第7話「特務艦隊『鳶』 パート1

脳内妄執 艦これSS
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

7-1-21「だが、任務を与えるという事は我々が外に出る契機にはなる。大淀、にも関わらず何故向こうは急にこんな事を言いだしたと思う?」 大淀の答えは待たず、嘲る様な笑いを見せながら風見はそのまま続ける。 「新型の綾波、浜風…そして第一線を駆けた艦娘。惜しくなったのさ…」

2016-06-20 22:16:21
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7-1-22 この時…ギラついた光が風見の目に灯るのを大淀は確かに見たような気がした。 しかし、次に風見が口を開いた時にはその雰囲気は微塵も感じなくなっていた。 「さて、鳳翔が搬入の際にその艦娘と会っているだろう。となれば…」 遮るように執務室の扉を叩く音。 「噂をすれば、だ」

2016-06-20 22:16:48
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7-1-23「提督、此方に編入となった艦をお連れしましたわ」 声の主は予想通り鳳翔だ。 「ああ、伝文は受けている。入ってくれ」 大淀は手持ちの書類を素早くファイルに挟み込み、風見も椅子に掛け直す。 「失礼します」 執務室に入ってきたのは、白いリボンにツインテールが特徴的な艦娘。

2016-06-20 22:17:16
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7-1-24「本日付で舞鶴の艦隊より編入となりました、長良型軽巡2番艦 五十鈴です。提督、宜しくお願い致します」 「私は風見、ここを預かっている者だ。以後宜しく頼む」 挨拶を済ませると、風見はちらと大淀に視線を送る。大淀も同時に風見に視線を送っており、風見の目を見て頷く。

2016-06-20 22:17:39
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7-1-25「さて…五十鈴、早速で済まないのだが君に聞きたいことがある」 「な、何でしょうか」 五十鈴からはぎくりとした様子がはっきりと伺えた。自分でも予想はついているのだろう。 「ご覧の通り、ここは作戦の中心からは程遠い僻地だ…最前線に居たであろう君がここに来るには理由が要る」

2016-06-20 22:18:20
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7-1-26「差し支えなければ聞かせてほしい。舞鶴で一体何があったのか」 単刀直入。いつもと状況が違うだけに、理由を聞かないのも逆に不自然だ。 五十鈴はこの質問に応えるのにやはり躊躇した様子を見せる。 「無論、無理に教えろとは言わないが…」 「あの…いえ!お話します…」

2016-06-20 22:18:52
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7-1-27 気持ちを落ち着かせるために一呼吸おいている五十鈴は何とも複雑な面持ちをしている。風見は鋭くそこに絡みつく感情を読み取ろうと試みる。 これは、寂しさ、不安と…迷い? 「…私はここに配属される前は、舞鶴の鎮守府で一水雷戦隊を率いる旗艦の役割を担っていました」

2016-06-20 22:19:35
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7-1-28「ですが一月ほど前、敵深海棲艦の部隊から味方を退避させる任務の際に、敵の砲撃をまともに受けて航行不能に陥った所に集中砲火を受け…酷い傷を負いました。轟沈する一歩手前の所を何とか助け出されて曳航され修理して…工廠の関係者からは殆ど致命傷に近い深手だったと聞いています。」

2016-06-20 22:20:07
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7-1-29 話を進める毎に五十鈴の顔つきは辛そうになっていく。「修理にはこの一月を丸ごと要しました。結果、任務からも長期に渡り離れる事となり…その間に旗艦の任は別の子に。そして、辛くも復帰出来た私には、異動が通告されました…」 「…そうか。いや、済まないな、嫌な事を語らせた」

2016-06-20 22:20:29
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7-1-30「いえ、大丈夫です。遅かれ早かれ話さなくてはいけない事でしたから…」 話しきると幾分か楽になったようだ。五十鈴はややぎこちない笑顔を浮かべる。 「これから任務の話なども進めなくてはいけないだろうが、先ずは少し休むと良い。鳳翔、空いている部屋への案内を頼めるか?」

2016-06-20 22:21:10
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7-1-31「畏まりました。では五十鈴さん、案内しますね」 二人は一礼すると、鳳翔の先導で執務室から退出していった。 扉が完全に閉まった事を確認してから5秒置くと、風見は口を開く。 「思い切って聞いてみたが、どうだ?」 「表向き真っ当な理由に聞こえますが、納得するには早いですね」

2016-06-20 22:21:18
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7-1-32「ああ、そうだ…深手を負って戦線から長く離れなくてはならない状態になったとして、旗艦の役割から降ろされる事はあれ、それだけで『戦力外通告』を下されるような事があってたまるか。それも危険な海域で旗艦として任務を全うする実力がある艦娘、普通はそう易々と手放したりはせん」

