空想の街・氷涼祭'16 一日日 #赤風車

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

籠の鳥の話は、例えにしては凄みがあった。あの話の誰が徒華だろうが関係ない、全て自分だ。 「やりたいようにやってやる」 ずっと相手に守られたままでも、相手がそう望むならそれもいい。助けになりたいとこちらは手を伸ばし続けているのだから、それさえ忘れなければいい。 #赤風車 #空想の街

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#空想の街 #空想歳時記 【夏】　言葉坂〈ノルン坂〉 季語の説明：振り返ると大切な言葉を奪うというノルンのいる坂。同じ坂道を振り返らずに再びゆけば返してもらえるという。 例句：七宝の衿に閉じたる言葉坂

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東区の掲示板に、女将との共作を書きつけ、徒華はまっすぐ孔雀荘へ向かう。 ……恰好を褒められたことは素直に嬉しい。男装を始めてからは弟や櫻子くらいしか認めてくれなかったが、何の事情も知らない者が認めてくれたのだ。 それでもとけない気持ちに、徒華の首が傾く。 #赤風車 #空想の街

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――認められるためにやっているんだろうか。 だとしたら、誰に、と、熱気の残る夜に思考が凝っていく。明日は千草に会えるのだ、と振りきり、鳴らない二本の風車を挿した徒華の白い浴衣姿が孔雀荘へと消えていく。透明な風船の軌跡が、夜についと残って、そして溶けていった。 #赤風車 #空想の街

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そうだ、と徒華は小走りで掲示板へ戻る。女将の例句をしたためたとなりに、こっそりと、小さく書き足してゆく。 ――相手は今も片仮名に弱いままだろうか。少しは強くなったろうか。 一文字の片仮名が読めない理由も知らず、徒華は意地悪をするように、ゆっくり、書いていく。 #赤風車 #空想の街

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……これでいい。 ノルン坂、のほうを使って書き上げた拙い例句を眺め、徒華は今度こそ孔雀荘へと駆けてゆく。相手が見ても見なくても、分かってもらえなくてもいいのだ。 書きたかったから書いた、それだけを理由に生まれた句が、深夜の街でひっそりと読み手を待っていた。 #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

祭の前日、ということもあってか、風車は思うよりも売れなかった。 予想より暑かった一日を振り返り、あしさばきの遅い一文字が夜の道を進む。――夕飯は、あの甘い弁当でいい。泊まるために戻るのも今夜は長屋のほうだ。その目途はあるのだが、どこか寄ってから行こうか。 #赤風車 #空想の街

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夜は死者が戻るから外出は控えるように、とあったが、風船さえ持たずに一文字は堂々としていた。呼ばないのだから持たなくともいいのだ、と、少なくとも本人はそう思い込んでいる。 さて、銭湯があった筈だ。どこだったろうか。 #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

漸く銭湯の灯りを見つけ、一文字は音もなく一本歯下駄を進める。 「夜分失礼。まだ空いているか」 どうやら、番台は赤い髪の女性のようだ。 @gp_c_ #浜の錦湯 #赤風車 #空想の街

はなまめ @gp_c_

@nowhere_7 ｢お、いらしましー｣夜更けに入ってきたのは長身のお客。｢お兄さんここは初めてです？えっと、下駄はそこの箱に入れて、鍵札を持ってこっちでお代しますー｣ #空想の街 #赤風車 #浜の錦湯 ｢あ、｣と気づいて伝声管。｢波留さーん！お客様入りますー！｣

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「初めてだな。評判は聞いていたよ」言われた通りに下駄を脱ぎ、くたびれた素足で上がり込む。弁慶は脇に置かせてもらおう。 火焚きと連絡をとりあっているのか、女性は何やらしゃべっている。「…このまま進んで宜しいか、ご婦人」 @gp_c_ #浜の錦湯 #赤風車 #空想の街

はなまめ @gp_c_

@nowhere_7 ｢あ、待って下さいねー…はい、初風呂セット！｣番台の下をゴソゴソやってうしおが渡したのは洗面器に詰まった一式。タオル石鹸垢取り等に混じってさりげなく黄色いアヒルと水鉄砲。｢初めてさんに進呈です！ではごゆっくりー｣ #空想の街 #赤風車 #浜の錦湯

