お爺ちゃんの艦隊これくしょん

モデルは最初期イベント
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劉度 @arther456

「お爺ちゃん、私が用意しますから、ちょっと待ってて下さいね」「ぬう」隣にいた若い女性が老人をなだめる。どうやら世話役らしい。「もうなんでもいいですけど、危険ですから、早く艦内に避難して下さい。お爺さん、ちゃんと見てて下さいね?」「分かりました」女性が船内に老人を連れていった。23

2016-06-18 22:06:10
劉度 @arther456

ボートは残り二隻。避難誘導は順調だ。むしろ、順調すぎるのは困るぐらいだ。姫が倒されるのは時間の問題。戦闘が終われば、島民たちを帰さなくてはならない。二度手間だ。だが、何もないならやっぱりそれが一番である。「提督!」「なに?」「前線が突破されました!」「……はぁ!?」24

2016-06-18 22:09:06
劉度 @arther456

提督は耳を疑った。前線を固めるのは10艦隊、60人以上の艦娘だ。こんな短時間で倒されるはずがない。「前線はなんて言ってる!?」「それが……皆、見失ったと」説明を聞くと、ますます訳が分からなくなった。「見失ったって……そんなわけないでしょう!?何人いると思ってるの!?」25

2016-06-18 22:12:06
劉度 @arther456

「お嬢さん、茶はないかのう?」「お爺さん、中に戻っててね!残りのボートの収容急いで!艦娘隊は洋上に展開、周囲を警戒して!」提督はとにかく目に見える問題を片付けることにした。ボートを引き上げ、島民を艦内に押し込み、出航準備を整える。26

2016-06-18 22:15:07
劉度 @arther456

「避難民の収容、終わりました!」妖精さんが叫んだのは、20分後だった。「よし、出航!総員戦闘配置!逃げるよ!」「了解!」提督たちはタラップを駆け降り、司令室へ向かう。「提督さん!吹雪の艤装はありますか!?」途中、大臣に付き添っていた艦娘の吹雪が声をかけてきた。27

2016-06-18 22:18:02
劉度 @arther456

恐らく自分も艤装を身に付けて、警戒網に加わろうと言うのだろう。気持ちはありがたいが。「ごめん、艤装が無い!今積んでるのは、ウチの艦娘の分と、ラバウルに持ってく水上機母艦だけだ!」「……失礼しました!」吹雪は駆け去った。今の彼女では力になれないことを、分かってくれたようだ。28

2016-06-18 22:21:03
劉度 @arther456

「提督!後方に敵影!例の姫です!」指令室に入った提督は、早速嫌な知らせを聞いた。「なんでこう、タイミングの悪い……!」《先制しますか?》「待 って!前衛が全員無視されてるなら、下手に刺激しないほうがいいかもしれない!」今の『蔵王』は避難民を乗せている。無理はできない。29

2016-06-18 22:24:03
劉度 @arther456

『蔵王』は増速しながら、後方の姫の様子を見守った。姫は1体。艦載機は無い。しかし、肩に大砲がある。ドゥン!砲声が響く。「……ッ!」乗組員の顔が強張った。無情にも、『蔵王』の右側舷を水柱が揺らしたのだ。「……迎撃!迎撃ーッ!」たちまち、護衛の艦娘たちが攻撃を開始した。30

2016-06-18 22:27:03
劉度 @arther456

彼我は既に砲戦距離。無数の砲弾が姫に襲いかかり、その姿を水柱の向こうに隠す。敵は避ける素振りも見せなかった。いくらなんでも、数発は命中しているはず、と提督が思った矢先だった。「……んなっ!?」再び見えた姫の姿に、提督は驚愕した。無傷。31

2016-06-18 22:30:11
劉度 @arther456

姫は更に距離を詰めてくる。『蔵王』が全力で逃げても振り切れない!ドゥン!今度は両舷から挟みこむような揺れ。夾叉だ。このままでは、いつか当たる。「どうする……クソッ!」「おい、茶は無いか」「ほあっ」後ろから声。振り返ると、船室に押し込んだはずの着物の老人がいた。32

2016-06-18 22:33:05
劉度 @arther456

「お爺ちゃん!だからお茶は後にしてって言ってるでしょ!?つか、この非常時にCICに民間人入れたの誰!?」「ワシじゃ」老人の後ろから、冴えない顔がひょっこり出た。海軍大臣である。「大臣!?それなら……いやいや、ダメです!何考えてるんですか!?」33

