第7話 「特務艦隊『鳶』」 パート3

脳内妄想艦これSS 独自設定注意
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

___ 目を反らして生きる事など、出来はしない ___

2016-06-26 20:20:47
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

7-3-1 風見の執務室…綾波に呼ばれ一旦引き返してきた浜風は、風見から五十鈴が『第弐型』である可能性が高い事を教えられた。 「…なるほど、そういう事でしたか」 特徴を聞き、何かに納得する浜風。 「わざわざ戻って来たのは、話があるからだったな?何か気付いた事でもあるのか」

2016-06-26 20:21:43
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7-3-2「はい、五十鈴さんがここに到着してからというもの、彼女と会話する時に違和感を感じる部分があるんです」 風見も出撃の際の五十鈴との通信の事を思い出す。 「…確かにやけにぼーっとしていたりしていた事はあったな…それか?」 「そうです。ですが、それには理由があると思われます」

2016-06-26 20:22:07
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7-3-3「名前、です」 「名前?」 オウム返しに聞く風見に、浜風は頷く。 「五十鈴さんと会話する時に違和感を感じるのは、会話の一番最初…話をするために彼女の名前を呼ぶ時です。とりわけ、此方の存在に気付いていない場合の呼び掛けの際には、自分が呼ばれている事にすら気付いていません」

2016-06-26 20:22:44
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7-3-4 綾波と浜風の感性は鋭い。何気ない会話や言葉の節々の微妙な違和感を掴み取ってくる…この能力は頼りにすべきかもしれない。 「成程な、第弐型の話を聞いて納得したのも合点がいった。浜風、お前が考えているのは『五十鈴に人間としての自我が重なってきている』…そういうことだな?」

2016-06-26 20:23:12
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7-3-5「はい、そして原因は恐らく一月前に負った『重傷』です。五十鈴さん…これまで完全に失っていた『人』としての自分が、大怪我をきっかけに意識の中にふと芽生えてきてしまって、それまでずっと自分だった艦娘…『五十鈴』としての自我同一性が歪んでしまっているのではないでしょうか」

2016-06-26 20:24:12
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7-3-6「大いに有り得る…その線で話を進めた方が良さそうだ」 これで五十鈴の状態の予測はついた、しかし風見の表情は相変わらず浮かない。 「問題はここからだ、ここからが難しい…五十鈴にどのようにアプローチを掛けてやるか」 「えっ?大丈夫だって教えてあげるだけじゃダメなんですか?」

2016-06-26 20:24:29
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7-3-7 綾波は風見の悩んだ顔を疑問に思い首を傾げる。 「皆が皆お前みたく図太くないからな。あぁ待て冗談だ、そんな本気でショックを受けたような顔をするな、流石に心が痛む」 そこで風見の言葉は暫し止まる…どうやら綾波にも理解しやすそうな例えがないか考えているようだ。

2016-06-26 20:24:59
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7-3-8「『頑張れ』という言葉を使って応援するのは良くある事だな。だが、例えば必死に努力して、それでも尚ダメで精神的に苦しんでいる時に周りから寄ってたかって『頑張れ』と言われれば参ってしまう事もあるだろう…そういう時、お前ならどう感じる?『頑張れ』と言った連中の事をどう思う?」

2016-06-26 20:25:38
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7-3-9「それは…イライラするし、『何も分かってない』とか感じちゃうかも…」 「そうだ、要するにそういう事だ。おまけに、艦娘化の実情は分かりやすい例え話なんかより遥かに複雑だ。下手な言葉一つが抱えている物を爆発させてしまうのも十分に考えられる。だが最も恐れているのは…」

2016-06-26 20:26:15
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7-3-10 言葉の間で風見の表情が一層険しくなる。 「…なぁ、お前達は艦娘が心を失った時、何が起こるか想像がつくか?」 「えっ…」 「心と共に体が死んでしまえば、何も残らない。だが、心が壊れ、砕けて散った後に体だけが残ったら、どうなるか…人間なら廃人と言えるのだろうがな」

2016-06-26 20:26:44
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7-3-11「後に残るのは…『兵器』だ、二人共。この言い方は非常に語弊があるかも知れん…だが、艦娘が人としての心を失い、元来の…荒ぶる艦の魂の…人を殺す力の部分だけが残れば、それは『兵器』だ。それが人の形を取っている。それは、謂わば破懐衝動の塊だ」

