:21:20
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドが話を切り上げると同時に、KNOCK!KNOCK!扉が2回叩かれる。「入れ」リカルドは扉の向こうの相手に入室を促す。「失礼します」入室してきたのは、銀髪のサイドテールの少女。白の長袖に黒いサロペットスカートが特徴的な艦娘であった。「霞か」「出撃準備ができたわ」 27

2016-05-28 22:25:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

霞はリカルドの元へと歩みより、何枚かの紙を手渡した。リカルドは立ち上がり、それを受け取る。紙には今回出撃する艦娘達のコンディションが記されていた。旗艦霞。随伴大淀、足柄、利根、朝霜、清霜。予備戦力吹雪。全艦娘コンディション好調。出撃に一切の問題なし。「成程」 28

2016-05-28 22:28:06
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「全員問題はないみてぇだな」「それで、何時出撃するの?一気呵成にってのが上の要望でしょう?」霞が問うた。リカルドはこのまま出撃させようとして、ふと思いとどまった。「どうしたのよ?」「霞、朝霜と吹雪を入れ替えて出撃してくれ」「理由は?」「敵の航空戦力を警戒して、だ」 29

2016-05-28 22:31:36
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「航空戦力?」霞は首を捻った。「利根=サンの事前偵察だと、敵に航空戦力は無いって話でしょ?だったら吹雪=サンは温存しておいた方がいいんじゃないの」「敵の新型艦載機が気掛かりだ」リカルドの言葉で、霞は意識を改める。「ああ、確かにそうね…またアイツらが来ないとも限らないし」 30

2016-05-28 22:36:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「そう言う事だ。用心に越したことはない」「そうね、そう伝えておくわ」霞はそう言い、司令室から退室しようとして、ふと瑠奈花を見た。その瞳には言い知れぬ嫌悪感が滲む。「アンタが、かの宿毛湾の英雄かしら」「…一応、そう呼ばれてはいるな」瑠奈花はそう答える。霞は瑠奈花に歩み寄る。 31

2016-05-28 22:40:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

霞は瑠奈花の元まで歩み寄ると、手を差し出した。「?」「ほら、握手よ。あ・く・しゅ」霞は言った。「アンタのような戦士と共に戦えるのは光栄だわ。だから、握手をしましょう?」瑠奈花は訝しんだ。先程彼女から感じ取った強烈な嫌悪感を、今は感じない。フォースを持ってしても。 32

2016-05-28 22:43:05
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ああ、分かったよ」瑠奈花は違和感を拭い捨て、霞の手を取り握手せんとした。彼女の言葉に嘘偽りはないと思ったからだ。だが、霞は瑠奈花の右手ではなく、手首を握り締めた。霞は表情を変えず、そのまま強く手を引き、左袖口から取り出した仕込みナイフを構え、瑠奈花の喉元にナイフを当てた。 33

2016-05-28 22:46:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「!?」一瞬の出来事であった。瑠奈花は驚愕の表情を浮かべた。リカルドは片眉を吊り上げ、その光景を見守る。霞は一切感情を動かさずに、ただ淡々と告げた。「ひとつ忠告だけど…もし、アンタが清霜を酷い目に合わせたら…殺すわ」刃が鈍く光る。「……胆に命じよう」瑠奈花はただそう言った。 34

2016-05-28 22:49:14
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

瑠奈花はこれを脅しではなく、宣言と受け取った。霞は手を離し、ナイフをしまって司令室を後にした。瑠奈花は全身から冷や汗を出し、息を吐いた。「一体、彼女は…」「すまねぇな瑠奈花=サン。ウチの部下がよ」リカルドが瑠奈花に謝罪する。「いえ、大丈夫です」瑠奈花は頭を振った。 35

2016-05-28 22:55:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「アイツは」椅子に座り直したリカルドが語り出す。「英雄ってのが嫌いでよ」「英雄が?」「アイツにとって英雄は、多くの屍の上に立つ臆病者で、自分を死に追い立てるクズの事だそうだ」「なんと」「『霞』の経験からそう言っているのか、アイツ自身の経験か、そこんところはよく分からんがな」 36

