モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Spring X~
- IngaSakimori
- 1399
- 0
- 0
- 1
それどころか期待に満ちた瞳で志智を見つめ返すだけ。 『見』に徹したまま、次に起こる何かがどのように自分を楽しませてくれるのか、嬉々爛々と待ち受けているだけだった。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:02:19(き、気に入らねえ……) さすがの志智も、これ以上彼女の目前で踊ってやるつもりはない。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:02:31「ティック。ちょっとトイレへ行かないか? そうだな、行きたいよな、トイレ。行きたいのに場所がわからなくて困ってるよな? そうだよな?」 「は、はいっ? えっと、あのトイレの場所ならわかって━━」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:02:51「よし行こう。すぐ行こう。そこだから行こう。 千歳、亞璃須。ちょっと外すぞ」 「はいはい」 「行ってらっしゃい、おにいちゃん」 戸惑うティックに構うことなく、志智は歩き出す。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:03:01「あのぉ、ぼ、僕は別に……」 「……いいから黙ってついてこい」 志智の歩みはいつにもまして早く、背の低いティックが小走りにならなければ、ついていけないほどだった。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:03:11「━━さて、単刀直入に聞くが」 「な、なんでしょうか」 男同士のトイレ行。またの名を連れション。青春時代にありふれた行為であり、小便器の前に並んで立てば、三年生と一年生の差は大きなものではない。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:03:36(……ん、こいつ意外に……) 右斜め下方へ視線を巡らすと、三鳥栖志智(みとす しち)は驚きを表情に浮かべた。 なるほど、トランジスタグラマーという古の言葉があるように、男の価値は外見と必ずしも一致するわけではないのだ。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:04:00「日原院(にっぱらいん)ティック。お前は千歳のなんだ?」 「えっ!? ち、ちちっ、千歳ちゃんっ、ですかっ!? ぼ、ぼぼぼぼぼ、僕はまだただのクラスメイトでっ、だけどこれからままままっ、まずはお友達から始められたらいいなあとととととっ!!」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:04:34「……いいか、俺の質問に答えるときは、よーく考えてから口を開けよ。内容次第じゃ、亞璃須のやつが一人っ子になるかもしれないんだからな」 「そっ、そんな……ぼっ、僕そんなつもりはなくて……ご、ごめんなさい、お義兄さんっ」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:04:54「よく考えてから口を開けと━━言・っ・た・よ・な!?」 「いだだだだだだ! お、おおおっ、お兄さんっ! 浮きます! まだ途中なのに浮きます! 狙いがはずれますっ!」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:05:11特に予告のない鉄の指がティックの顔面を襲い、ぎりぎりと頭蓋骨のきしむ音と共に、その体が中に浮こうとする。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:05:18「ふん」 「はぁっ……はあ……い、痛たたたた……」 「もう一度聞くぞ。ティック、お前は千歳のなんだ?」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:05:36「た、ただのクラスメイトです……えーと、まだお友達にもなっていません。 自己紹介だけしかしていません……少し調子に乗ってデ━━放課後、街を案内してもらおうかなと思ってましたけど、時期尚早でした」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:06:00「よし、よく分かった。それじゃあ、次の質問だ。 お前は千歳の何を知っている?」 「………………えーと。 な、何も知らないです。そのう、お兄さんの妹で、す、すごくかわいい……くらいしか」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:06:23「……まあ、一般的な事項だな」 「は、はあ」 放水を受け止めるべく形づくられた白い物体から離れると、洗面器の前で手を洗いながら志智は首を捻る。 鏡にはハンカチで手を拭きながら、困ったように愛想笑いを浮かべているティックの姿がうつっていた。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:06:45「さて……何か他に因縁をつけられる理由はないものか」 「因縁つけることが前提なんですか……」 「まあいい。俺の言いたいことは一つだ」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:07:10「千歳を悲しませるような事があったら、お前を殺す。 いいか、殺すだからな。半殺しとかじゃないぞ。亞璃須の許可をもらって、合法的にたっぷり時間をかけてなぶり殺すからな」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:07:41「えっと、あの、お兄さん目が本気ですよね。僕、このこと先生とかに言ったら、問題になりますよね……」 「知ったことじゃない。千歳のためなら、俺はやる」 「だ、大丈夫ですよ。僕、やましい気持ちなんてありませんから……あはは」 「……どうかな」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:08:01廊下に出たあとも、志智はティックに鋭い視線を向けたままだった。 結果として第三者からみると、背の高い上級生が並んで歩く金髪の一年生を睨みつけているという構図で、二人はそれぞれの妹と姉が待つレスト・スペースへ戻ってくる。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:08:27「おにいちゃん、お帰りなさい」 「ああ、ただいま」 そう言いながら志智は千歳の隣、すなわちトイレに立つまでティックが座っていた場所に腰掛けた。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:08:43「あれ? お席交代?」 「……飲み会ではそんなこともやるって言うぞ。知らないけどな」 不思議そうに目を丸くしている千歳。不機嫌そうに腕組みしている志智。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:09:01「とほほ……」 「こうして両家の兄妹姉弟でむかいあって、お昼というのもよいものですわね」 そして、がっくりと肩を落としているティックと、ひたすらに楽しそうな笑顔の亞璃須。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:09:20四者四様の表情は、生活指導の教師が目にしたならば、いったい何のトラブルかと訊ねてくるだろう異様なコントラストだった。 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:09:29「両家ってなんだ、両家って。ウチはそんな立派なもんじゃないぞ、亞璃須」 「家は家ですわ。志智は三鳥栖家の跡継ぎになるのでしょう?」 「そんなこと考えたこともないがな……」 「お家っていえば……亞璃須さんのところって、大きな会社を経営してるんですよね」 #mor_cy_dar
2013-06-17 07:09:48