牧眞司の文学あれこれ その5
表現のクリシェのうらには思考のクリシェがあり、どうしてそうしたクリシェが発生するかを、敗戦後の言葉、万博のときの言葉、湾岸戦争のときの言葉――その言葉とは思想や評論の水準だけにとどまらず小説や広告や流行歌などあらゆる領域に及んでいる――を参照しながら、解きあかしていく。
2013-10-02 19:41:52金井さん一流の高度な意地悪さ(上品な辛辣さというか、他人ごとながらもうヤメテと言いたくなるほど)で、恥ずかしい言説が次々にあらわにされていく。
2013-10-02 19:42:39もう引用したい箇所がいっぱいあるのだが、ぼく程度の器量の人間がそれをやると、虎の威を借る狐みたいなになって自分でいたたまれない。つまり、金井さんの意地悪さは語られている対象だけではなく、読者にも及んでくるのだ。
2013-10-02 19:43:11ぼくがとりわけ興味深く読んだのは、金井さんが俎上にあげている、川上未映子と島田雅彦の対談だ。
2013-10-02 19:44:22川上さんは「普段はすごく先鋭的なことをやっていて、それこそ相田みつを的なものとある意味で長く闘ってきたともいえる人たちの多く」が、震災後ネットで発表された素朴な詩(みつを的な)に感動し、「これまでの批評性が無効になってしまう」と言う。
2013-10-02 19:45:15それに対して、島田さんは「災害のときって、言説自体も単純になる。また、原点回帰というか、大きな災害に際しては、リセットしてはじまりの原則に戻るということがあるんです」「これまで先鋭的なことをやってきた人たちのハートも、思春期の少年のように初期化されたのかもしれません」と言う。
2013-10-02 19:45:46島田さんの言葉に対しても、もちろん金井さんは容赦ないのだが、それはともかく、ぼくがちょっと驚いたのは「先鋭的なことをやってきたハートがリセットされると少年のようになる」という発想だ。
2013-10-02 19:46:16つまり、島田さんのイメージでは、ナイーヴな少年的感性が原点にあって、それからいろいろなものを積み重ねて先鋭になるのだろう。はたしてそうなのか?
2013-10-02 19:46:48精神発展を時系列で追うとそうなのかもしれないが、芸術のありようとしては、むしろ少年的ナイーヴさはさまざまな錯誤・馴致がこびりついていて、それを削ぎ落としてより本源的なものに遡っていくのが先鋭(批評性)ではないか。
2013-10-02 19:46:59――なんてことも、『目白雑録5 』を読んで考えた。これはほんの一端。さまざまな思考のきかっけを与えてくれる、きわめて刺激的なエッセイだ。
2013-10-02 19:47:38松尾由美『わたしのリミット』(東京創元社)読了。青春日常ミステリ。作中で披露される推理・謎解きはどれもそれほどの驚きはないが、それは物語の眼目でなく、むしろ推理の過程でだんだんと像を結んでいく、ふたりの少女(および何人かの脇役)の人物造形と関係性が読みどころ。
2013-10-06 19:55:49登場人物がなかなか良いかんじで、アニメ化したら「氷菓」よりも画面映えするのではないかな。
2013-10-06 19:56:31『わたしのリミット』、全篇を通じて最大の謎は探偵役(アームチェア・ディテクティブならぬ病床探偵だ)の少女リミットの正体だ。小説馴れしている読者なら早い段階でおおよその推測はつくのだが、細かい設定がよくできているので、やはり結末で「なるほどー」と感心する。
2013-10-06 19:58:32マイクル・コーニイ『パラークシの記憶』(河出文庫)読了。『ハローサマー、グッドバイ』の続篇。ロリンの正体がついにあきらかに! 『ハローサマー』の結末に釈然としなかったかたも本書を読めばきっとすっきりするよ。ちょっとすっきりしすぎるかもしれないけど。
2013-10-06 20:43:38NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいはチャールズ・ボーモント『予期せぬ結末2 トロイメライ』 (扶桑社ミステリー)を取りあげています。 http://t.co/WuwxKicCwo
2013-10-08 18:07:39ジュリアン・グラック『シルトの岸辺』(ちくま文庫)久しぶりの再読。記憶していたとおり、いや、それ以上の傑作。冒頭からすうっと染みこむように文章=景観が、こちらのなかに入ってくる。
2013-10-11 21:10:54J・G・バラードの言う「内宇宙」に、グラッグはとうに到達していた。バラードの最高傑作は『結晶世界』『沈んだ世界』だが、『シルトの岸辺』で描かれる風景はそれに匹敵する。バラードの世界のような鮮やかさはないのに、いっそう印象的だ。
2013-10-11 21:22:25NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいは谷甲州『星を創る者たち』(河出書房新社)を取りあげています。 http://t.co/UmHG6a2tWD
2013-10-16 17:14:37『日本SF短篇50』(ハヤカワ文庫JA)読了。上田早夕里「魚舟・獣舟」と伊藤計劃「The Indifference Engine」が図抜けて面白いが、ほかの作品も読みごたえがある。
2013-10-20 19:17:24宮内悠介「人間の王」を再読して考えたのだけど、二人零和有限確定完全情報ゲームにおいて、もちろんプレイヤーは勝利をめざすのだが、いちだん引いて考えると両プレイヤーは協同して完全解をめざしているのではないか。人称的欲望ではない、ゲームそのものに内在する欲望というか。
2013-10-20 19:17:44宇宙全体を二人零和有限確定完全情報ゲームとみなすことはできないのだけど、思考実験として、伴名練「かみ☆ふぁみ!」の主人公のような超絶演算能力を仮定すると、人間と世界(神)とをプレイヤーとするゲームになる。その場合の完全解とはなんだろう。
2013-10-20 19:34:14まあ、この問いの立て方がおかしいのであって、ゲームにおける利得の取りかた(価値)をまずあきらかにしなければならない。逆に言えば、生きる価値とは何かを主題化するために、こうしたシチュエーションの小説が有効になる。かな?
2013-10-20 19:35:17イサク・ディネセン『ピサへの道 七つのゴシック物語1』(白水uブックス)読了。この作家の語りかた(小説の構成)はちょっと独特で面白い。
2013-10-22 16:20:33脱線というにはあまりに自然なので違和感はないのだけど、ゆらりと本筋からはずれて別な物語が進行しはじめる。へんな逸脱だなあと思っていると、それが本筋に思いもよらないかたちでつながってしまう。
2013-10-22 16:20:57そのつながりかたは、ストーリー的な因果や伏線とはかぎらず、テーマ性やモチーフの連鎖というか暗合というか、なんてそうなるかわからないところもあるのだが、人知を超えて何かが働いている気がするのだ。その感覚がゴシック的とも言える。
2013-10-22 16:21:25