第8話「閉じ込められた龍」パート2

脳内妄想艦これSS 独自設定厳重注意
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

8-2-21「見覚え?」 「あのバランスの崩し方はですね、履き慣れていない人がいきなりヒールを履いた時のものです」 綾香は、自分が人生で初めてヒールの高い靴を履かせてもらった時もあんな調子だったのを思い出す。 「なるほど。履き慣れていないとなると…体が馴染んでいないのでしょうか」

2016-07-16 18:32:09
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8-2-22「…そんな事は無いと思うんだがなぁ」 風見は椅子にもたれ掛かり頭を掻く。 「どういう事ですか?司令官」 「お前達、艦娘になった時に割と無意識に「人」の時にはしていなかった事を自然とやれてたりしなかったか?生活習慣とか、料理とか、癖とか、何でもそうなんだが」

2016-07-16 18:33:01
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8-2-23「…言われてみれば」 砲撃戦における射撃などは勿論の事、今でこそ鳳翔を手伝って料理する事もあるが、以前は苦手分野だったハズだ。 「だろう?逆に出来なくなった事…ってのはあんまり無いだろ。色んな前例を見てきた身としては、変化と特徴の獲得は同時だと思っていたんだがな」

2016-07-16 18:34:28
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8-2-24「執務室に入ってからの態度も、綾香君の言っていた『憎悪』の感情も気になる…もう少し様子を見ないと分からないか」 風見は執務机の上の湯呑みを空にし、一息つく。 「情報の少ない時にああだこうだ長時間悩んでも仕方ない。お前達も時間まで有意義に過ごしてきたらどうだ?」

2016-07-16 18:35:16
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8-2-25「そうですね。それでは」 風見の勧めに二人は執務室を後にした。 「むー、中途半端な時間だけど何しようかな…浜風ちゃんはー」 綾波は言葉を止める。何やら浜風までもが妙な表情になっているのに気付いたからだ。 「浜か…兄さん?」 綾香の呼び掛けに大智がぎくりとする。

2016-07-16 18:36:25
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8-2-26「ふぇっ!?」 やっぱりそうだ。 最近は綾香の観察力も上がり、浜風の諸動作などを注意深く見ればその時『どちらの』感情で動いているのかが割と分かるようになってきているのである。 「どしたのそんなビミョーな顔しちゃって」 「えと、それはその、さっきの話を聞いて…ちょっと」

2016-07-16 18:37:20
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8-2-27「さっきの話って?」 「無意識の話」 大智はかなりバツが悪そうな顔をしている。 「…改めてあの話を聞いてから色々思い返してたら、なんかこう…今って凄く『浜風』してるなーって…いや、浜風なんだから当たり前なんだけど。化粧とか、何から何まで自然と生活に組み込まれてるし…」

2016-07-16 18:38:46
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8-2-28「つまり何が言いたいの?」 「だからさ…このままだと気付かないうちに『大智』のほうにまで『浜風』が混じってきちゃうんじゃないかとか、無くなっちゃうんじゃないかとか、そういう下手な想像をした訳さ。そもそもが、消える予定だったものが偶然残ってるようなものなんだし」

2016-07-16 18:39:35
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8-2-29 大智の言う事はもっともだ。本来綾香も完全に『綾波』になる予定だったのが、偶発的な失敗によって心が残ったようなもの。そして2つになってしまった互いの記憶や心を完全に別個のものとして分けて扱うというのは難しく、普段の思考や行動は互いが互いの影響を受けた結果と言えるのだ。

2016-07-16 18:39:59
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8-2-30 …それはさておいて綾香の気に入らない点は。 「なにさー、昨日はあれだけ艦娘化に楽観的だったくせに」 「あはは…」 自分が昨日軽く流されてしまった悩みを今更になって大智が気にしている点である。 風呂に入っても気にしない割には司令官の一言が刺さるとはこれ如何に。

2016-07-16 18:41:22
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8-2-31 だが本気で不安になっているのは確かのようだ。 …それが分かるとちょっとからかってやりたくもなる。 「…もし仮に今から元に戻れるとしてー…そしたら元に戻った兄さんは無意識に化粧とかしたりするんだろうか」 「うえぇ!?」 しれっととんでもない事を言われ、大智が取り乱す。

2016-07-16 18:42:58
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8-2-32「想像させないでくれ…」 綾香はニヤリとする。今日は此方のペースで兄を弄る事が出来そうな気配だ。 「でもなぁ、最初意識が全部浜風ちゃんだった時には一度殆ど完全に女の子になってる訳だしなぁー、有り得なくは無いんじゃない?」 …あれ? 綾香の頭に何かが引っかかった。

