若き名将と罠を張る女#2 戦いの行方◆2(終)
_戦闘魔術師のギリは静まり返った丘の上へとやってきた。血なまぐさい匂い。蠅の飛ぶ音。辺りには兵士の死体。それは両軍のものだが、ギェス軍側の方が多く思える。戦車の破壊は1両、完全な勝利と言えよう。 ギリは満足げに捕らえられたセリル将軍を見下ろした。 41
2016-06-16 19:45:56「セリル、あなたともあろうものが、こんな初歩的な包囲戦術に対応できないなんてね。買いかぶりすぎたかしら?」 返事はない。自尊心と冷静さを砕かれ、セリルは完全に何も考えられなくなっていた。そもそも、最初から冷静な状況ではなかった。 42
2016-06-16 19:50:42_この場に連れてこられた女官が一人。フレイメアだ。 「ご無事……でしたか」 縄で縛られ、いつもの静かな声が悲哀に歪んでいる。 「何か言いたいことがあるようだぞ」 ギリはそう言ってフレイメアに台詞を促した。フレイメアは地面に膝をつく。 43
2016-06-16 19:56:47「お願いです。わたくしの命をかけます……どうか、セリル将軍を助けてください」 それを聞いて、セリルは焦りの表情を浮かべる。 「そんなことはするな! 俺には何の価値もない……」 セリルとフレイメアは見つめ合う。確かな信頼があるのだろう。ギリは冷めた目で見ていた。 44
2016-06-16 20:02:23「セリル将軍は価値のあるお方です! 今回は、ただ……状況が悪かっただけです。あなたのせいではありません。どうか、どうか生き延びてください……」 「フレイメア……ありがとう……そこまで俺のことを……」 ギリは静かに、二人の処分を告げた。 45
2016-06-16 20:09:25「敗戦の将に価値などない。殺すこともないだろう……お前たちを含め、捕虜は釈放してやる」 「ありがとうございます!」 「感謝する……」 涙を浮かべてセリルに寄り添うフレイメア。ギリはため息をついた。 46
2016-06-16 20:15:40_セリルとフレイメアは拘束を解かれ、しっかりと抱き合った。 ギリは見た。セリルからは見えないフレイメアの笑顔。命が助かった嬉しさの表情でも、セリルを救えた安堵の笑顔でもない。自らの汚い欲望が叶えられた笑顔だ。 「どこへでも行け。国には帰れないかもしれないが」 47
2016-06-16 20:21:56_肩を寄せ合い去っていく二人を見送った後、ギリは陣地に帰還した。満足げな司令官が出迎える。ギリは結果を報告し、骨と皮で作ったかのようなみすぼらしい椅子に座る。 地下の作戦会議室には司令官の吸う煙が充満していた。ギリの巻き起こす魔力の風が、煙を渦のように動かす。 48
2016-06-16 20:28:18「なるほど、確かに正面から戦うだけではなかったな」 「あの将軍はもう再起不能ですね、完璧に叩き潰してあげましたもの。それに、国に戻らないように言ってありますし、そこまでが契約ですから。後の都市攻略は幾分か楽になりました」 ギリは得意げに言う。 49
2016-06-16 20:33:53「それで幾分か予算が欲しいと言っていたのは何の話だったか」 司令官はふーっと煙を吐いて、上機嫌に言う。ギリは煙を巻き上げて竜巻を作って遊んだ。 「なぁに、ただの謝礼金ですよ。あの女に当面の暮らしの分のお金を渡しておきませんとね。契約ですから」 50
2016-06-16 20:41:10【用語解説】 【都市国家ギェス】 エシエドール帝国時代に工業都市ニェスの北に存在した都市国家。ニェスの盾となって戦い続けたが、ニェスもまた南から来る敵との戦いで消耗しており、援軍はろくに来なかった。結局ギェスは滅び廃墟となり、ニェスも弱体化した所を魔竜に占領され滅びる
2016-06-16 20:47:31【次回予告】 ダンジョンに絨毯を敷いて露天商売をする少女レェラ。開業支援団体のサポートで開業したはいいものの、ちっとも商品が売れず、困った所に専門家の先生が現れて… 次回「ダンジョン儲かってますか?」 全50ツイート予定。実況・感想タグは #減衰世界 です
2016-06-16 20:53:28