第7話「特務艦隊『鳶』 パート1

脳内妄執 艦これSS
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

___ …知らない誰かが自分の直ぐ傍に居たら? ___

2016-06-20 22:00:17
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

___ 第7話「特務艦隊『鳶』」パート1 ___

2016-06-20 22:00:52
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

7-1-1「~♪」 書類を片付けている風見の執務室に上機嫌な調子の鼻歌が響く。 鼻歌の出所は、風見の書類を手伝っている秘書官の鳳翔だ。 「~♪~♪♪」 静かな島の静かな執務室。漂ってくるのはその他は工廠の音程度である。 風見は聞き慣れているのかさして言葉を挟んだりはしない。

2016-06-20 22:01:50
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7-1-2 と、その音を遮る音が一つ。執務室の扉をノックする音だ。 「入ってくれ」「失礼致します」 入室してきたのは大淀である。恐らく本部から定期連絡があったのだろう、胸の前に幾何かの書類が抱えられている。 「提督、本部からの定期連絡と…今回は幾らかの書類が含まれていました」

2016-06-20 22:02:12
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7-1-3「有難う、見せてもらう」 「それと鳳翔さん、そろそろお時間ではありませんか?」 風見に資料を丁寧に渡すと、大淀は鳳翔に時計を見るよう促す。 「あら!本当ですね、それでは提督…終わった分は此方に。また戻ってから続けます」 「ああ、分かっている。ゆっくりでいいぞ」

2016-06-20 22:02:40
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7-1-4 風見に終わった分の書類を渡すと、鳳翔は一礼して軽い足取りで執務室を出ていく。 「…毎度の事ながら嬉しそうですね、鳳翔さん」 「あー全くだ」 大淀はその様子をみてくすくす笑っている。 「完全に給料日の主婦なんだよな…」 そう、今日は本土からの定期補給の到着日なのである。

2016-06-20 22:03:29
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7-1-5「そうは言っても、次回の補給までには下手すりゃまたカツカツで綾波達に頭を下げる事に…ん?」 周辺戦況の連絡、業務の連絡…とりとめのない書類を無造作にスライドさせていた風見の手がふと止まる。 「どうされましたか?」 大淀が見やると、風見は書類を食い入るように見ていた。

2016-06-20 22:04:10
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7-1-6「…こいつは」 風見は自分の見ていた紙を大淀に渡すと、背もたれに思い切り体重を掛けて体を伸ばす。 「…一体どういう事だ。何を考えていやがる…」 体を反らしたまま、風見は大きく舌打ちした。 大淀は眼鏡の位置を直し、風見から渡された資料を上から下へ、急いで目を通していく。

2016-06-20 22:04:31
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7-1-7「それでは此方が食料。向こうが鋼材に、あっちは燃料です」 「いつも有難うございます」 監獄島の港。定刻通りに島を訪れた輸送船から、次回分までの補給物資が降ろされていく。頻度が多くないだけに一度の輸送量は多く、倉庫への運搬にも時間が掛かる。毎回の先導と確認は鳳翔の役割だ。

2016-06-20 22:05:36
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7-1-8「…あら、それにしても今回はちょっと量が多いような…」 輸送担当の兵士と一緒に搬入物をリストと突き合わせながら、鳳翔は首を傾げる。 「あれ?通達は入ってるって聞いてたんですけどね」 「通達?…そう言えば部屋を出る時に入電が…入れ違ってしまったかもしれませんね」

2016-06-20 22:06:17
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7-1-9「量が増えたのは、これからの方針に合わせたものでして。というのも…あぁ、実際にお会いした方が話が早いですね」 鳳翔の肩越しに誰かの姿を見たのか、兵士は合図を送って手招きする。 「?」 鳳翔も振り返り、合図の送られた方を見やると…一人の「艦娘」が此方に向かって来ていた。

