「アポロ飛行士に高い循環器系疾患死亡率、放射線が原因か 研究」という記事が出たので論文を探し出して読んでみた

AFP-時事の記事「アポロ飛行士に高い循環器系疾患死亡率、放射線が原因か 研究」(2016年7月29日付) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160729-00000010-jij_afp-sctch フロリダ州立大学の公式ニュースサイトの記事 http://news.fsu.edu/Top-Stories/Apollo-astronauts-experiencing-higher-rates-of-cardiovascular-related-deaths Scientific Reports誌に掲載された論文 続きを読む
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aramaki @aramaki34

@parasite2006 月に行ったアポロ宇宙飛行士は一般アメリカ人とそう変わらない、一方、地上訓練のみやISSクルーの人達は異常に低いってことに? これはなぜなんでしょう、こっちに興味が。健康に生活していると(肉体を鍛えていると)、この程度の循環器系死亡率になるよってこと?

2016-07-30 16:33:42
nao @parasite2006

@aramaki34 確かにそうですね。米国人一般集団と同程度ならまだしも、比較したら有意に低い地上訓練のみやISSクルーの人達の循環器系疾患死亡率を基準にして「アポロ宇宙飛行士の循環器系疾患死亡率が4–5倍高い」なんて抄録に書かれても、「なんじゃこりゃ?」としか。

2016-07-30 16:47:51
nao @parasite2006

@aramaki34 まあ社会経済的条件のばらつきが激しい米国人一般集団に比べたら、宇宙飛行士に選ばれるほどの人達はみんなはるかに手厚い健康管理を受けているのは確実でしょう。それ以前にそもそも心身ともに健康でなければ選抜に残れないでしょうし、健康に対する意識も高いはず。

2016-07-30 17:23:54
nao @parasite2006

@aramaki34 あ、アポロで月に行った宇宙飛行士と(月に行く代わり地球の周りを回るようになった)スカイラブやISSのクルーの間には明らかな年代差があります(選定時年齢はほとんど同じ)。選定時期は前者が1964 ± 1.0年、後者が1978 ± 2.1年で最低でも10年の差

2016-07-30 17:40:40
aramaki @aramaki34

@parasite2006 アメリカの宇宙飛行士って半分、事故で死んでるんですね。驚きました。アポロ宇宙飛行士でも14%で一般人5%の3倍って。事故くらいでしか死なないほど健康?

2016-07-30 17:40:47
nao @parasite2006

@aramaki34 「事故くらいでしか死なないほど健康?」かもしれませんねえ。

2016-07-30 17:51:23

その3:後半の動物実験

nao @parasite2006

アポロ宇宙飛行士の循環器系疾患を取り上げて話題になっているフロリダ州立大学の研究。論文nature.com/articles/srep2… を見てみると、後半部分で無重力状態と宇宙線を模した粒子線の照射が動脈の構造にどのような影響を及ぼすか検討した動物実験(ラット)を報告している。

2016-07-31 09:21:05
nao @parasite2006

44匹のラットを無重力状態(専用装置を使い14日間しっぽで吊り下げ)、粒子線全身照射(Fe-56イオンを線量率10 cGy/分で10分間、総量で1 Gy照射)、無重力+照射(照射は吊り下げ開始3日後に実施)、対照(何もしない)の4群に分け、処理終了6-7週間後から影響を検討

2016-07-31 10:19:07
nao @parasite2006

粒子線照射により動脈系(特に血管内皮細胞)の機能が変化し、その結果として動脈硬化性心血管疾患(狭心症、心筋梗塞、一過性脳虚血性発作、脳梗塞、末梢動脈疾患)の発症に至る可能性が動物(齧歯類)や培養細胞を使った最近の実験から示唆されており(5件の論文を引用)、本報ではこれを検証。

2016-07-31 09:57:21
nao @parasite2006

各群11匹のラットの中から1日おきに1匹を無作為に選んで安楽死させ、左右後ろ足の腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)に血液を送る動脈を単離して血管拡張薬/収縮薬に対する反応を調べる一方、タンパク質発現量検討用に凍結保存。同時に心臓に血液を送る冠動脈も単離しタンパク質発現量検討用に凍結保存。

2016-07-31 10:28:25
nao @parasite2006

無重力状態、粒子線照射処理から影響の検討までに6-7週間の時間を置いているのは、宇宙滞在の長期的影響をシミュレーションするため。論文の考察の項によれば、使用した系統のラットの寿命が878 ± 10日なので6-7週間はヒトの寿命の約20年に相当する。

