牧眞司の文学あれこれ その5
NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいはマイクル・コーニイ『パラークシの記憶』(河出文庫)を取りあげています。 http://t.co/RtnhyXp8PM
2013-10-22 20:41:06石原慎太郎『生還』(新潮文庫)を読んでみた。収録3篇のなかで、1,974年発表の「孤島」がとくに面白い。影像のロケハンで鄙びた島を訪れた一行が、航船会社の下請けをしている連中から悪意を向けられ、陰惨な暴力沙汰へと発展する。
2013-10-23 18:05:09「孤島」は、「ひとに内在する暴力」というテーマ性もさることながら、表現が太くしなやか。情動や描写を支える文章、モチーフの動きが独特で、いつのまにか日常を逸脱していく。とくに終盤、海亀の用いかたが凄い。
2013-10-23 18:06:19マイケル・オンダーチェ『名もなき人たちのテーブル』(作品社)読了。時間の扱いかたがみごと。小説の主流をなすのは11歳の少年の故国からイギリスへの3週間の船旅だが、それを綴っているのは大人になった彼自身であり、船旅後に待ちうけるできごとやいまの語り手の境涯などが随意に挿入される。
2013-10-26 17:57:46しかし、基底はあくまで11歳の船旅であってこれは現在進行中で展開し、他の時間層のほうが影やゆらぎのようにあらわれては消える。技巧の妙なのだが、それが手先のことではなく、世界のふくらみとして伝わってくる。
2013-10-26 17:58:12シギズムンド・クルジジャノフスキイ『未来の回想』(松籟社)読了。なにこれ、面白い! 異色の時間SFだが、これを異色と言ってしまうのは月並みなSFを読みすぎているせいか。しかし、1929年ごろに書かれたというのだから畏れいる。
2013-10-27 21:43:07ウエルズ『タイム・マシン』が発明した装置をジャンルSFがさかんにリサイクルしている間に、まったく別の時間観によるタイム・マシンが実現していた。
2013-10-27 21:44:12NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいは日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50 Ⅴ』(ハヤカワ文庫JA)を取りあげています。 http://t.co/QsrQJtxDLm
2013-10-29 20:09:50ピーター・ワッツ『ブラインドサイト』(創元SF文庫)読了。いやあ、もう、いろいろムチャで面白いです。宇宙スケールのSFとしては絶対的な他者としてのエイリアンを描き、テーマの次元としては絶対的他人――要するにどう転んでも地獄の人間のかかわり――を扱っている。
2013-10-31 15:58:43進化の奇形的発生としての自意識という見立てに痺れる。自意識によって人類は滅び、自意識によって人間は救われない。
2013-10-31 15:59:53『ブラインド・サイト』には、知的活動において、また生存戦略において意識など不要だという大胆な仮説があって凄く面白い。その傍証のようにあげられているひとつが、SFファンにはおなじみの「筋肉を動かす神経伝達は、脳が“行動しよう”と意識するより0.5秒先んじている」という発見だ。
2013-10-31 19:50:16もっとも、ワッツ作品の本筋とは関係ないけれど、この発見自体はそれほど驚くことではない。運動と意識のどちらが先行しようが、両者が関連しているかぎり自由意志を否定することにはならない。
2013-10-31 19:50:27ひとがふだん意識としているものは受信器にすぎず、それに先立つ起動因を措定すればいい。その起動因と受信器がセットになったものが自由意志というわけだ。問題はその先で、起動因のありかを求めていくと深層心理や無意識なんてところにとどまらず、けっきょくは世界へと解きほぐれてしまう。
2013-10-31 19:51:17石原慎太郎『わが人生の時の時』(新潮社)を読んでみた。ショートショートとみなせるものや、読みごたえのある随想など、さまざまな40篇。怪奇味をたたえた文章がとりわけ面白い。これ見よがしのホラーではなく、たんたんと綴っている文章と視線が絶妙。
2013-11-02 21:08:31「ひとだま」は、子どものころに人魂を見た友人の話だ。その当時は人魂など珍しくなく、トンボを取りにいったついでに、魚をすくうタモでひとだまを捕らえてみたりしたのだという。石原さんがトンボと人魂のどちらが興奮したと尋ねると、「それはもちろん銀ヤンマだよ」。人魂の立場がない……。
2013-11-02 21:09:18横田順彌さんが『日本SFこてん古典』で紹介されていた西森久記『宇宙の彼方へ』(昭和11年)は、宇宙の階層構造をどんどん登っていき、最後は元の宇宙に戻ってくるという、超スケールのぐるり回り小説です。 @sandletter1
2013-11-03 12:04:29NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいはシギズムント・クルジジャノフスキイ『未来の回想』(松籟社)を取りあげています。 http://t.co/KQiFceS4q2
2013-11-05 13:32:02さわり―― 意識の時間はとりもなおさず文学の中心的主題であって、それこそプルーストもジョイスもこれ抜きでは語れないのだが、クルジジャノフスキイはほとんど無頓着な手つきで時間旅行のアイデアを持ちこんでしまう。この無茶な感じがすごくいい。 http://t.co/KQiFceS4q2
2013-11-05 13:39:24菅浩江『誰に見しょとて』(ハヤカワSFシリーズJコレクション)読了。これは珍しいコスメティックSFと思って読みはじめたら、あにはからんやポストヒューマン・テーマの本格派。
2013-11-07 21:29:03『誰に見しょとて』が面白いのは、ポストヒューマンが近未来テクノロジーによって発現する以前に、人間性そのもののなかに内包されていることを、あっさりと示しているところだ。
2013-11-07 21:31:41女性が化粧をするのは男の気を引くためだと思っているひとがいるが、その理解が的外れだということが『誰に見しょとて』を読むとわかるよ。
2013-11-07 22:01:11菅さんはそこまでは言っていないけれど、「素顔が自然」で「化粧が文化的なもの」だという考えかたそのものが錯誤なのだ。「○○が自然」とする思いこみから人間はなかなか抜けられない。
2013-11-07 22:02:58ぼくは化粧をしないが、それは素顔であることが自然、もしくは基底状態だからではなく、素顔でいることもまた文化的規範なのだ。いまの自分の気持ちとしては、化粧しないですむのは楽で良いのだが、その楽のいくぶんかは(大半かもしれない)文化によって保証されているので。
2013-11-07 22:07:37奥泉光『虫樹音楽集』(集英社)読みおえた。途中で予想していた以上の傑作でした。個々の挿話がまず面白いのだけど、そこに埋めこまれたさまざまなイメージやモチーフが共鳴して、読み進むほどに幾階層もある迷宮世界が立ちあがる。
2013-11-10 22:06:08『虫樹音楽集』のうち「虫樹譚」は近未来日本――異貌というより爛れ崩れた日常とでもいうべき世界――で、ゴムを食らう人間が発生する。バチガルピ「砂と灰の人々」も目じゃない、悪食SF。これだけ独立しても、年間SF短篇ベストまちがいなしだ。初出は2009年。
2013-11-10 22:07:03