2016空想の街氷涼祭(氷門旅館)

空想の街2016年7月。氷涼祭。 資料:http://www4.atwiki.jp/fancytwon/
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ろっか @rokkarium

銀子はいまでも思い出す。呂色と彼の花嫁が鳴り響く鐘び音に包まれみなに祝福される姿を。美しかった。色とりどりの花々が咲き乱れる中、純白で身を包んだ二人がたどたどしく手に手を取りながら歩いて行く姿は今まで見たどんな絵画よりも美しかった。#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 15:30:23
ろっか @rokkarium

「だけど銀子様が結婚することはなかった」「そうだなせずにすんだ」「まるでよかったことみたいに」「少なくとも私にとっては悪くない話だ」嫁ぎ先に向かうその道中で銀子を乗せた馬車は事故にあう。ひどい雨だった。急なカーブにさしかかったその時、馬車は崖下に真っ逆さま。#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 15:44:13
ろっか @rokkarium

最期に名前を呼ばれた気がしたがさだかではない。 「結婚が墓場とは聞いていたがまさかそこまでしっかり墓に入るとは思わなかった」「こんな大切な場面で笑わせないでください」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 15:48:29
ろっか @rokkarium

この街の人間は死んでしまったあとも氷涼祭には街へ戻ることができる。はじめての氷涼祭、銀子は特に何を考えるわけでもなく父母の元へと戻った。戻った屋敷にはこのまま飛んでしまえるのではないかというくらいの大量の風船。家族も使用人たちもみな歓迎してくれた。#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 15:59:52
ろっか @rokkarium

待っていたと抱きしめてそして、父は銀子に優しく告げるのだ。「さ、結婚をやりなおそうか」#氷門旅館 #空想の街 死んでしまった娘に、年に一度帰ってきてくれさえすれば嫁としての立場は全うできると、だから嫁げとそう言った。

2016-07-03 16:02:00
ろっか @rokkarium

「あれにはさすがに驚いた」「それでもいいというくらい銀子様のおうちは家柄が良くて、けれど経済的に少々傾いていた」「それからだよ。私が帰る場所をなくしたのは」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:04:31
ろっか @rokkarium

その年はそのあとうやむやに時間が過ぎ、消えてしまうというのに引き止める父親を振り払い空へと戻った。戻ってから気づいた。来年から帰る場所などないこと。それから今年呂色が奥様の元へと帰れずに終わったことを。#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:08:05
ろっか @rokkarium

「そこでどうして旅館をやりたいという発想になるのかは正直全くわからなかった。今でもちょっと難しいかな」「私一人であれば氷涼祭に帰らないという選択だってできた。けれど呂色がいた」呂色は死んでも主である銀子に従う。帰るべき場所があるというのに帰ろうとしない。#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:12:53
ろっか @rokkarium

「私には氷涼祭の間の居場所が必要で、そこできちんと一人でいられるのだと示すことが大切だと思った。なにがしかの仕事をしなければと思ったが残念なことに私はあり得ないくらいに何もできなかった。消去に消去を重ねた結果、残ったのが死者を迎える旅館というわけだ」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:15:32
ろっか @rokkarium

わけだといわれてもよく解らないがこれ以上尋ねたところで無駄なことくらいわきまえている。事実、銀子の旅館は腕のいい料理人と綺麗だがぼんやりした女将がいる過ごしやすい場所として評判がいい。それだけが事実。「仕立屋には感謝してる。色々整えてくれて本当にありがとう」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:22:48
ろっか @rokkarium

氷門旅館を整えたのは10代の頃の仕立屋だ。友人がハンツピィの宴の時のみ使用する屋敷を氷涼祭の時のみ使用できるよう取計らった。「だって銀子様のこと私好きだから」お姫様っていうのがいたらきっとこういう感じ。幼い仕立屋はいつも思っていた。銀子は彼女の憧れでもある。#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:28:13
ろっか @rokkarium

「ところで銀子様。呂色さんなんですけど聞いてもいいかな」「呂色のこと?」「聞いちゃいますね。奥様の元に今年は戻られました?」仕立屋の言葉に銀子の顔が曇る。「帰っていない」目的が果たせないとため息を漏らす。「帰って欲しいですか?」「私がここにいる目的はそれだ」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:32:06
ろっか @rokkarium