2016-07-16 18:44:10
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8-2-33 それは大智も同じだったようだ。 「…片方の意識が完全に出て無い状態だと…」 「…その片方の人の要素って、消えてる?」 鎮守府の長い廊下の真ん中で、二人は立ち止まって顔を見合わせた。 「それじゃあ、もしも…姿は雲龍さんでも、雲龍さんの意識が無かったとしたら?」

2016-07-16 18:44:32
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8-2-34「まずっ、遅れちゃったっぽいよ!」 結局あの後あれこれ部屋で考えていたら、二人して定刻に遅れてしまった。 演習場に辿り着いた時には既に他のメンバーは集合しており、広場に向かって並んでいた。 「貴方達、何をしていたの?もう始まるところだよ」 明石が二人を自分の横に招く。

2016-07-16 18:46:27
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8-2-35 息を切らせながら二人が列に加わった時には、雲龍がまさに発艦を行わんとしていた。 彼女が右手を横に突き出すと、手にした社のような入れ物から淡い光を帯びた型紙が連続して飛び出し、意思を持っているかのように宙を舞い始める。 そして、彼女は続けて左手の幡を振るう。

2016-07-16 18:47:53
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8-2-36 幡には滑走路が描かれており、振るったのに合わせて光の鳥居が現れ建つ。 「すごい、きれー…」 周囲を舞う光を帯びた型紙は今やドームを形成し、その中心に雲龍。 ある種の儀式のような彼女の発艦は、これを初めて目にするこの場に集まった者達の目にはとても幻想的に映った。

2016-07-16 18:49:15
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8-2-37「(さっきの話を聞いてなけりゃもっと綺麗に感じるんだがな)」 風見は誰にも聞こえない声でごちる。 雲龍が更に幡を振るうと、漂っていた型紙が少しずつ動き出し、周囲で自然と集まり始めた。 そして、形成された光の鳥居へと列を成して滑るように飛んで行き… …バチッ!!

2016-07-16 18:50:07
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8-2-38「えっ!?」 異変はそこで起こった。 先頭の型紙が滑走路の鳥居に滑り込んだ瞬間、激しいスパークが起こり型紙が燃え尽きる。 「ッ…!」 火花は雲龍にも飛び、振り払う際に集中力が乱れ、後に続く型紙は光を失って地面へと落ちてしまった。 「おい、雲龍!大丈夫か!」 「…」

2016-07-16 18:51:27
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8-2-39 雲龍は何も応えず、目を閉じて集中するともう一度幡を振るう。 地面に落ちた型紙が再度光輪を帯びて浮遊し始め、滑走路へと向かうー …バチィッ!!! 「うぐ…っ!」 だが、結果は変わらない。 型紙は艦載機へと姿を変えることなく、その直前で燃え尽きて消えてしまう。

2016-07-16 18:53:07
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8-2-40「これは…」 空気は一転し、その場に居る全員が不安気な表情で雲龍を見守っていた。 「…」 雲龍は先程までと異なる形で幡を振るう。 …落ちた型紙の列は、滑走路には向かわずに元あった入れ物の中へと戻り…収まる。 その後、雲龍は手に負った軽い火傷を舐め、風見の元へ進み出た。

2016-07-16 18:54:15
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8-2-41「これでお分かりかと思います。私は…発着艦の行えない『失敗作』の空母なのです」 「何だって…」 それだけ伝えると、雲龍は全員の目線から顔を反らし、屋舎へと歩き出してしまった。 「ちょ、ちょっとあんた…待ちなさい!」 声を上げたのは五十鈴だ。雲龍を追い、肩に手を掛ける。

2016-07-16 18:55:27
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8-2-42「!」「へっ!?」「えぇっ!?」 直後…五十鈴の体は空中を舞っていた。 五十鈴が雲龍の肩を掴んだ瞬間、雲龍が逆に五十鈴の腕を掴み返し、投げ飛ばしてしまったのである。 「!」 投げられた方向に居た浜風がすぐさま反応し、五十鈴を受け止めようとする、が。 「あ…」

2016-07-16 18:57:22
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8-2-43『大智』基準で動いてしまって今の体格差を忘れてしまっていた。 「むぎゅっ!!」「痛ったい!…うわ、浜風ちゃんごめん!」 浜風に謝罪しつつ、キッと雲龍を睨みつける。当の雲龍本人はと言えば、何故か『しまった』という表情で固まっていた。 「一体どーいうつもりなのよっ!!」

2016-07-16 18:58:45
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8-2-44 しかし五十鈴の怒声にも、雲龍は取り合おうとはしない。 「…私の今後については…提督の判断にお任せします」 気を取りなおしたように背中を向け、最後に一言だけ残すと屋内へ入っていってしまった。 「もー、何なのよアイツ!提督、私は演習に戻らせて頂きますからね!」

2016-07-16 19:02:14