2016-06-18 22:36:03
劉度 @arther456

「いや、通信機をひとつ、貸してもらおうと思って」「後にしてください!」「でも今、出撃してるし。通信できないとまずくない?」「……出撃?」《旗艦、応答願います。こちら千歳》知らない声がインカムから聞こえてきた。「誰!?」慌てる提督を横目に、老人が提督の通信機をひったくった。34

2016-06-18 22:39:03
劉度 @arther456

「俺だ。敵は見えるか?」《ええ。5海里先から、動きません》「……なるほどのう」老人の見るモニターには、こちらを猛スピードで追いかける敵の姫が映っている。「何がなるほどですか、早く出て行って下さい!」「そう焦んな、若いの」「焦んなって、何様のつもりですか!?」35

2016-06-18 22:42:04
劉度 @arther456

「元帥」「え?」「日本新海軍元帥、テルヒトだ。何か文句あるか?」数秒、提督は固まった。それから、ギギギ、と油が切れた機械のように、震えながら大臣を見た。「本当、ですか」「うん。言ってなかったっけ?」もちろん、この老人が新海軍最初の元帥など、誰も聞いていなかった。36

2016-06-18 22:45:07
劉度 @arther456

【お爺ちゃんの艦隊これくしょん】 後編

2016-06-19 21:02:18
劉度 @arther456

久しぶりの潮風を胸一杯に吸い込む。海の薫りが、千歳の胸一杯に広がる。鼓島では海の目の前に住んでいたが、やはり洋上は違う。魂が洗われるかのようだ。艦霊と結びついて離れなくなった、千歳の魂が。この感慨は、軍を退いた今となっても変わらない。1

2016-06-19 21:03:03
劉度 @arther456

その一方で、8年前とは変わったものもある。「最近の艤装は、簡単に付けられるのね」身に纏った艤装をしげしげと眺める。彼女と元帥が現役だった頃、艤装といえば機械化した体に取り付けるものだった。それが今では鎧のように身に纏える。少し目を離しただけなのに、目覚ましい進歩だ。2

2016-06-19 21:06:12
劉度 @arther456

《おう、大丈夫か?》通信。元帥の声だ。「平気ですよ。動き方は変わりません」千歳は背負ったカタパルトに念を注ぐ。格納庫内の式神がそれに応じ、水上機となって空に舞い上がった。遠方の深海棲艦に向かう。「やっぱり、追いつけませんね」しかし、飛行機でも姫に近付くことができない。3

2016-06-19 21:09:05
劉度 @arther456

《懐かしいのう。あやつが、帰ってきたのか?》「閣下、あの姫はもう倒したでしょう?同タイプなだけですよ」《それもそうか。カカカ、年食ってボケた かなぁ、こいつは!》話している間に、姫はどんどん近付いてくる。だが、追っているはずの水上機は、姫に追いつけない。4

2016-06-19 21:12:07
劉度 @arther456

ドゥン!棲姫が砲撃!遠い。千歳は焦らず、余裕を持って避ける。その隙に、棲姫は千歳の横を通り抜けた。「やっぱり」千歳は確信した。あの姫には、存在感がない。《抜かれたか?》「ええ」《よし、釣れたな。やれ》先を進む姫の足元から、突然爆炎が立ち上った。5

2016-06-19 21:15:08
劉度 @arther456

「ガァァッ!?」今まで無言だった姫が、痛々しい悲鳴を上げた。「お見事です、甲標的艦の皆さん」千歳が操っていた、特殊兵器・甲標的艦。待ち伏せから魚雷を放つ、有人機雷の式神だ。あらかじめこの式神に魚雷を装填し、後方に待機させていたのだ。目論見は見事に命中した。6

2016-06-19 21:18:03
劉度 @arther456

姫が初めて足を止めた。機を逃さず、水上機が姫の頭上にたどり着き、急降下爆撃を仕掛ける!「グウウッ……!」魚雷にも劣らない爆発に、姫が顔を歪める。《おい、その瑞雲、そんなに強かったか?》「新型ですよ、閣下」瑞雲12型。千歳たちが現役だったころはなかった装備だ。7

2016-06-19 21:21:02
劉度 @arther456

姫の体が、乱れた映像のようにブレた。すると、さっきまで無かった存在感を感じ取ることが出来た。以前と同じだ。今、あの姫は、あの場所にいる。《よぉーし、捕らえたか》「どうします?」《決まっとる。全艦、突撃じゃあ!》8

2016-06-19 21:24:02