2016-07-31 10:35:02
nao @parasite2006

粒子線照射を受けたラット(無重力状態で照射を受けたラットも同様)の腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)に血液を送る動脈では、対照ラットと比べて血管内皮を介するアセチルコリンの血管拡張作用が有意に低下(図2)nature.com/articles/srep2… 無重力状態だけでは対照と有意差なし

2016-07-31 10:53:49
nao @parasite2006

血管内皮を介さない血管拡張薬(Dea-NONOate)の血管拡張作用には、無重力、粒子線照射、無重力+粒子線照射、対照の4群間で差はつかず(図4)、血管収縮薬の作用にも群間差はなかった(補助データファイル)。nature.com/articles/srep2…

2016-07-31 11:01:50
nao @parasite2006

腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)に血液を送る動脈と心臓に血液を送る冠動脈のタンパク質発現検討では、活性酸素発生に関係するキサンチンオキシダーゼ(XO)が粒子線照射ラットと無重力+粒子線照射ラットで有意に増大(図5、上が足の動脈、下が冠動脈)nature.com/articles/srep2…

2016-07-31 11:28:18
nao @parasite2006

もっとも図5 nature.com/articles/srep2… を見る限りでは、上=足の動脈でも下=冠動脈でも、粒子線照射ラットと無重力+粒子線照射ラットの間にキサンチンオキシダーゼ(XO)の発現量の有意差がありそうには思えないけれど。

2016-07-31 11:33:06
nao @parasite2006

図2 nature.com/articles/srep2… でも図5 nature.com/articles/srep2… でも粒子線照射ラットと無重力+粒子線照射ラットの間に有意差がつかなかったことから、無重力状態と粒子線照射の間に相乗効果がありそうには見えない。

2016-07-31 11:43:17
nao @parasite2006

粒子線照射により血管拡張薬アセチルコリンに対する血管内皮の反応性が低下し(図2)動脈におけるキサンチンオキシダーゼ(活性酸素発生に関与)発現量が増大したこと(図5)、血管拡張物質である一酸化窒素(NO)の合成を阻害するとアセチルコリン反応性の群間差がなくなること(図3上)から(続

2016-07-31 11:56:17
nao @parasite2006

(続き)著者らは「粒子線照射により血管内皮の血管拡張薬に対する反応性が低下するのは、キサンチンオキシダーゼの発現量が増えて活性酸素の発生量が増大し、血管内皮が産生する血管拡張物質であるNOが活性酸素と反応して消去されるためだ」と説明している。

2016-07-31 12:22:55
nao @parasite2006

著者らは本報nature.com/articles/srep2… の結果をもって「宇宙空間で宇宙線を浴びると、長時間経っても血管内皮の機能低下(心筋梗塞や脳卒中などの閉塞性動脈疾患の発症に繋がりうる変化)が影響として残る」ことが動物実験により裏付けられたとしているが、研究の限界も指摘。

2016-07-31 12:52:03
nao @parasite2006

限界その1。宇宙飛行士の死因に占める循環器系疾患の割合の検討の標本数が少ない。したがって、個別の健康リスクについて確定的な結論を出すには注意が必要である。

2016-07-31 13:01:00
nao @parasite2006

限界その2。深宇宙(deep space)で放射線を浴びることがアポロ宇宙飛行士の循環器系疾患による死亡率が高いことの原因になっている可能性が高いとはいえ、宇宙環境のどんな要因が原因になっているかは不明である。

2016-07-31 13:08:27
nao @parasite2006

限界その3。動物実験で使われた粒子線照射の条件、照射総量=1 Gy、線量率=1 cGy/分はいずれも月へ行ったアポロ宇宙飛行士が経験したものより大きいと考えられる。(実際の宇宙ではもっと低い線量率で長期間浴びると考えられるが、Fe-56イオンでこうした照射条件が実現していない)

2016-07-31 13:15:46
nao @parasite2006

(本報で使われた照射総量=1 Gy、線量率=1 cGy/分という照射条件は、たとえば骨髄移植の前処置として行われるγ線全身照射の条件twitter.com/parasite2006/s… すなわち2 Gyを20分間(6 Gy/h=10 cGy/分)と比較するとまだ線量率が低いことになる)

2016-07-31 13:24:58
nao @parasite2006

(続き)骨髄移植の前処置としてもとからあった白血球を全滅させるために行われる全身照射の条件がこれbit.ly/R3xuxu bit.ly/R3xE8f 午前中2 Gyを20分間で(6 Gy/h)。午後も同じ。これを3日間やって総線量12 Gy

2014-04-10 06:09:39

すみません、調べてみたら骨髄移植の前処置で全身照射されるのはγ線ではなくX線でした。
http://www.sasappa.co.jp/online/abstract/khs/1/045/02104501036.html