Amazonの「無在庫転売業者」を撃退!国産つまようじの菊水産業に怒涛の対応劇を聞いた

転売に悩む事業者にも届いてほしい
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純国産つまようじを製造・販売する菊水産業が、Amazonで「無在庫転売」の被害に遭い、最終的に複数の転売業者の撃退に成功した。そんな話が、2023年8月にX(Twitter)で注目を集めた。

社会問題にもなっている悪質な転売業者に対して、いったいどんな対応を取ったのか。Togetterオリジナル記事編集部では、菊水産業代表の末延秋恵さんに、ことの顛末や今後の転売対策について、詳しく話を聞いてみた。

「相乗り出品」「無在庫転売」という新しい手口

日本製 純国産しらかば楊枝

末延さんによると、8月18日、菊水産業の公式Twitterアカウント(@kikusui_sangyo
 )に投稿した、お客さんから届いた1本の電話にまつわるエピソードがきっかけで、注文がぐっと増えた。20日には、自社ECサイトやAmazonを含む複数のECサイトで販売していた商品の在庫が全て売り切れたという。

ところが、20日にAmazonの菊水産業の商品紹介ページを見ると、在庫が切れているはずの商品が1800円(正規価格は550円)で販売されていることを発見する。

菊水産業では、こうした転売行為は本件が初めてではなく、かねてより頭を悩ませていた。

今まで転売は散々されてきています。うちは国産爪楊枝・国産黒文字楊枝だけでなく、日本製のキッチン用品から、海外産のキッチン用品まで、主に木製品の取扱いがあります。

日本製のキッチン用品は職人さんに作ってもらったものを「きくすいブランド」として主にネット販売や卸をしています。お正月商品の取扱いがある年末はよく売れ、転売が増えます。

自社が出店しているYahoo!ショッピングでもたくさん転売されていますし、出店していないはずの楽天市場でも見ます。

SNSで注意喚起は行ってはいるものの、弊社も年末が一番の繁忙期なので対応している間もなく、年が明けたら転売は一斉になくなります(笑)。

ところが、今回はこれまでの転売とは手口が違っていた。これまでは、別の業者が独自の販売ページを作って転売するケースが多かったが、今回はAmazonの「相乗り出品※」というシステムを使って、菊水産業の販売ページ内で別の業者が転売品として出品する形を取っていたのだ。

※一つの商品ページ内で、複数の販売業者が出品登録をすること。

「相乗り出品」を利用した転売は初めての経験だったようで、末延さんは驚きとともにどう対応すればよいか混乱したという。

最初は1社が価格を1800円にして販売していたのですが、時間が経つにつれ販売業者が増えていました。「カート獲得※」するために皆さん微妙に金額を下げたりしてました。

自社の販売ページと別ページで転売されている場合、「この商品は違反です」といった報告ができるのですが、「今回転売が行われてるのはうちのページ上のことだし、このページ自体を違反報告してよいもんだろうか?うちが違反ということにならないか?」など、対応方法がよく分かりませんでした。

※Amazonにおいて、自分の出品商品を購入ページのTOPに表示すること。同じ商品を出品している業者が複数存在する時、自身の店舗からの購入率を上げるために行う施策。

転売業者がまさかの「予約販売」を始める

通常の製造・発送業務に追われる中、SNSでの注意喚起を行うことが手一杯で、Amazonでの転売に対する対応になかなか着手できなかったという菊水さん。

そうこうしている間に、なんと転売業者のうちの一つが「予約販売」を始めた。もちろん、菊水産業では在庫が切れているため、転売業者側の手元にも在庫があるはずがない。つまり、「無在庫予約」の形を取っていたのだ。

これは大変だと思いAmazonのカスタマーセンターに問い合わせると、「菊水産業も予約販売の形を取ってください」と言われたので、9月下旬ごろの発送を見越した予約販売に切り替えました。

ところが、「予約販売」の対応にあたっても新たな問題が発生する。

予約販売の設定をしたのですが、通常15分くらいで反映されるのに、一向に反映されないなぁと思っていたら、Amazonから「価格の誤設定により出品を停止した」という主旨のメールが来ました。

もう一度カスタマーセンターに電話して確認すると、高額で販売している事業者の商品をもう既に数名が購入していたために、転売価格のほうが「適正価格」と判断され、正規の価格は著しく低価格とみなされて出品停止されたみたいでした。

