ニンジャスレイヤー二次創作【テンダー・ホワイト・ドラゴン・アンド・ブルタル・レッド・ブラック・ドラゴン】エピローグ

プロキオン @MMMwithbe

【テンダー・ホワイト・ドラゴン・アンド・ブルタル・レッド・ブラック・ドラゴン】エピローグ #sansita_nj

プロキオン @MMMwithbe

ペクヨンとの死闘の翌日。真昼にもかかわらず、ネオサイタマの空は重くねっとりとした灰色の雲に閉ざされ、退廃のメガロポリスに重金属酸性雨が弱く降り続く。マルノウチ・スゴイタカイビル屋上、シャチホコ・ガーゴイルの上に赤黒の人影あり。爪先立ちで座り、ガーゴイルと同化したかのように動かぬ。

プロキオン @MMMwithbe

この場所で幾多のニンジャの襲来を待ち受け、その首を刎ね、シャチホコ・ガーゴイルの口内に詰め込むことを、ニンジャスレイヤーは亡き妻子へのセンコ代わりとしてきた。だが今、彼は灰色の都市に蠢くニンジャの気配を探るわけでもなく、自動車や電車の流れをうつろに見下ろすばかり。

プロキオン @MMMwithbe

つい数時間前、早朝の出来事を、彼は思い返していた。暗黒非合法探偵イチロー・モリタとしての「結果報告」を。 ――――――――――――――――――

プロキオン @MMMwithbe

カスミガセキ区のとある高級ホテル、早朝。ペク・ミナは、ドアをノックする音で目を覚ました。「おはようございます。朝食をお持ちしました」ボーイの声。二人の息子は別のベッドで熟睡している。髪をまとめ、ローブの裾を確かめて、覗き穴から外を見る。ワゴンを押した制服姿のボーイ。ドアを開ける。

プロキオン @MMMwithbe

しかしワゴンを押して入ってきた男性の装いは、トレンチコートにハンチング帽であった。「……モリタ＝サン……!?」ミナは絶句する。覗き穴から見たときは確かにボーイの制服であったはず。わずか1秒あまりの間に何が……いや、それ以前に、彼には宿泊先までは伝えていないはず。それが何故ここに？

プロキオン @MMMwithbe

「ドーモ、オハヨゴザイマス、ミナ＝サン。このような唐突な形でスミマセン。どうしても、緊急でお伝えしなければならないことがありましたので」モリタはオジギした。そして、小さく透明なプラスチックケースをミナに差し出した。

プロキオン @MMMwithbe

「ドーモ……ッ!?」ミナはケースを開け中身を見た。そして再び絶句した。「こ、これ……は……!?」銀色のネックレスチェーンと、形の歪んだ指輪。ドージョーでの指導の際には、ファランはいつもマリッジリングをこうして身に着けていた。裏側の刻印も間違いなく彼のものであることを証明している。

プロキオン @MMMwithbe

「ドージョーのジアゲ・ビズを企んでいたヤクザを特定し、一掃しました。もう門下生の皆さんが襲撃されることはありません。……ですが、その最中に……チャン・ヨンソン＝サンと、ご主人が……命を落とされました。……スミマセン」モリタは沈痛な表情で再びオジギした。

プロキオン @MMMwithbe

ミナは顔色を失い、蹌踉めいて壁に手をついた。「そんな……どういう……どういうことですか！　説明して下さい！　モリタ＝サン！　いったい誰が……誰が、ファランを……夫を……!?」「……前金は全てお返しします。もう、お会いすることもありますまい。オタッシャデ。……本当に、スミマセン」

プロキオン @MMMwithbe

手の中の歪んだ指輪に視線を落としたミナが次に顔をあげたとき、そこにはもうモリタの姿はなかった。そうだ、家に電話を。ホテルの内線電話から自宅へかけようと、受話器に手を伸ばす。TRRRR。電話が鳴った。「アイエッ!?」ビクッと身をすくめ、それから恐る恐る、受話器を取る。

プロキオン @MMMwithbe

「ドーモ、オハヨゴザイマス。フロントです。ネオサイタマ市警コクボ署のタカハシ＝サンという方から、お客様にお電話が入っております。お繋ぎしてもよろしいでしょうか？」「ハ、ハイ……オネガイシマス……」警察？　ミナの心をさらに不安が覆ってゆく。指が白くなるほどに受話器を握りしめる。

プロキオン @MMMwithbe

「ドーモ、オハヨゴザイマス。コクボ署のデッカー、タカハシです。ペク・ミナ＝サンですか？」「ドーモ……そうですが、警察の方が、何か……？」「ご主人の、ペク・ファラン＝サン、あの有名な格闘家の方ですよね？　行き先にお心当たりはありませんか？　お宅のドージョーの火災報知器が……」……

