セイバー提督と神通さん【第２話】

深海さかな @dzurablk_kai

『とどめだ、神通』 「はい！！」 壁に寄りかかるようにして、遺された左腕でハウルショットガンを乱射するケーファー だが神通はアサルトチャージャーの起動と解除、その度のマニュアルによる転舵を繰り返しことごとく避けながら距離を詰める #私の彼はブラストランナー

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ケーファーのパイロットが最期に見たものは、碧色に輝く刀身を振りかざして斬りかかった敵機が放つ、漆黒の中に一点だけ輝いた真っ赤な頭部のモノアイだった #私の彼はブラストランナー

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「あーもー、汗だくだし最悪ー！！」 鎮座したケーファーの周りで座り込み息つく駆逐艦たちを見やりながら、先程まで神通と激しく撃ち合っていた那珂が、けらけらと笑う川内に連れられてセイバーへと歩み寄る 「ありゃー、那珂が下手くそなんだよー」 #私の彼はブラストランナー

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「乗れって言ったのはお姉ちゃんでしょ！？ しかも何よあの機体！ 武装は攻撃偏重だし、機体は重いし武器の癖も強くて、乗れたもんじゃないじゃん！！」 「そこは乗り手の腕かなー？」 言い合う二人の前にコックピットから飛び降りた神通は、 #私の彼はブラストランナー

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「ほい、神通もお疲れ」 川内から投げて寄越されたタオルとペットボトルを片手で受け取ると、汗を拭いながら一息に半分ほど飲み干した 「神通ちゃん、なんであんなに強いのよー！」 「愛の力じゃない？ ダーリンとの」 それを聞いた神通がスポーツ飲料でむせ返る #私の彼はブラストランナー

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「ねねね、姉さん！？」 「いやそりゃー、そうでしょ あんなに提督と仲よさげに乳繰りあっちゃって」 セイバーの方を見上げる川内は「提督」の部分にアクセントを置きながら、意地悪そうな笑顔を浮かべる 「コックピットの中で変なことしてなーい？」 #私の彼はブラストランナー

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『川内お前、最近随分と口が達者になったもんだな 誰かさんに似て』 セイバーの方から聞こえる神谷の声が、顔を真っ赤にして俯く神通に助け船を出す 『隊長そりゃ無いっすよ！』 返すはケーファーから聞こえる神谷のかつての部下、佐藤の声 #私の彼はブラストランナー

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一度戦場で命を落としかけ記憶をブラストに転送した神谷と佐藤の二人は、所謂リビングアーマーそのものとして、今は川内や神通たちと同じ大湊警備府で1つ屋根の下暮らしているのだ 『これでまた黒星だ お前の機体にキルマーク刻んでやろうか？』 『勘弁してください』 #私の彼はブラストランナー

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セイバー神谷とケーファー佐藤が着任してから、大湊も大きく変わった 戦車と歩兵よろしく、艦娘とブラストの同時展開で深海棲艦の迎撃率は飛躍的に上がり、またブラストを駆る神通や川内の練度も上がっている 今日の駆逐艦娘とブラストの戦闘も、その演習の一環だった #私の彼はブラストランナー

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すでに北海道が深海棲艦に落とされている以上、大湊警備府を取り巻く情勢は決して明るいものではない だがそれらを支えながら部下の駆逐艦たちを無為に失うことを防げているのも、警備府の指揮を執っている神谷と秘書艦神通の功績による所が大きかった #私の彼はブラストランナー

深海さかな @dzurablk_kai

「神谷さん、ただでさえ戦闘も慌ただしいのに警備府の運営まで、大変ではないですか？」 神通はふと思い出したようにセイバーに問いかけた 『いや、私が最先任だからな、ここでは』 「でも・・・」 『神通は嫌か？』 「そ、そんな！」 #私の彼はブラストランナー

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神通が口ごもる理由を神谷はよく知っていた 「でも、身体は一度命を落としているのにまだ戦う理由は・・・」 それを口に出さないのは神通の優しさだった 『私は神通といられればそれで満足だよ』 そしてまた、その言葉に顔を上げた神通が嬉しそうに顔を綻ばすのも #私の彼はブラストランナー

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「ほらー、やっぱりラブラブじゃん」 「神通ちゃんみたいに旦那さんができたら、私も操縦の腕が上がるのかなー？」 『いやぁ、こんなアベックは見ていて照れますねー！』 一斉に茶化す二人と一機、それに猛烈に照れ出す約一名 『佐藤、単語のチョイスが親父臭いぞ』 #私の彼はブラストランナー