「目的とかじゃないんです。帰って欲しいんですか?」仕立屋の言葉に考え込む銀子。「帰って、欲しい。だけど」「だけど?」「帰ったら多分とてもさみしい」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:34:25
ろっか @rokkarium

「ほほう」「ほほほう」「聞きましたか」「聞きましたね」「「これは香しい恋の香り!!」」#氷門旅館 #空想の街 仕立屋は頭を抱えた。「あんたたち本当にタイミング悪い。帰って」真顔である。「おに」「あくま」「「お誘いに来ただけなの!!」」

2016-07-03 16:37:40
ろっか @rokkarium

「いたのね~ん」うさぎの耳を頭につけた二人の少女。そして昨夜旅館にきてくれた常連客の三人組が銀子に小さく手を振る。「まあ色々積もるお話もあるんでしょうけどね」「降ってきたの!」「綺麗なの!」「「だから行こう!!」」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:40:39
ろっか @rokkarium

二人の少女に両の手を引かれ出て行くと空からは銀氷が。「仕立屋もさあ、わかる。わかるよそういう風に問い詰めたくなっちゃう気持ち。でもほら、今しか見られないものだってあるのよん」綺麗だと思った。「「銀子おねーさん」」少女二人に掴まれた手が温かい。#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:44:49
ろっか @rokkarium

「ねえおねーさん」「みかこもいってるんだけど」「「いつもの友人と、大好きな恋人と、楽しくお過ごしください」」時計塔広場に出店がではじめたアナウンスを口まねする二人。「我々一緒に」「いってあげても」「「いいよ!!」」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:47:20
ろっか @rokkarium

大事な人。銀子の胸にひっかかる言葉。もう何年も無視していた気持ちや事実がざわざわとしているのは仕立屋のせいか。銀子は少女たちのその手を一度きゅうと握り返しそれから離した。「すまない。用事ができた」そうして銀子はそれぞれに礼をする。「ありがとう」旅館へと急ぐ。#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:49:26
ろっか @rokkarium

旅館へたどり着いたのは夕方。興は広場に屋台が出ているせいか宿で過ごすお客は少ないようで人の気配もまばらだ。ロビーに差し込む夕日。おかえりなさい暑かったでしょうと呂色がレモン水を差し出す。#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:54:10
ろっか @rokkarium

「帰ったのか?」唐突にたずねる。「どこへですか」「しらばっくれるな。お前には家があるはずだ」「私にとって家はこちらですが」「そうじゃない。家族がいるはずだ」「おやおや、銀子様にもおられますよね」「うるさい。愛する家族がいるだろう」握ったこぶしに力が入る。#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 16:58:50
ろっか @rokkarium

「銀子様のことですか?」「ふざけるな」「ふざけているのはどちらでしょうか。あなたはどうしてそんなに私を追い出したがるのですか?」「そんなことはない」「いて欲しいんですか」「いて欲しいだけど」「だけど?」「帰る場所があるお前にそんなことは言えないだろう」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 17:07:55
ろっか @rokkarium

「帰る場所」「彼女のところだ」「ああ、なるほど……」頷いてそれから呂色は笑う。眼鏡を外して涙を拭いた。「笑いすぎだ」「いやおかしくて」「おかしくなんか」「いえおかしいです。ずっとおかしいと思っていたらそういうことですか。なるほどそう思えばこれはなんて告白だ」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 17:12:33
ろっか @rokkarium

「告白?」「そうじゃありませんか。あなたは私の妻を気にしていた。それもきっと相当長いこと」「そうだおかしいか」「おかしいですよ。なぜそんなことを気になさるのですか」「それは」「告白をありがとうございます。あなたは私のことがお好きなのですね。しかも相当長い間」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 17:16:08
ろっか @rokkarium

言い訳する気持ちにはなれなかた。銀子はそうだよと漏らしてうつむく。長い間なんてもんじゃない。死ぬ前からずっとだ。すっかり言葉を失った銀子の細い指先を呂色は握る。「申し訳ありませんでした。主を追い詰めてしまうなど私はどうしようもない執事です。ですがもうひとつ」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 17:19:25
ろっか @rokkarium

呂色は続けた。「私に妻はおりません。最初の氷涼祭の際にお別れしました。あの婚姻はあなたのお父様への義理立てのため。死人との婚姻の継続を望んでくださるほどには我々の間には何もありませんでした」#氷門旅館 #空想の街

2016-07-03 17:21:50
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