高値の転売価格のほうが適正価格と判定されてしまうとは…もうなんだかシステム上のバグとしか思えない展開だ。

予約販売を再開するための手続きも大変

さらに、Amazonから、適正価格での予約販売を再開するために、菊水産業の販売価格が適正であることを示す資料の提出を求められたという。

その資料として、他のECサイト等で「在庫あり」の状態で販売していることを証明するURLを求められ、末延さんはさらに頭を抱えることになる。

その時点でYahoo!ショッピングにも自社ECにも在庫がなく、入荷の時期も分からない状態でした。

それらのECサイトで審査のために一時的に「在庫あり」にしてしまうと、その間にお客様から注文をいただいてもお届けできません。どうしたらいいのかなぁ、となっていました。

しかし販売URLは証拠としてどうしても必要とのことで、自社ECサイトで入荷時期をだいぶ先に設定した上で「予約販売」という形で対応するしかありませんでした。

その後、Amazonの調査開始から6日間後の、8月27日に予約販売を再開できたとのこと。

転売業者に直接出品取り下げを求める

末延さんの話をうかがうにつけて、Amazonで転売されている事実を知っても、それをAmazon側から取り下げてもらう手続きがかなり複雑・煩雑であることが伝わってくる。

そして実は、菊水産業では、Amazonでの審査が完了する前に転売業者の撃退が完了していた。どのような対応を取ったのだろうか。

SNSでの注意喚起やAmazonとの連絡などの対応に追われる中、末延さんは、普段から懇意にしているアパレルブランド「nakota」代表の吉田真太郎(@nakota_yoshida)さんから、自社で転売業者に対応する方法のアドバイスを受けたという。

アドバイスとは、Amazonで転売を行っている業者に対して直接、無在庫転売による相乗り出品をしていることを中止するよう求めるというもの。

・無在庫による転売がAmazonの利用規約に反していること

・無在庫転売により菊水産業の権利を侵害していること

・無在庫の販売を中止し、また販売実績を報告すること

・対応してもらえない場合は弁護士を通じて法的な措置を検討していること

という主に4つのポイントをまとめてメールで送ったところ、1日も経たずにすべての転売業者が出品を取り下げたという。直接連絡をすることで、Amazonを間に挟む場合よりも速やかに解決に至ることができたようだ。

売る側も対策をする重要性を実感

今回の一件について、末延さんに今後の転売対策などについて聞いてみた。

今回を振り返って、あらためてどんなことを感じましたか

今回のようなケースは初めてで、最初は何が起きてるのか全然分かりませんでした。

無在庫転売という手口が問題になってることや、事業者友達で悩んでる人がいることも知っていましたが、こんなケースもあるのだと驚きました。

今回のケースは、業者側の手元に在庫があるわけでもなく、また製造元が「在庫がない」と断言しているので、絶対に手に入らない商品です。にもかかわらず、出荷日まで決まっている想定で予約販売を行っている点が悪質だと感じました。「これは詐欺に当たらないのか?」と。

有名な大企業ならともかく、自社のECサイトでいきなり商品を販売しても、売れるかどうかはわかりません。新商品を作った際に、少量から気軽に販売に挑戦できる場所がAmazonのようなECモールです。なので、そういう場を提供してくださっていることは日々感謝しています。

ただ、今回のように悪質な販売方法をしている事業者も中にはいます。運営側には、そういう悪質な事業者をしっかり監視してほしいと思います。特に急激にネットやテレビで話題になった商品などは注意が必要だと感じます。

購入者の皆さんも「誰が販売しているのか?」「どんな事業者なのか?」「怪しくないか?」など、注意して見ることも大切だと感じます。

今後の転売対策についてどうお考えですか

出品する側も守る対策が必要だと改めて感じました。ECサイト側の価格の設定方法や、自社ECの強化などをしていきたいと思います。

私たちは商品を選んでくださったお客様に適切に届けることが大事だと思っています。お客様が嫌な思いをしないように、出品する私たちの身も守ることが大事だと思います。

Amazonで転売に悩む事業者にとって、今回の菊水産業の転売対策は対応の貴重な参考になりそうだ。

菊水産業のつまようじが欲しいけどなかなか手に入らない!という人も、くれぐれも転売商品には手を出さず、正規ルートで求める商品が手に入る機会を待とう。

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