お爺ちゃんの艦隊これくしょん

モデルは最初期イベント
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劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2016-06-18 21:01:17
劉度 @arther456

【お爺ちゃんの艦隊これくしょん】

2016-06-18 21:02:14
劉度 @arther456

鹿児島県鼓島。人口50人にも満たない、小さな島である。珍しいものは何も無い、典型的な過疎の島だ。深海棲艦の侵攻により、この島も一度は避難指定を受けたものの、戦況が好転したことで島民も帰ってきた。そんな帰島者に紛れて、ひとりの老人が村はずれに住み着いた。1

2016-06-18 21:03:03
劉度 @arther456

島民たちは彼を気にしなかった。深海棲艦に壊された日々の生活を立て直すのに必死だったし、老人に特に怪しい様子もなかったからだ。唯一変わったところといえば、世話役らしい1人の若い少女が、一緒に住んでいることぐらいだった。2

2016-06-18 21:06:09
劉度 @arther456

「千歳、道治はまだかのう?」老人が傍らの少女に問う。「そうですねえ。定期便は着いたしそろそろだと思うんですけど」着物を畳みながら、千歳は家の門の方を見た。「あ、来ましたよ」港の方角から誰かが歩いてくる。冴えない顔の初老の男性と、ビニール袋を提げたセーラー服の少女だ。3

2016-06-18 21:09:06
劉度 @arther456

「おいすー」垣根越しに、男性が気軽に挨拶してきた。「千歳さん、お久しぶりです!」「ふふ、久しぶり。吹雪ちゃんも龍堂さんも元気そうね」千歳と吹雪が挨拶する間、龍堂はさっさと家に上がって老人の隣の座布団の上に座った。勝手知ったる、といった感じだ。4

2016-06-18 21:12:07
劉度 @arther456

「あ、これお土産のネオユウバリメロンです!召し上がって下さい!」吹雪が手にしていたビニール袋を千歳に差し出す。「まあ、わざわざ北海道から?」「はい!知り合いの提督さんが送ってくれました!」千歳がメロンをポンと叩く。よく熟れているようだ。5

2016-06-18 21:15:08
劉度 @arther456

一方、老人二人は近況を語り合っている。「目を悪くしたって聞いたけど、大丈夫かい?」「昔みたいに夜目は利かなくなったのう」「そかー。老眼鏡なら、いい店を知ってるんじゃが」身なりの良い老人二人が、縁側でのんびり話しているのは、平和ではあるがどこか食い違っているところもあった。6

2016-06-18 21:18:04
劉度 @arther456

「それじゃあ私は、メロンを切ってきましょうか」千歳はネオユウバリメロンを手に、台所の方に行った。「そうじゃ。前の碁の続き、やるかい?」「おうおう、そういえばそうじゃったのう」「吹雪ー、碁盤運ぶの手伝ってー」「はい!大臣!」吹雪も部屋に上がり、大臣の後ろについて部屋の中に入った。7

2016-06-18 21:21:03
劉度 @arther456

「これじゃ。崩さんように気をつけてな?」「これですね……って、え?」碁盤を見た吹雪は目を丸くした。碁盤の上に、碁石が乗っている。それは当然だ。だが、一緒に将棋の駒も乗っている。「あの、これって……」吹雪の言いたいことを大臣は察したようで、ややバツの悪い顔をした。8

2016-06-18 21:24:06
劉度 @arther456

「いやー、ワシは碁をしたかったんじゃがのー。なんか気付いたら将棋も始まってて……」世にも奇妙な囲碁将棋である。「ルールとかどうしてるんですか?」「その場のノリで」「ノリ!?」驚きながら、吹雪は老人の前に碁盤を置いた。「よぉーし、やろうか」老人は盤面に疑問を持っていない。9

2016-06-18 21:27:04
劉度 @arther456

「あの、大臣。病院に連れて行ってあげたほうがいいんじゃないですか?」小声で問う吹雪に、大臣は答えた。「連れて行った結果がこれじゃよ」ピシッ。ピシッ。碁盤を打つ景気のいい音が響く。老人の指し手には淀みがない。これが将棋の駒でなかったら、もう少しサマになっていただろう。10

