「序部 -終幕-」 (第9話)

脳内妄想艦これSS 独自設定厳重注意
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

9-1「前日からロクに物も食べずにいていきなりあんな無茶苦茶な動きをすれば、倒れて当然でしょうが…」 「お前…単独行動は慎めとあれだけ言っただろうが…」 監獄島の食堂の一角で五十鈴と風見の呆れ声が重なる。 そして呆れの対象…雲龍はといえば一心不乱に鳳翔の作った料理を頬張っている。

2016-07-26 20:32:18
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9-2 空腹で気を失った雲龍を手分けして運び、『鳶』は無事に帰還していた。 「凄かったんですよ雲龍さん。こう、敵の中にだーっと突っ込んで、イ級とかホ級とかをちぎっては投げちぎっては投げ…」 綾波の感想を聞いて風見は茶を吹きそうになる。 「…まさか本当に千切って投げてないよな?」

2016-07-26 20:34:09
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9-3「千切っても投げてもいません、蹴ったり吹き飛ばしたりはしていましたが」 此方は浜風の感想。という事はこれは事実なのだろう。 「あの、提督、この方は一体何者なのですか?」 雲龍より更に大量の食事をとりながら、扶桑が風見に問う。 「大方予想はつくだろうが此奴も元は艦娘ではない」

2016-07-26 20:35:58
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9-4「此奴の正体は『大辻 照海(オオツジ テルミ)』…俺が佐伯に居た頃、問題ばかり起こしてた俺の部下だ」 「まぁ!照海さんが雲龍さんに?」 風見に茶のおかわりを淹れていた鳳翔が驚いた顔を見せる。 「そのようだ。何の因果か知らないがな」

2016-07-26 20:37:50
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9-5「まだ知り合って間もない人達に変なイメージを植え付けるのはやめて頂けますか、提督」 「大丈夫だ、俺が言うまでも無く既に変なイメージは出来上がってるさ」 雲龍が不満げな顔で反論するが、横目には五十鈴が無言で頷いているのが見えた。 「雲龍さんは何であんなに強いんですか?」

2016-07-26 20:39:39
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9-6「照海はなぁ…確かに問題ばかり起こす野郎だったが…腕っぷしだけはやたらと強くてな…頭も弱かったが…」 「だから、提督」 余計な一言を付け加える風見に、雲龍が引きつった笑顔を向ける。 …そして横目には頬杖をついた五十鈴が『やっぱりな』という顔をしているのが見える。

2016-07-26 20:41:19
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9-7「こほん。つまりだ、照海は艦娘化の影響を受けた例としては、綾香君や大智君、杏理君と比べて人間側の要素が強く残っているんだ。近接戦闘は元々照海の得意分野だったからな」 「おかげ様で。空母としての能力も上乗せする形で、もう少し慣れたらもっと色々な事が出来そうです」

2016-07-26 20:43:11
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9-8「さぁ、航空戦力も加わった事で『鳶』の戦闘力も確実に上がった筈だ。これからも宜しく頼んだぞ」 食事中の艦娘達を後に、席を外そうとする風見。 「待った。風見さん」 …それを呼び止めたのは雲龍…いや、口調からして『照海』だ。 「アンタに聞いておかなきゃいけない事があるんだ」

2016-07-26 20:44:22
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9-9 風見はちらと食卓の照海の顔を見下ろすが、席には戻らない。 「食べ終わったら執務室に来い。聞こう」 …それだけ言い残して、食堂を後にしていった。 照海もそれ以上は声を掛けようとはせず、目の前の、綾波や浜風から見ればとんでもない量の食事を片付けることに注力し始める。

2016-07-26 20:46:16
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9-10「それにしても良いわね、アンタは元々強いのが更に強くなったみたいで」 風見の去ったテーブルで、五十鈴が少々不貞腐れた声を上げる。 「アンタも…それに鹿屋の…『アイツ』も。私達は近接戦闘とかそんな戦い今まで想定してなかったし、砲にも扶桑さんみたいな火力は無いし」

2016-07-26 20:49:15
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9-11「五十鈴さんや綾波ちゃん達にしか出来ない事だって沢山あるし、役割が違うんだから気にしなくても良いのではないでしょうか…」 空いた皿を取り纏めながら鳳翔が言う。確かに正論ではあるのだが。 「それは、そうかもしれないですけど…」 五十鈴の負けず嫌いな心は納得していなかった。