2016-06-20 22:06:53
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7-1-10「これは…艦娘の異動の通知ではありませんか」 「そうだ。『新規の着任』ではなく『編入』。これの意味するところは分かるな?」 編入…即ち、既に他の鎮守府で活動していた艦娘がやってくる。 普通に考えればあり得ない話では無い…その異動先が世と断絶された島でなければ。

2016-06-20 22:08:03
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7-1-11「そして、編入される艦娘がどこから来るか見てみろ」 風見に促され、大淀は艦娘の前の配属場所の情報を文書から探しだす。 「舞鶴…!?第一線ではありませんか。何でこんな異動が…」 「あぁ、ここへの編入も妙なら配属元も妙だ。だが、それで終わりじゃない。2枚目、読んでみろ」

2016-06-20 22:08:30
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7-1-12 大淀は2枚目の資料に目を通す。 「『…本日編入の軽巡洋艦を旗艦とした艦隊の編成…以後、司令部より発令される特命の任務を、編成した艦隊をもって遂行する事…』何ですかこれ、特務艦隊の編成指令じゃありませんか…それに『コレ』は一体?」 大淀は書面の最下部をなぞる。

2016-06-20 22:08:49
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7-1-13「そんなもの、こっちが聞きたいに決まってるだろう」 艦隊編成の指示書…その一番下には、小さく注釈が付けられている。 その一文が、この編入がまたしても大きな『裏』を抱えていることをはっきりと示唆していた。

2016-06-20 22:09:40
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『但し、編入された艦娘が絶命した場合はこの限りではない』

2016-06-20 22:09:54
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7-1-14「…少しまとめてみましょう。提督」 「頼む」 暫し時間をおいて大淀が口火を切る。そのまま二人で固まりっぱなしという訳にもいかないと思ったのだ。 「本日は定期補給のための輸送船がこの島にやって来る日です。そして、そこには護衛として艦娘が付けられている…」

2016-06-20 22:11:13
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7-1-15「その艦娘が護衛任務の後、此方にそのまま編入となるようです。艦娘の以前の配属先は舞鶴…第一線で戦っていた艦娘と考えられます。異動の理由は…想像の域を出ませんが、幾つかは考えられます」 「…一つのパターンとしては、監視、だな?」 風見の推測を聞き、大淀は頷く。

2016-06-20 22:11:28
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7-1-16「この島は外の情報を知ることは出来ませんが、逆に外にとっても内情が分かり辛い場所です。二人の『新型』の生存報告を受け、本格的に内部にも『目』を置こうとするのは考えられない事ではありません」 「だな…大淀の考える2つ目は?」 風見が大淀に問いかける。

2016-06-20 22:12:04
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7-1-17「無論『何かしらの問題を抱えている』というパターンです。書類の一番下の文章から考えても、先程の『監視』よりも可能性は高いと考えられます」 「うむ、そうだな。しかし仮にこの軽巡に何とやら問題があるとして、『舞鶴からの編入』についてはどう説明を付ける?」

2016-06-20 22:13:58
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7-1-18「『編入』については舞鶴でその艦娘に何かが起きたと考えるのが自然かと思います。これまでここに送り込まれてきた『艦娘化』の被験者達のように最初からここに送られる理由があった訳ではなく…ここに送られるだけの理由がごく最近になって発生した、ということでしょう」

2016-06-20 22:14:34
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7-1-19「同意だ。では『特務艦隊の編成』については?」 大淀は手元の書類に再度目を走らせる。 「『特務』…通常の作戦と別枠で行われる特殊な任務で、本来は諜報活動や工作活動を指しますが…この書面には、恐らくあちらの『直接指示』によって専用の任務を行わせたい意思が見て取れます」

2016-06-20 22:15:25
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7-1-20「そうだな。言い換えれば、相変わらず俺はお飾りという訳だ。自由意思による作戦の計画や外部作戦への参加は認められず、行動自体は『特務』という都合の良い言葉を持って向こうに掌握される…」 風見は心底つまらなそうな顔で、窓の向こう、大本営の方角に大きく舌打ちする。

2016-06-20 22:15:35