- tasobussharima1
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『マロ』の前に、給仕姿の男が茶を運んでくる。 「……何か、盛ってないでおじゃるな?」 「その必要が?」 「確かに、無いでおじゃるな」 『マロ』は、出された茶に手を付けた。新茶の良い香りが広がる。 恐らく、この船団で栽培されたものだろう。何処かの島に畑があるのか、或いは水耕栽培か。
2016-05-29 21:04:05「……最後の通信は、14年程前のことだ。計画は、その時には『既に成功していた』」 エミリアは、そう口にした。 「徳カリプスの前、でおじゃるか」 答えは無い。最後の通信というよりは、徳カリプスの混乱によって交信不能に陥った、という方が恐らくは実態に近いのだろう。
2016-05-29 21:08:05徳カリプス後の状況でプラン・ダイダロスの関連施設がどれだけ生き残っているやら……。最大の問題は、得度兵器そのものがプラン・ダイダロスの関連施設を元に生まれたりしているので、おおよそ同系統の施設の情報は掴まれてると考えても良いだろうってことだけど #徳パンク
2016-05-29 21:11:09「いや……待つでおじゃる。そもそも、宇宙施設は放棄された筈でおじゃる」 25世紀前半。人類は無人施設や自律衛星網を残し、宇宙から撤退した。それが『正史』だ。だが、相手は地上最大の企業体。非公式な宇宙施設の一つや二つ、維持していても不思議は無いが……少なくとも、『マロ』は知らない。
2016-05-29 21:12:05不死者と云えど、決して万能ではない。取り分け恒星間移民計画など、彼は完全に蚊帳の外だ。遠大な計画が最終的にどうなったのか。それは少なくとも、『マロ』の記憶の中には無い。 「ああ、知らぬのか」 御簾の内で影が動いた。それに反応するかのように、『マロ』の前の空間にウィンドウが浮かぶ。
2016-05-29 21:16:05まぁ、元々マロ氏は徳技術の研究者であって宇宙は完全に専門外だし、それも徳カリプス前の時点でわりとドロップアウトしてた感じだったもんねぇ。世間一般で知られている以上のことは知らんわなぁ #徳パンク
2016-05-29 21:18:19現れたのは、複雑怪奇に入り組んだタイムテーブル。十年単位の指標(スケール)。明らかに、人の手におえるものではない。 「証拠を先に見せた方が、理解しやすかろ」 「これは、何でおじゃるか」 これは、工程計画表だ。それも、得体の知れない『何か』を作り上げるための。
2016-05-29 21:20:05刻まれた日付は、今よりも百年以上昔。 「『船体』の建造は、最終的に木星圏の独立機関で行われていた。知らぬでも無理はない」 「完成……していたでおじゃるか」 「とうの昔に旅立った、という方が正しかろう」 それは、巨大な『船』の図面だった。
2016-05-29 21:24:02『マロ』の指は、目の前のモニタを滑り。そして、画面上の一箇所で止まった。 そこには、『第一計画 次元階差機関セクション』と確かに刻まれている。 「……そんな、ことが」 そんな、馬鹿なことが。 『マロ』は絶句する。この船は、『徳ジェネレータでは動いていない』。
2016-05-29 21:32:09己の知らぬうちに、人類は一体何を作り出していたのか。それを彼が正しく把握する暇すらなく。 「これで、判ったであろ」 『マロ』の前からモニタは消える。 徳エネルギー以外の可能性、それが彼女を駆り立てる希望の正体なのだろう。だが、 「……木星圏の施設を、掘り起こす気でおじゃるか」
2016-05-29 21:38:06再び、宇宙へと進出しようというのか。それには、どれ程のリソースを投じれば良いのか。『マロ』には想像すら及ばぬが、決して軽い対価ではあるまい。 「目指すべきは南極。そこに、プラン・ダイダロスの旧拠点が存在する」 しかし、エミリアが口にしたのは別の目的地だった。
2016-05-29 21:40:55かつて放棄された木星圏にある宇宙施設の再稼働。少なくとも徳エネルギーが確立する前の段階で人類はそこで暮らせていたわけだけど…… #徳パンク
2016-05-29 21:41:19