2016-07-26 20:50:21
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9-12 沖ノ島での戦闘で主力を単艦で落としきった上、周囲の戦況までも完全に掌握した雲龍の姿。 それを目の当たりにした五十鈴の心には『焦燥感』が根差してしまっていた。 人なら避けて通れぬ道、他人の活躍への焦り、他人の力への嫉妬…『五十鈴』も『杏理』も元々それは強い方だったのだ。

2016-07-26 20:52:28
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9-13「でも、雲龍さんみたいな動きが出来たらカッコイイだろうな~、とはやっぱり思っちゃいますよね」 それは強弱の差はあるにせよ、綾波や浜風にとっても同じ事が言えた。 これを聞いた雲龍は箸を動かす手を止めると、五十鈴を真っ直ぐに見つめる。 「な、何よ」 「試してみる?」

2016-07-26 20:56:04
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9-14「え?」 「出来るわよ、きっと」 雲龍の意外な提案と回答に、五十鈴は面食らう。 「む、ムチャ言わないでよ!あんな動き出来るワケ…」 「ううん、出来る。それも、私達だからこそ出来るの」 言葉に表れている『確信』。食卓の全員の目が、雲龍に集まる。 「どういう事ですか?」

2016-07-26 20:57:22
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9-15「私達が人間であって、兵器でもあるから」 人間で、兵器。綾波と浜風は顔を見合わせる。 「これは風見さ…提督の受け売りだけど、そもそも人間はとても弱い生き物よ。だけど、そんな身分だからこそ、貪欲に色んな知識も吸収するし、鍛えて強くなろうともするし、姑息に生きようともする」

2016-07-26 20:59:36
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9-16「そして兵器は、十分な火力を与えられ、十分な馬力を与えられ、そして十分な力を持つ物。だけど、考える力は持たない、使われる物」 「…」 綾波の脳裏には、五十鈴の安定前の風見の話…暴走の話が過った。 「艦娘の位置付けは、そのあいのこ。だけど、本質的に『人』とは言いきれない」

2016-07-26 21:01:52
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9-17「でも、そう考えると私達はどうかしら?…提督が口癖のように言っていた『人間』の話を聞いていた私が思うに、私達の方が生きるという事への『執着心』は…幾何か強いと思う」 「生きる事への、執着…」 五十鈴はぎゅっ、と自分の胸を押さえる。 …『杏理』もそれ故に、生きていた。

2016-07-26 21:03:01
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9-18「それなら、今の私達の身体は少なくとも『人』よりは強靭なのだから…出来ないと決めてかからなければ、やってやれない事はないんじゃないかしら。実際、動いてみるまで私自身もあそこまで動けるとは思わなかったから」 そこまで話すと、雲龍は食べ切った皿を脇に避け、立ち上がる。

2016-07-26 21:05:06
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9-19「練習すると言うなら、幾らでも付き合ってあげる。それじゃ…鳳翔さん、ごちそうさま」 そして、風見の執務室へ向かうため、食堂から出て行った。 暫しの沈黙が食堂に流れ…五十鈴がそれを破る。 「あーっ、もー!グジグジ悩んでるの馬鹿みたい!」 そして、何故か浜風の方をキッと睨む。

2016-07-26 21:08:24
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9-20「えっ…と?」 「来なさい!一緒にアイツを追い抜くわよ!」 困惑する浜風の腕をガッチリと掴むと、引きずるようにして連れて行く。 「なっ、なっ、何で私まで!?」 「うるさい!男なら女のわがままの1個や2個くらい、二つ返事で付き合いなさい!」 「意味が分からな」 バタンッ

2016-07-26 21:11:45
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9-21「…」 「あ、あはは…」 兄の命運は、取り敢えず天に預ける事にした。 「元気が出たみたいで良かったわね」 扶桑も苦笑しつつ、食後のお茶を口に運ぶ。 鳳翔も一旦机の上の皿を流しに片づけ、座席に戻ってきた。 「それにしても、照海さんも提督とはだいぶ付き合いが長そうですね…」

2016-07-26 21:15:16
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9-22「鳳翔さんは元々司令官の秘書艦を務めていらしたんですよね?その時に顔を合わせたりする事は無かったんですか?」 「ええ、何度かお会いした事があります。提督もいつも口癖のように彼の話をしていましたね」 佐伯に居た頃を思い出し、鳳翔はクスクスと笑う。

2016-07-26 21:19:10