『課長 島耕作』第1巻を読むと昭和の文化がエグいほどダイレクトに伝わって逆に面白い

彼をやばくしたのは時代だったのかもしれない
8

漫画界の有名サラリーマンといえば『島耕作』。「課長」シリーズを皮切りに、現在『社外取締役 島耕作』が連載中だ。

課長になってからしばらくの間の『島耕作』シリーズは、必ず女性が言い寄ってきては受け入れ、去る者は追わず、その女性たち(と、友人の探偵)に助けられて事が有利に運ぶというファンタジー漫画であった。

その内容は「マニラで仮面舞踏会に出席」「ストッキングで身体を縛る女」「毛皮のコートを脱いだら全裸の中年女性」「登場人物全員、ほぼ漏れなく愛人がいる」などなどあり、読むたび衝撃を受けたものだ。

どこの世界線に行くと、仮面舞踏会に出席する課長がいるのか

読んでからだいぶ経つので詳しい内容は記憶から消えていたのだが、最近、偶然に漫画アプリで配信されていた『課長 島耕作』第1話を見つけたので読み返してみると、あまりに昭和時代の状況が色濃く出ていて、漫画そのものの評価とは別にドン引きしながら読み進めてしまった。

なお、第1話が雑誌に掲載されたのは昭和58年。島耕作はこの時、課長昇進が決まったばかりの34歳・係長という設定で、キャラもかなり緩くてまったく有能に見えない。

係長 島耕作』という作品もあるが、こちらは2010年に『イブニング』に掲載されたもので『課長〜』の第1話が読み切り作品として描かれた経緯などからキャラのブレがある。よって、この作品からでないと得られない成分があるので別物として考えよう。

では、昭和色が濃すぎて胸焼けしそうなあたりについて、いくつか挙げてみたい。

※すべて引用は講談社漫画文庫版より

「机をふいたり灰皿をあらったりするのは女子社員の当然の仕事」

島は「ある女子社員が仕事をサボっていて困るので、係長からぴしっと言って欲しい」と訴えられる。訴えた女性社員の一人はこういい放つ。

「勤務時間中にしょっちゅう席を立つし私用電話はじゃんじゃん使うし」

「朝早く来て 机をふいたり灰皿を洗ったりするのは女子社員の当然の仕事なのに一度もしたことはありません」

始まってわずか4ページ目でやばいの来た!!!

現代人視点からすると「机なんか各自で拭けよ!!」という話だが、そういう時代があったのは確かなのだ…。業務開始時間より早く出勤するなんてこと自体、数えるくらいしかない。

この頃はオフィス内でタバコを吸うのが一般的だったので、タバコを吸う社員は灰皿を机に置いていた。さらに、会社の電話を使って私用電話をかけるという行為も日常的にあったのだろう。今ではなぜそういうことをするのか、いろんな意味でピンと来ないかもしれない。

「HOTEL 会議室」

島耕作が女子社員となりゆきで駆け込んだラブホ名。どんな名前やねん。「ホテル+漢字名」というラブホテルの名称の付け方には昭和感が溢れている気がする。

ラブホのベッドが円形

これこそ昭和っぽい〜と思った。

※円形のベッドを見たことがない人はこちらのまとめが参考になります

島耕作の自宅にあるオーディオコンポがでかい

どれも昭和の家にある家電の代表。島の自宅には部屋の半分くらいを占領するサイズのオーディオコンポがあった。実家にあるという人もまだいるのではないか。

このほか「黒電話」はもちろん、2槽式と思われる洗濯機もあった。

「趣味はお琴にテニスだと?オトコに◯◯◯の間違いじゃないか」

面接官をつとめることになった島が応募者の履歴書を見たときのモノローグ。◯◯◯は男性性器の名称が入る。マジで最悪すぎる。今なら島耕作、大炎上ものだ。これが漫画雑誌にそのまま掲載されたということ自体、昭和の緩やかさを感じる。

「お琴」や「テニス」という趣味については、短大や大学を卒業して結婚するまでの間だけ働くというスタイルが当たり前だった時代の女性が履歴書に書くものとして理解できなくもない。

「島耕作 本日35歳 胸がキューンと熱い人生真ん中あたり」

島耕作の誕生日の日に起きた出来事について、オチとして第三者視点で書かれていた言葉。ちなみに島耕作の胸をキューンとさせたのは不倫相手に対してである。

35歳で人生真ん中。ということは寿命は70歳。現在人生100年時代とも言われるので人生の真ん中とするなら50歳。

この後、島の上司が次々年をとり他界していくのだが、亡くなる年齢が65歳や70歳前半と、現代なら「まだ若いのに」と言われる年で設定されているのも興味深い。

「超薄型5インチカラーテレビ」

島耕作の勤務先は大手電機メーカーということで、当時の最先端技術を駆使した商品がたびたび出てくる。第4話では、5インチモニターのカラーテレビを10万円で発売するという流れがあった。

現在、5インチのモニターを持つ製品は何だろうと思い探してみると、ワンセグポータブルテレビが2万前後で販売されていた。

Amazon.co.jpより

「うちにはビデオデッキがない」

デザイン会社に勤める、島耕作の学生時代の友人・五十嵐のセリフ。五十嵐は離婚して子どもを引き取って暮らすシングルファザー。慰謝料と住宅ローンに追われており、金銭的余裕がないという設定だ。当時、ビデオデッキは高級品だったのでこういうセリフも出てくる。

現在、10万円出せばヨドバシでパナソニックの3TBのHDDレコーダーが買える。

待ち合わせ場所と時間が書かれたメモを湯呑みの下に置く女性社員

島耕作の社内不倫相手の女性はだいたいこんな行動をとっている。今なら手段としてはLINEなど豊富にあるが、逆に今でもこの手法を取っている人いそう。

文庫版p132のコマを再現。「緋」はラブホ名の一部なんだけど、ネットのない時代にこれでよくわかるな…

「超◯金のたまり場なんだ」

ニューヨークで海外勤務中の島が高級アパートメント(価格は120万ドル)でくつろいでいるときのセリフ。

「◯金(マルキン)」は「金持ちの」という意味。1984年の流行語大賞を受賞している。


以上、昭和博物館みたいな『課長 島耕作』の一部を抜き出してみた。

読み始めたら止まらなくなってきたので『部長 島耕作』『専務島耕作』『取締役島耕作』と年代順に集め始めてしまっている。

現在、島耕作は74歳。社外取締役の役目を受けているが、若い頃はかなりとんでもなかったし、そこが本作の面白さでもある。みなさんにもこの面白さを楽しんでみて欲しい。