2016-06-26 20:27:07
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7-3-12「兵器…」 「初めから物なら、その力は使う者に依る。だが、人の姿を取って力を持った艦娘の場合は?律するのは心、揮う対象を間違えないのは理性だ…それを失ったら?…そういった意味では実は『艦娘』という存在は人類の味方で有りつつも、人類にとって巨大な爆弾でもあるのだ」

2016-06-26 20:27:33
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7-3-13「…」 綾波と浜風は何も言わない。ただ、風見の話にじっと耳を傾けている。 「艦娘が心を失い、破懐衝動に身を委ねてしまった状態。これを研究者達は『暴走』と呼んでいる。とはいえ、本来であればこんな状態になる可能性は殆ど無いに等しい…等しかったんだ、『艤装型』の頃までは」

2016-06-26 20:28:07
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7-3-14「…五十鈴の事、それに今後の事を考えても二人にも知っておいて貰わなくてはいけないと思ったんだ。ここに来てから酷い話ばかりで済まないな。そして…いいか、二人共、『第弐型』はこれまでに行われたであろう艦娘化の方式の中では、『暴走』に陥る事例の多い方式なのだ」

2016-06-26 20:28:38
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7-3-15「そんな…それじゃ、五十鈴さんも…?」 綾波が恐る恐るとばかりに聞いてくる。 「放っておけばあるいはそうなるやも…あぁ、待て、そんな泣きそうな顔をするんじゃない…」 風見は綾波の頭を優しく撫でてやる。外身も中身も、綾波はまだ未成熟。リアルな話は少々酷だったようだ。

2016-06-26 20:29:12
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7-3-16 綾波の頭を撫でながら、風見は浜風の方に視線を移す。 此方も見た目は綾波とさして変わりはない筈だが、『中身』が中身なだけに冷静さを保っているように見える。 「提督」 そして一瞬の後に…彼女はスイッチを切り替えていた。 「五十鈴さんの事は…『俺』に任せてもらえませんか」

2016-06-26 20:29:33
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7-3-17 監獄島の波止場から雑木林側に歩いて暫く…木々をくぐった先の小さな崖。 間もなく夕日が沈んでいく海を臨むその場所で、自らの膝に顔を埋める艦娘が一人…五十鈴だ。 海風が彼女のツインテールを靡かせるも、彼女自身は微動だにしない。 ただただ時間だけが過ぎ去っていく。

2016-06-26 20:30:42
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7-3-18 そこへ、木々の間を抜けてもう一人艦娘が現れる…浜風だ。五十鈴の姿を見とめるとそっと五十鈴の傍に近づき、並んで岩場に腰かける。 「こんな所にいらしたのですね」 自分の隣の浜風の存在に気付き、五十鈴はぴくりと反応する。 「悩みがあるのですね?きっと、ここに来る前から」

2016-06-26 20:31:08
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7-3-19「…お見通しなのね」 埋めていた顔を持ち上げると…大粒の涙がほろりと五十鈴の頬を伝って落ちるのが見えた。 ずっと泣いていたのか、目は腫れぼったい。 「良かったらその悩み、教えてもらえませんか?…今、ここならば私と貴方しか居ません」 「…」 五十鈴は黙ったままだ。

2016-06-26 20:31:31
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7-3-20 浜風はそれ以上は言葉を続けようとはしない。五十鈴共々、夕日の沈みゆく水平線をじっと眺めている。 「…こんなの、貴方が知ったところでどうにもならないよ」 たっぷりと時間をかけて五十鈴は漸く口を開いた。 「そうかもしれません、が、知らないままなのはそれ以前の問題ですよ」

2016-06-26 20:32:14
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7-3-21「…」「…」 それから更に幾つもの風が二人の間を通り抜け… 「舞鶴の任務で私が轟沈しかけた話は聞いてる?」 空が色味を失い始めた頃、五十鈴は語り始めた。 「味方を退避させる任務の際に、敵の攻撃をまともに受けたと聞いています」 「そう、それで私は修理に入ったのだけど」

2016-06-26 20:32:51
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7-3-22「その時からね、頭の中が変なの。幽霊にでも憑りつかれたみたいに『知らない誰か』が私の傍にずっと居るような気がして仕方がないの」 「…」 「舞鶴での修理を終えた後に、前の提督にその話をしたの。そしたら、急に提督の顔色が変わったのが分かって…私はここに編入になった」

2016-06-26 20:33:07