2016-05-28 23:03:38
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「まぁ実際の所は」リカルドは苦笑いした。「娘みてーに大事にしてた清霜が、お前さんに盗られて怒り心頭ってところなんだろうさ」「盗るとは人聞きが悪いですね」瑠奈花は僅かに眉を顰めた。「多めに見てやってくれ、霞は、清霜のカーチャン代わりをやってたからな」 37

2016-05-28 23:07:45
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

二人の提督が談笑を勧める中、出撃ハッチでは艦娘対が出撃準備を完了させていた。「霞ちゃーん!」清霜が元気な声を上げる。「皆出撃できるってよー!」「分かったわ、清霜」霞は優しく微笑み、艤装を背負う。対空重視の乙型改二艤装。リカルドの警戒を受け、霞自身の対空も重視した結果だ。 38

2016-05-28 23:12:02
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「いつでもどうぞ」「準備は出来ています」大淀と吹雪が艤装を構え、カラテを充実させる。「戦場が、勝利が私を呼んでいるわ!早く行きましょう!」足柄が待ちきれぬとばかりに声を上げる。「索敵は我輩の艦載機に任せるがよい!」利根が自信満々にサムズアップ。 39

2016-05-28 23:16:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「霞!清霜!アタイの分も頑張れよな!」待機となった朝霜が声援を送った。霞は笑って手を振った。そして海を臨み、霞は戦士の顔となった。戦いの中に生き、誰の犠牲にもならぬ者の顔に。霞は宣言した。戦士として。艦隊の旗艦として。「礼号作戦旗艦霞…出撃するわ!」 40

2016-05-28 23:22:22
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「クレイドル・スウェイング・イン・ザ・ストックヤード」#1 おわり #2 へ続く

2016-05-28 23:23:24

#2

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「クレイドル・スウェイング・イン・ザ・ストックヤード」#2

2016-06-19 20:00:58
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「遅イ……」オートロ島近海、2隻の輸送ワ級フラッグシップが所在無く浮かんでいた。彼の者達の顔はマーマレード湾へと向けられ、ただ待ち人を待つ。「モウ定刻カラ30分モ遅レテイルゾ」「通信ニモ応答シナイ」ワ級達は互いに顔を見合わせる。鉄仮面に覆われた顔からは表情は窺い知れない。 1

2016-06-19 20:09:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「「理解不能」」「モウ一度集積地棲姫様ト通信ヲ試ミル」ワ級Aはそう提案した。ワ級Bが頷く。「了解。コチラハ本隊ヘトラブル報告ヲ」ワ級達が各々の通信を行おうとした、その時!KABOOOOM!「「グワーッ!」」突如として爆撃が襲い掛かる!「何ダ!」ワ級達は空を見やった。 2

2016-06-19 20:15:52
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

視線の先、空を舞うは緑と赤の水上偵察機。その翼には「六三四空」のショドー。「ナント」「艦娘ノ艦載機ダト!」ワ級達は驚愕の余り鉄仮面の奥の目を瞠った。「馬鹿ナ、ハヤイ過ギル!」「潜水包囲部隊ハ何ヲシテイタ!」ワ級Bは遠くに見え始めた人影を睨み、ワ級Aは緊急通信を立ち上げた。 3

2016-06-19 20:22:41
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「集積地棲姫様!敵襲デス!艦娘ノ艦隊ガ!予想ヨリ早イ!」KADOOM!KADOOM!ワ級達の程近くに2本に水柱が立ち上がる。「砲撃…コノ距離デ!」ワ級Bは急いで5インチ単装高角砲2門を動かし、反撃の砲撃を試みる!BLAM!BLAM!2本の水柱が上がる。その間を縫い走る影3つ。 4

2016-06-19 20:31:04
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