2016-06-18 21:30:09
劉度 @arther456

ふと、老人が手を止めた。長考だろうか。吹雪に盤面は分からないが、老人が負けているようには見えない。どうしたんだろう、と吹雪が見守っていると、老人はぽつりと呟いた。「これ、将棋じゃないか?」「おじいちゃあああああん!?」11

2016-06-18 21:33:04
劉度 @arther456

「佐世保第14艦隊、鹿屋第5艦隊、交戦開始」「魔力反応は姫級のものとのこと。警戒レベルを引き上げます」鹿児島県と沖縄の間の海に、『蔵王』はいた。深海棲艦の巨大コロニーである沖縄から、強力な個体が出撃したとの知らせを受け、各鎮守府に出動命令がかかったのだ。13

2016-06-18 21:36:03
劉度 @arther456

輸送船団を護衛して南西諸島に向かう途中だった横須賀第33艦隊も、連絡を受け防衛線に加わった。ただし、元々護衛が任務だったため、本格的な戦闘を行えるような装備はない。そのため、『蔵王』は後方に下がり、海域の島民が避難するのを助けることになった。14

2016-06-18 21:39:04
劉度 @arther456

「鉢島の島民、収容完了しました」「よし。漁船団の護衛は?」「予定通りです」深海棲艦の襲撃から10年。襲撃に対するマニュアルは出来上がっている。島の漁船はあらかじめ割り当てられた島民を乗せて避難し、乗り切れなかった島民は軍艦に乗せてもらい後方へ逃げるのだ。15

2016-06-18 21:42:04
劉度 @arther456

「提督、佐世保鎮守府より入電です」「何?繋いで」佐世保はこの作戦の司令部だ。無視することはできない。「はい、こちら『蔵王』」《こちら佐世保鎮守府。『蔵王』、すぐに鼓島に向かってくれ》「鼓島?」提督は訝しんだ。鼓島は提督の持ち場から外れている。「何かあったんですか?」16

2016-06-18 21:45:05
劉度 @arther456

《海軍省から緊急入電があった。鼓島に、海軍大臣がいる》元帥の言葉に、提督はしばらく言葉を返せなかった。「……なんでですか?」《分からん》佐世保元帥も頭を痛めているようだった。《貴艦の担当は、鹿屋の船が引き継ぐ。貴艦は鼓島に急行し、そのまま戦域を離脱せよ」17

2016-06-18 21:48:07
劉度 @arther456

「了解」通信を切って、提督はクルーに命じた。「作戦変更!本艦はこれから鼓島に向かう!」「鼓島……?了解しました!」「提督、鼓島に何が?」後ろに控えていた不知火が尋ねた。「海軍大臣がいるらしい。何してんの、あの人……」「それは、由々しき事態ですね……」18

2016-06-18 21:51:10
劉度 @arther456

それから2時間後、『蔵王』は鼓島にたどり着いた。「収容開始!ロープ上げます!」側舷に取り付けられたクレーンが作動し、避難民を載せたボートを引き上げる。「前線の様子はどうなってる?」「哨戒部隊が敵を発見しましたが、見失いました。警戒レベルが上がっています」19

2016-06-18 21:54:05
劉度 @arther456

「大丈夫かな……」あの佐世保艦隊が主力である以上、前線が突破されるとは思えないが、万一ということもある。「第一陣、引き上げ完了」ボートが、甲板上に上がった。「足元に気をつけて下さい!」艦娘たちの誘導で島民が甲板に降りる。皆、不安そうな顔だ。20

2016-06-18 21:57:03
劉度 @arther456

「……いた!」到着から一時間、5度目の引き上げで、提督は目的の人物を見つけた。「大臣!」「おおう、ゆっちゃん!」この冴えない顔の50過ぎの男が、海軍大臣・龍堂道治である。「まーたみょんな所に現れて!」「やー、こんな所に深海棲艦が来るとはのー」「来ますよ!鹿児島ですよ!?」21

2016-06-18 22:00:21
劉度 @arther456

「お嬢さんや、茶はないかのう?」大臣の隣にいた、着物の老人が提督に訊いた。「……誰ですか?」「友達」「はぁ。ごめんなさい、お爺ちゃん。お茶は少し我慢して下さいね」「なんじゃ、茶葉を切らしてるとは。出納係は何やっとるんじゃ」22

2016-06-18 22:03:03
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