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夜更けでも尚笑顔の晴れやかな女性から入浴の一式を押し付けられ、その勢いに流されて男湯の着替え室へ入る。 今は特に見られても困る傷はない。この街の銭湯の番台ともなれば様々な客を見ているのだろう。湯には浸からんから安心し給えよ、と→ @gp_c_ #浜の錦湯 #赤風車 #空想の街

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ひとりごち、一文字はするすると夏の単衣を脱いでいく。 着込みすぎるのは粋ではないと分かっていても、つい厚着をしてしまう。久しぶりの暑さで疲れた、と思い、その疲労を隠さずに湯へ行けば、そこは貸し切り状態になっていた。 #浜の錦湯 #赤風車 #空想の街 @gp_c_

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……なんだ、誰もいないのか。 いなくても入らないことには変わらないので一文字はさっさと隅の流し場に行き、蛇口を捻ってお湯の熱さを確かめる。日焼けをしただろうか、決して黒くはならない体を忌々しく思いつつも隅々まで流し、目をつむりながら湯を被る。 #浜の錦湯 #赤風車 #空想の街

はなまめ @gp_c_

@nowhere_7 ……どうしたもんだろうか。男湯の洗いに入っていた波留なのだが、いきなりお客様(しかもアヒルということは初めてだ)で咄嗟に隠れてしまった。 #空想の街 #赤風車 #浜の錦湯 伝声管はボイラーだけっていったのに！今更やあやあここの主人ですって名乗る……べきかな。

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@tos 髪がひたりと顔を覆うようにさがり、そこで一文字は今朝方を思い出した。 ――あの大家はどうしているやら。 あんな調子では廃屋だけでなく長屋にもいづらくなってしまう、とは雖も仕掛けた己の所為なのだが。なるべく無心で細い髪を遠慮なく洗い、くさくさした気分を追い払う。 #赤風車

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

ふ、とそこで一文字の動きがとまる。泡だらけの髪のまま、眼鏡のない顔で一文字は奥を見た。伊達眼鏡のため、裸眼でも見えることには見えるのだ、泡さえ入らなければだが。 気のせいでなければ、これは、 「……誰ぞいるのかね」 @gp_c_ #浜の錦湯 #赤風車 #空想の街

はなまめ @gp_c_

@nowhere_7 洗いはじめてしまった、完全にタイミングを逃したこの状況に波留は最早諦めた。無理だ、恥ずかし過ぎる。ちょうどシャワールームに隠れたのが幸いしたなら隠し通してしまえ……お願いします見つけても変な噂は流さない出下さいと必死に祈る。 #空想の街 #赤風車 #浜の錦湯

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

誰何を問えど、己の声が反響するのみで湯気からは何も戻らない。 ――気の所為か、鈍ったか。今鈍れば困るが、と背を掻き、そのまま痩せた体を丸めて泡を全て流してしまう。 見慣れない装置も多々あるようだ。手入れも大変だろうに、と奥へ進む。 @gp_c_ #浜の錦湯 #赤風車 #空想の街

はなまめ @gp_c_

@nowhere_7 誰何の声にﾋｩと息を手で押さえて息をひそめる。あぁもう！と自分を攻めるも…気が付かれた。どんどん、こちら、に、 #空想の街 #赤風車 #浜の錦湯 心臓が止まる程の一瞬に大音量の端唄が入り込んだ。｢さんぜぇーんせかぁいぃのォからすぅを……お、すまなんだ先客か｣

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

徐に割り込んできた歌声に、一文字は反射で振り返った。 ……どうも奥に何かの気配がするが、まあいい。雑に手拭いで髪を纏め上げる。汗を流せたのだからこれでいい。黄色の玩具のようなものを不思議に思いながらも、出入り口へ向かう。 @gp_c_ #浜の錦湯 #赤風車 #空想の街

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「お客人、謝ることはないよ。俺はもうあがるところだ、貸し切りを楽しむのがよかろう」 入って汚すわけにはいかず、一文字は擦れ違いさまにそう断って首を戻す。 @gp_c_ #浜の錦湯 #赤風車 #空想の街

はなまめ @gp_c_

@nowhere_7 た、助かった…？｢いや、番台に初めてがいるから説明してって頼まれちまってな｣…できればそのまま出て欲しいけど…｢ま、ゆっくり浸かってけ。ここの湯は珍しくシャワー……｣ #空想の街 #赤風車 #浜の錦湯 ｶﾞﾁｬ｢……｣｢…室の中に湯屋の主人が何故いるんだ？｣