2016-06-20 22:22:46
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7-1-33「私には何か隠し事をしているように見えましたよ~」 「そうだな、それには同意…」 大淀と自分しか居ないハズの執務室に別人の声が混じった事に気付く。 「!?」 視線を扉に戻すと…綾波と浜風が半開きの扉から首を縦に並べて執務室の中を覗き込んでいる姿が目に入った。

2016-06-20 22:23:09
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7-1-34「お前達…ノック位はしなさい。というか、今の話をどこから聞いていたんだ」 「見た事の無い艦娘さんが入っていくのが見えたので、扉に二人で耳をぴったりくっつけて聞いてました」 「…」 二人が会話を盗み聞いている姿を想像して溜め息をつく。 今度明石に重厚な扉を作らせようか…

2016-06-20 22:23:26
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7-1-35「ところで、隠し事というのはどうしてそう思うの?」 風見を尻目に綾波の発言を掘り下げる大淀。これには浜風が応える。 「五十鈴さんが舞鶴での話をする前の『間』です。あれは、気持ちを整えているというよりは、言いたくない部分を心の中に伏せている時間…私にはそう思えました」

2016-06-20 22:24:26
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7-1-36「声しか聞いていないので私には分かりませんが、その時五十鈴さん、例えば目が泳いだり、迷っているような表情をしていませんでしたか?」 「…確かに。鋭いな、浜風」 言われてみればあの時の表情はそれに該当している。 「どうやら我々には言いたくない秘め事がまだあるようだな」

2016-06-20 22:24:36
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7-1-37「で、それはどこで培った『読心術』なんだ?」 何となく答えの予想はついたが、風見は一応浜風に聞いてみる。 「…何かと誤魔化そうとする人間が私の傍にはいつも一人居ましたからね」 浜風の目線の先には想像通りやはり綾波。綾波はバツが悪そうに苦笑いしている。全くこの兄妹は…

2016-06-20 22:25:36
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7-1-38「…まぁ、説明の手間が省けただけ良しとしよう。だが次回からは盗み聞きなんてしてないで最初から入ってこい。あぁ、待った、丁度2人居る序でだ、大淀」 大淀は先程しまっておいた書類を再度風見に手渡す。 「五十鈴を旗艦とし、後はお前達で…ごく小規模な部隊を編成する事になった」

2016-06-20 22:25:44
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7-1-39「え?それってどういう…」 「端的に言えばお前達に漸く任務を行う役割が入ってくるようになるという事だ…『特務艦隊』としてな」 それを聞いて綾波はうんうんと頷く。 「なるほどー、ご都合主義な人達に働けって言われた訳ですね!」 風見も大淀も眩暈がした。此奴らは無駄に鋭い。

2016-06-20 22:26:18
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7-1-40「でも、ちょっと嬉しい気もしますね。その艦隊って決まった名前もあるんでしょうか?」 「ん、そういえばそうだな…」 綾波の質問に、風見はもう一度書類に目を通してみる。 そして、先程は突拍子もない内容を突き付けられて頭が一杯で気付かなかったその艦隊名を…見つけた。

2016-06-20 22:27:46
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7-1-41 部隊の名前を見て、風見は妙な笑いを浮かべた。 「…『鳶』だ。特務艦隊『鳶』」 「はぁ、『とび』ですか…」 綾波は若干不服そうな顔をしている。 「悪くはないですけど、もう少し心象の良い名前だって沢山あると思うんですが…」 「ハッ…『これが似合い』と思っているのだろう」

2016-06-20 22:27:58
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7-1-42 鳶は鷹科の鳥で比較的人間に身近な鳥類だ…決して悪いイメージばかりの鳥という訳でも無い。 だが「鳶が鷹を生む」という諺にも垣間見られるように、こと「鷹」と比べると低位に印象付けられている。 「鳶」というネーミングは、過去「鷹」と呼称された風見への当て付けでもあるのだ。

2016-06-20 22:28:11
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7-1-43「…この話に浮かれてばかりも居られない。皆、五十鈴の事も注意深く見ておいてくれ」 この艦隊の編成が明るい明日への糧となっていくか、はたまた暗い未来の先駆けとなっているか…何れにせよその『切符』はまだ目の前で揺れ動いていて完全には掴み取れていないのだ。

2016-06-20 22:28:50
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

…彼女の存亡が、鍵となっている。

2016-06-20 22:30:00
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7-1-44 鳳翔に案内された個室。五十鈴は体をベッドに横たえ、長い航海の疲れを癒すため浅い眠りにつこうと何度もずっと試みていた。 だが、上手くいかない。目を閉じるとまた「あの」イメージが脳裏にちらついてきてしまう。 顔でも洗おう…半ば諦め気味に目を開き、体を起こす。

2016-06-20 22:30:24