プロキオン @MMMwithbe

――――――――――――――――――

プロキオン @MMMwithbe

ニンジャスレイヤーは爪先立ちで座り、シャチホコ・ガーゴイルと同化したかのように動かぬ。慌ただしく一方的な「結果報告」。仮にも探偵と名乗る者のすることではないと、自分でもわかっていた。彼の知る本物の探偵ならば、ニンジャスレイヤーの襟を掴み上げ、頬の一つも殴り飛ばすだろうか。

プロキオン @MMMwithbe

だが、ミナにどこまで真実を伝えるか、それもまた極めて困難な判断であった。ドージョー門下生がニンジャに襲われた可能性は感じていても、よもや最愛の夫やその盟友が、ドージョーを守るためには直接関係ない一般人の殺害をも厭わぬニンジャであるなどとは、彼女は全く想像だにしていないのだから。

プロキオン @MMMwithbe

ペクヨンは言った。「死が私たちを分かつまで、この事実を伝えるつもりはありません」と。回収した「跆」「拳」と神秘的トモエ図形のメンポは、それと分からぬよう破砕し、クズ鉄輸送車の荷台に投げ込んだ。ミナと彼女の息子たちには、ペク・ファランがニンジャであったことは伝えぬのが得策と考えた。

プロキオン @MMMwithbe

これから、最愛の夫を失ったミナは、大切な父を失った二人の息子は、どのようにこのネオサイタマで生きてゆくのだろう。常識を超えたニンジャの力を得た己は、最初は復讐のため、今はアマクダリの暴虐を阻止するために、カラテを振るう道を選んだ。だが、力持たぬモータルである彼女たちは？

プロキオン @MMMwithbe

コラテラル・ダメージ。目的のためには仕方のない犠牲。……それで良いのか？　ソウカイ・シンジケートとの戦いでも、ザイバツ・シャドーギルドとの戦いでも、多くの無辜の市民がニンジャのイクサに巻き込まれ命を落とした。イクサの結果として、日本国やキョート共和国の社会状況は激変した。

プロキオン @MMMwithbe

昨夜ペクヨンと戦ったこと自体に後悔はない。彼は「貴方を殺す」と言った。生存のために、己の目的を貫くために、イクサを行い、生き延びた。――依頼人の夫の命を奪って。感傷が、重苦しく、ニンジャスレイヤーの心にのしかかる。人間を人間たらしめる感傷が。……イクサオニにはなりきれぬ。

プロキオン @MMMwithbe

(((グググ……何を迷うことがある、フジキドよ……)))　いつしかフジキドの視界には、灰色のメガロポリスと入れ替わるように、赤々と煮えたぎるジゴクめいた溶岩の海が広がっていた。爪先立ちで座っているのは、ヤグラめいて高く切り立った黒い岩。ニューロンの奥底から響く、しわがれた低い声。

プロキオン @MMMwithbe

(((殺せ、殺せ、フジキドよ……その憎悪のままに、全てのニンジャを殺し尽くせ……そのためならば儂も助力は惜しまぬぞ……グググググ……！)))　いつもの手口であった。憎悪を焚きつけ、ナラク・ニンジャの殺意をフジキドのそれと錯覚させ、サツバツに走らせようとする。なんたる邪悪！

プロキオン @MMMwithbe

(((オバケめ……オヌシの舌先三寸には乗らぬ。私は、私の意志において戦う。手綱を取るのは私だ！)))(((何を生温いことを……妻子を殺された憎悪こそ、貴様のイクサの根源ではないのか？　忘れたか！　既に貴様は「ニンジャスレイヤー」、ニンジャ殺しのニンジャよ!!)))

プロキオン @MMMwithbe

「黙れナラク!!」フジキドは思わず叫んでいた。物理的に。(((グググ……憎悪こそ我らが力、我らが意志そのもの！　認めよフジキド！　我らが進む道には屍の山が、流血の河ができよう、それがどうした？　モータルの巻き添えなど、取るに足らぬ些事に過ぎぬわ！)))

プロキオン @MMMwithbe

(((殺せ、殺せ、憎悪のままに……！　グググハハハハハ……!!)))　邪悪な愉悦に満ちた哄笑を残し、ナラク・ニンジャの禍々しき意志はニューロンの奥底に溶けた。ブラッドバス・ジゴクめいた溶岩の海はフジキドの視界から薄れ、のっぺりとして彩度の低い、灰色のメガロポリスに取って変わった。