遠くから聞こえ伝える噂が語る、かの将軍の最期は華やかに彩られている。真実とは遠かろう。けれど憧れた、憧れて「しまった」。泰平の世には到底起こらぬその物語がはじめから作り物であるのなら、嘘をもうひとつ付け加えることの何が悪い。どうせなにもないのなら、その物語がほしかった。
2016-06-22 22:26:10自らについた嘘が自らを作り替え、そして嘘であったことすら忘れるとも知らずに、無邪気に笑う。はじめは真似事、心のなかのごっこ遊び。そうして姿まで真似た頃、真似たことすら忘れて思い込む。ひとつの嘘、嘘の上に重ねた嘘は、それしかないという悲痛な叫びでもあったのだと、それすら忘れて。
2016-06-22 22:30:15「慕ったものはもうなしのつぶて、俺が願うものは叶わぬよ。急き立てられるように走ったことすらない、そんな俺は、あれが心底羨ましい」 「その身のひとかけらを俺におくれ。どうせすべて幻が上書きするのだから」 「愛しておくれ」 「情けがほしい」
2016-06-19 13:49:54「さて、どれだけ傲慢を振り撒けば気が済むのでしょうね。嘘八百だとあれも知っていましたよ。だから最期に言っていた独り言は、おまえに絶対に伝えてやらない」
2016-06-19 13:51:51「改めて仲良くしようか」そう言った。忘れていることに少し驚いたけれど、それでもまたやり直せるならそれでよかった。また仲良くなれるのだ。あの火の中で彼岸と此岸に別れ別れになったと思っていた。繋いだ手が振り払われた拒絶を今でも覚えていた。けれどもうそれすらなかったことになる。
2016-06-29 00:54:14だって骨喰は忘れているのだ。何もなくて、過去が戻ればいいと常日頃気にしているのだ。かつて俺と共にあったと、友であったとそう言って何が悪い。確かにそれは事実であったのだから。浮き立つ心を押さえつけ、喜びに微笑んで、寛容を演じる。ああ、ああ、また会えた。それだけの事実がとても嬉しい。
2016-06-29 00:57:45俺と共にいておくれ。なぁ、骨喰。そなたは彼岸から戻ってきて、今の俺は戦うことができる身だ。なら並び立って共に戦うこともできるだろう。それがとてつもなく嬉しいのだ。 はじめからない事実を思い出せるわけがないと、横で誰かが囁いたのは、聞こえない振りをした。
2016-06-29 01:01:10※ここより下は別の話というか行き止まりルート
「幾千の季節を使い捨て、時が真実を忘れたその時に、俺は恋に逢いに行こう」そうつぶやいて時を飛んだ。本来ならば存在しえなかった場所。二条の御所。絢爛の花が咲く将軍の居所。時は永禄。悲劇の直前。
2016-06-29 22:52:59だが歴史を変えようという気は欠片もない、あったら単身で飛んでいない。ただ、ただ、一目逢いたいひとがいた。一夜だけ夢を見たかった。今なら夢が叶うのだから。誰にも知られずただ一夜、月は夢そのものに成りに行く。
2016-06-29 22:55:59宝剣に紛れこめばその付喪神たちに異質を見破られるだろう。なら侍女に化けたら側にいられるだろうか。太刀は胸に抱えれば違和感もなかろうな。算段を付けて姿を変える。白の小袖に青の打掛、髪を長くして下ろせば、そこには貴人の側付の侍女がいる。
2016-06-29 23:03:45それで屋敷に紛れ込み、夜が来るのをじっと待つ。誘惑すればいい、自身の美しさは知っている。きっと一夜、最高の夢が見られる。そうして夢を見たら、あとかたもなく去ればいい。
2016-06-29 23:07:33名前、名前、聞かれたらどうしようか。照らす月で照月で、笑われたらどうしようか。名前もないのだから付けてもらうのもいい。無謀にも駆け出した考えは暴走する。
2016-06-29 23:15:56けれどそんなの人に触れられるのならどうということはなく、駆け出した想いは止まらない。遠巻きにされて置いていかれるくらいならば自分から逢いに行こう。
2016-06-29 23:21:53※ここまで別の話