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『うげ』 『そんなだからお前は彼女の一人もできないんだ 少しは見習え』 『そ、そんなことはないよなぁ川内ちゃん！？』 だがケーファーの視線の先で川内と那珂の背中が遠ざかる #私の彼はブラストランナー

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「あーあー、衣装もこんなに汚れたし もう私ブラスト乗んなーい！」 「あ、深雪お疲れー ちょっと明石さんに伝言頼まれてくれる？ あそこにある重ブラスト、別に急ぎで使う予定もないから何日か雨ざらしでもいいよ、って」 『お、おいおいおい！？ 修理は！？』 #私の彼はブラストランナー

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「え、壊れないのかって？ あー大丈夫大丈夫！ 一部機能停止してるとはいえ雨に濡れたくらいじゃ壊れないから！ 少し野外に放置した方が、少しは頭も冷えるでしょ」 『おいぃ！？ そうだ、神通ちゃんと隊長！！ 二人なら・・・！！』 #私の彼はブラストランナー

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『さて神通 帰って飯にするか』 「はい 提督に補給もしなきゃいけませんし」 『そうだな アホは置いて早く帰ろう』 「セクハラブラストにはいいお仕置きです」 『いやなんでそんな逞しくなってんの！？ ついさっきまで花も恥じらう乙女だったよね君！？』 #私の彼はブラストランナー

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破損で動けないケーファー、もとえ佐藤を残し、散り散りに演習場の廃墟を後にする艦娘たち 『いやほんとセクハラはしないしもっと真面目に戦うから！！ お願い、置いてかないでぇぇぇぇ！！！』 コンクリートジャングルに佐藤の声はいつまでも木霊するのだった #私の彼はブラストランナー

深海さかな @dzurablk_kai

その日の深夜 忘れ物をした神通が格納庫へ入ると、小さな電子音が耳に届いた 音源の方向は、今やすっかり乗りなれた「愛機」、セイバー 演習後数時間してから、なんとか回収だけはしてもらえたケーファーの横を通り抜け、神通はセイバーに近付く #私の彼はブラストランナー

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お仕置きと称して川内が整備を明日に回したケーファーとは対照的に、演習の傷や弾痕もすっかり直され新品同様の輝きを放つセイバーには何本ものケーブルが繋がれ、頭部のカメラには電算処理を示す数多の光が横に流れている 「提督・・・？」 #私の彼はブラストランナー

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神通の声に、カメラを操るモーター音が答える 「まだ起きてらっしゃったんですか？」 『ああ、少し警備府の仕事をな』 「もう、いつもそうやって夜更かしばっかり」 神通が朝執務室に行くと、いつも書類仕事の類いは終わっているのが日常だった #私の彼はブラストランナー

深海さかな @dzurablk_kai

「提督も早く寝てください」 その言葉に、いつもは歯切れのいいセイバーのスピーカーが珍しくどもるように沈黙した 『・・・ああ、まだ言ってなかったか』 神谷の声はどこか暗い 『この身体では、眠る必要はないんだ』 神通は絶句する #私の彼はブラストランナー

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最近はセイバーと人間のように付き合っていて、そんなことも忘れていた なんて無神経なことを言ってしまったのか、そもそも神谷がこんな姿になったのも神通を庇ってのことだと言うのに 「ごめんなさい、私・・・ 私・・・」 『別にいい、今更気にしては・・・ #私の彼はブラストランナー

深海さかな @dzurablk_kai

あーほら泣くな 美人が台無しだろ、全く』 神谷は機体の背面に繋がれたケーブルを、右腕を駆動させて抜くと、近くに干してあった神通のタオルを器用につまみ差し出す 『まるで佐藤みたいな言い草だ あいつの口癖が移ったな』 その言葉に神通も目元を拭いながら微笑む #私の彼はブラストランナー

深海さかな @dzurablk_kai

「セクハラする人は嫌いです」 『神通に嫌われちゃ大変だ』 「・・・嘘です 提督にだったら、その、少しくらい・・・」 神谷はこのときほど人の身体を失ったことを悔やんだことはなかった 目の前にいる神通は、こんなに、それこそ今すぐ抱き締めたいほど愛らしいのに #私の彼はブラストランナー