【キル・ザ・ユーサーパー】# 5
- 8jouhan_ns
- 1306
- 7
- 0
- 0
仲間も一人失っている。何者かの足音にハスカールは顔を上げた。「ドーモ、ビジュツケイです」男根を象った古代ギリシャ風の兜をつけ、絵筆を周囲に浮かせたニンジャ。「……ドーモ、ビジュツケイ=サン。ハスカールです」笑っているように、見える。「はじめまして」「誰だ」 15
2016-06-24 23:01:39「名乗った。名乗ったよね?」「あのジャリどもの仲間じゃないだろう」「なぜ?なぜそう思う?」ゆっくりとした足取りでビジュツケイはハスカールへ歩み寄った。「あいつらはもうここに用はないからだ。それにお前、この山ほどある彫刻、作ってきたな」ハスカールは距離を保つ。 16
2016-06-24 23:05:44こればかりは説明が難しい。彼にとって土は様々だ。同じ彫刻に見えても、土の産地がネオサイタマか岡山県か、あるいはドサンコ・ウェイストランドかでだいぶ違ってくる。いわば食べ物の舌触りが違うように、ハスカールはそれらを敏感に感じ取ることができるのだ。 17
2016-06-24 23:09:09この建物内の彫刻と、ビジュツケイのアトモスフィアは同じ。いわばソウルの痕跡ともいうものを感じ取ったのだろう。詳しいことは彼自身も判然としてはいなかった。「ウン」ビジュツケイは何かに納得するように呟く。「いい。いいね……答えてくれたから、私も答えよう」 18
2016-06-24 23:12:18「ここは我々のギャラリーの一つ。ヨウクミはいわば、ボディーガード。ハスカール=サンはその下請け。そういうこと、そういうことだね」『我々?』とハスカールは言おうとした。立っていたはずなのに、急に膝が折れ、気がついたときには地面を眺めていた。 19
2016-06-24 23:15:00「ドーモ、ハスカール=サン。アビスクロークです」深い紺色の装束を着て、仮面をつけた長身のニンジャが立っていた。しかしハスカールからは靴しか見えぬ。その声はワウがかかったかのように何度もディレイしていた。「一つは収穫がないとね……これなんか、あぁ、素敵じゃない?」 20
2016-06-24 23:17:43その右手には妖しく光る紫水晶が握られていた。恭しく跪くビジュツケイの前に、アビスクロークは紫水晶を見せる。昏い笑い声が耳に届く。「やめろ……」ハスカールは己の眼窩の奥から、何か闇が形どったものが生じるのが分かった。「……マサカツ……」 22
2016-06-24 23:20:34「マサカツ?マサカツ=サンと言うのかな?」うふふ、とまるで少女のようにアビスクロークは笑った。紫水晶の光は弱まっていく。「アカツ……カチハヤヒ……」かわりにハスカールの皮膚の下を、闇が食い荒らしていく。内臓、筋肉、骨の髄。行き場を求めて蠢いているのだ。 22
2016-06-24 23:24:26「!」アビスクロークは瞬時に紫水晶を投げつけジツで退避した。「ここは……吾の在るべき場では……」溢れかえったハスカールの黒い影はそれを柔らかく受け止め、彼の眼窩に押し込めると姿を消した。ビジュツケイは失禁し言葉を失い、インスピレーションが途切れぬうちに絵筆を握りしめた。 23
2016-06-24 23:26:52