劇場版『鬼滅の刃』を観るため映画館まで100km歩いてみた 「無限ハイク」レポート
頼れるパートナーを紹介するぜ
王寺駅にたどり着いてから、近くのネットカフェで休もうと思っていた。しかし「身分証明書を家に忘れる」という痛恨のミスが発覚し、セーブポイントでの休息が叶わなかった。新宿まであとちょっとのところまで来たのに!何か一つ達成しても、またすぐ目の前に分厚い壁があるのが人生である。
けっきょく、王寺駅近くのカラオケ店に入った。若干心が折れそうになったが、めげてはいけない。実は今回、心が折れそうな時に元気づけてくれる、頼もしいパートナーを連れてきている。この場を借りて紹介しよう。
鬼滅の中で「心を癒してくれる存在」と言えば、あのキャラしかいない。
そう、伊之助である。
こうして私は、伊之助とともに、ささやかな安らぎの夜を過ごしたのだった。
最終章
10月18日、午前6時。いよいよ最終章の幕開けだ。
なんつったって前日は70kmも歩いたから、体の疲れをどの程度まで回復できるか予想がつかなかった。かなり心配したが、筋肉痛はあるものの、歩行に問題はなさそうだ。いける。
新宿までは残りあと10kmを切っている。あと3時間ちょっと歩けば到着する計算だ。「ここまで来たらあとはもう消化試合、余裕のよっちゃんよ」。とぶっこいていた私は、ラストで地獄を見ることになる。
王子から池袋まではよいよい
朝ごはんは「煉獄杏寿郎の焼きカレーパン」を食べた。甘めのバターチキンカレーが中に入っていて、エネルギーもばっちり。もうすぐ映画で煉獄さんに会えるのが、楽しみで仕方がない。
最終日は、王寺駅から池袋に向かい、そこから高田馬場→新大久保→新宿を目指すルートをたどる。天気は昨日の雨から一転して快晴、朝のさわやかな空気を吸いながら歩く心地よさよ。
なにより、どこを歩いても人通りがあり、コンビニがあり、駅がある安心感がすごい。都心に戻ってきたことを噛みしめながら景気よく進み、池袋駅までの約4kmを問題なく歩くことができた。
ラストスパートを前に限界を迎える
あとは池袋から新宿まで、ほんの5km歩けばゴール。しかし、現実はそこまで甘くなかった。ここに来て、体が突然「もう無理」と言い始めたではないか。
いや、突然ではない。蓄積された疲労にうすうす気づいていたが、だましだまし歩いてきた限界が来たのだ。疲労のトリガーとなった要素も、なんとなくわかっていた。
池袋から新宿までは、私がふだんから歩きなれている道である。これまでの道のりと違って、あとどれくらいで目的地に着くのか正確に把握している分、希望的観測や誤魔化しが効かないのだ。
最後の5kmは、この旅で一番しんどかった。体が鉛のように重くなり、足の裏はパンパン、指先からはジンジンと痛みが伝わってくる。5分くらいかけてゆっくり歩いては休憩し、また歩みを進めることを、地道に繰り返すしかなかった。
ボロボロの私の横を、道行く人がさっそうと追い抜いていく。「人が歩くのってあんな速いんだな」と羨むと同時に「足取り替えてくれねぇかな」と切に思った。
必死の思いで新大久保を通過したところで、新宿の街を目で捉えることができた。夢にまで見たゴールまで、あと一息だ!
無限の終わり
10月25日、午前9時30分、時は来た。
新宿到着ううううううううううううううううううううううううううううううううううううう
3日目のスタートから、3時間半後のことだった。107kmの道のりを、マジで踏破してしまった。いやあ大変だった。無限に思える困難にも、終わりはあるのだ。
一刻も早く「爆速で走る土地の主」に乗ってお家に帰り、ぐっすり寝たいところだが、この旅のゴールはここではない。映画の上映時間まで、休める場所で待機する。
本編の観賞
体がズタボロの状態で映画本編を観るのもなんなので、近くの温泉施設に行った。酷使した足を温かいお湯に入れた瞬間、気持ちよすぎて「干天の慈雨」で斬られた鬼のように昇天するかと思った。
清潔な服に着替えて、足を揉みほぐしにほぐして、体をじゅうぶん休めた。体力と気力が回復したところで、映画本編に向けての気分が高揚してくる。
映画館に入ると、これまで見たことがないくらい、たくさんの人でごった返していた。人の列が流れるように鬼滅を上映しているシアターに吸い込まれていく。もちろん、私が観た回も満員御礼。本当に凄い。
名作は、人の心と体をともに癒す
2時間後、そこには涙に濡れた隠の姿があった。
100km歩いた末に鬼滅の刃の映画を見ると、どうなるのか。結論は「100km歩いても歩かなくても変わらない」だ。
「そんなの最初から分かり切ったことではないか」「元も子もないことを」と、言ってくれるなおっかさん。どうか聞いてくだせえ。無限ハイクで歩いている間、一番懸念していたのは「疲労で内容をまともに楽しめない」ことだった。しかし、この心配は本編開始とともに霧散した。
最初からがっつり引き込まれ、ふだん映画を観る時と少しも変わらないテンションで最後まで走り抜けた。映画が終わるころには、100km歩いてきたことなどすっかり忘れていた。これには本当にびっくりした。
「名作は、人の心と体をともに癒す」ことを、身をもって体感できたことが、一番の収穫だった。
最終結果発表
体調不良や大きなケガもなく、無限ハイクを無事終えることができた。物資の補給は、ホテルで取った朝食と、道中追加で買った絆創膏・消毒液以外は、鬼滅の公式グッズだけで乗り切ることができた。総歩行距離は107km、歩行時間は約30時間。一生分歩いた気がする。
最後に、企画にあたって、心配のコメントくださった方、歩く上でのアドバイスをくださった方に心から感謝申し上げたい。孤独な道中、皆さんの声が大きな心の支えになった。