第10話 「監獄島に流れる時間」

脳内妄想艦これSS 独自設定注意
0
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

__ 第10話「監獄島に流れる時間」 __

2016-08-02 22:00:18
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-1「最近皆さん、あまり屋内で姿を見ませんねー」 とある夏の日の風見の執務室。うだるような暑さの中、応接机で扇子を片手に読書している大淀。 「んあぁ…?そうだなぁ…」 そして此方の情けないトーンの返事の主は風見である。 机に右頬をつけて突っ伏し、完全に脱力している。

2016-08-02 22:02:00
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-2「あのバカが何を吹き込んだか知らないが、皆相当やる気だもんなぁ…この暑いのに元気な事だ」 当然ながら、孤島である監獄島に電気は通っていない。発電機が存在するため電気自体が無い訳ではないが、負荷がかかり過ぎないように使用されている。 早い話、執務室の冷房は動いていない。

2016-08-02 22:02:17
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-3「明石は工廠、鳳翔さんは雲龍さんのために艦載機の手入れ。扶桑さんはどうしてますかねぇ」 「知らん、自室で劇物でも作ってるんじゃないか…」 机の上に落ちた汗を握った拳でぐしぐしと拭いながら、風見が気の無い返事をする。 「今の机の上に資料を乗せたりしないで下さいね」

2016-08-02 22:03:49
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-4 大淀は心底呆れた表情で汗まみれの風見を見る。 だが、その時換気の為に開け放ってある執務室の入口をくぐって、『汗まみれ』がもう一人登場した。 「あーっづーいぃー…提督ー、大淀ぉ…今回来てた分のノルマ達成しましたよぉ…」 明石が装備品の製作と改修を終え、報告に現れたのだ。

2016-08-02 22:05:29
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-5「ご苦労様、明石。にしても酷い格好してるわねぇ…」 密閉性の高い工廠の蒸れた空気に加えて溶断、溶接、更には機械の排気熱も合わさり、明石の汗の量は風見の比ではない。 「おーう、ご苦労…水色、見えてんぞー…」 服もぐっしょりと塗れ、下着も透けて見えてしまっている。

2016-08-02 22:07:09
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-6「…一々構ってたらこの時期に作業出来ないんですってばー」 そう言いつつも、明石は首にかけていたタオルの位置を軽く整えた。 「大淀、成果物はいつも通り格納してあるから後は宜しく…私はお風呂頂いてきますねー…」 報告だけ済ませると、明石はだるそうに身体を引きずって出て行った。

2016-08-02 22:08:36
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-7「あぁ、もう我慢ならん…大淀、納品の手続きは任せた。俺は扶桑のところに涼みに行ってくるわ…」 扶桑の作業場は監獄島では珍しく冷房がかかっている貴重な場所である。 薬剤等の保存のため室内温度が調整されていると言う方が正しいのだが。 「はいはい、行ってらっしゃいませ」

2016-08-02 22:09:56
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-8 大淀は『もう聞き飽きた』とでも言いたげなトーンで風見に返事をすると、読んでいた本に視線を戻す。 …この時期になると、風見は頻繁に扶桑の作業場を避暑地として使い始めるのである。他の面子が覚えたりしなければ良いが。 そんな大淀の不安を他所に、風見は執務室を出て行く。

2016-08-02 22:11:16
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-9「おっと、そうだ」 出て行く直前、思い出したように顔をのぞかせる風見。 「?」 「次の物資の申請、通るか分からんが、日焼け止めとUVカットも強い奴を一緒に申請してみてくれ。このまんまだとひと夏過ぎるころにはアイツらが黒焦げになりかねん」 そして、今度こそ執務室を後にした。

2016-08-02 22:12:38
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-10 島の岸辺から200m程度離れた海上。綾波は配置に就くと装填状態を確認し、一度胸に手を当てて深く呼吸する。 「…よしっ」 心の準備を整えると、彼女は手を高く上げて岸に居る浜風に合図を送り、前方に集中する。 …合図を受けた浜風は岸辺の装置の状態を確認し、稼働させた。

2016-08-02 22:14:14
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-11 バシュッ!! 鋭い音と共に装置から射出されたのはクレー射撃に用いられるクレーを模した円盤状の『的』だ。 但し、射出速度はクレー射撃のそれと比べても非常に速く、的自体も強烈な射出に耐えうるよう大き目の金属となっており、クレーと言うよりはさながら砲弾である。

2016-08-02 22:15:16
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-12 そして、撃ち出される『的』も一発切りではない。 バシュッ!…バシュッ!! 軽いインターバルを置いて、浜風は射出角度を微妙に変えた円盤を次々に飛ばしていく。 海上の綾波は集中力を高めると、飛来してくる円盤に狙いを定め、一発、また一発とトリガーを引いていく。

2016-08-02 22:16:21
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-13 用意していた弾は10発、そして、撃ち出された的は10枚。 綾波はこの内半分の5枚を撃ち落としていた。 「5枚…かぁ」 射撃を終え、浜風のいる岸辺へと戻る綾波の表情は浮かない。『納得いかない』という顔である。 「お疲れ様、綾波。半分位は安定してきましたね」

2016-08-02 22:17:32
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-14「うーん、ホントは全部当たったらなって思うんだけど難しいね…」 浜風からタオルを受け取って汗を拭きつつ不満げにこぼす。 「それはそうでしょう。僅か4~5秒で自分の位置まで辿り着くような的の未来位置を予測して撃ち落としているんです。私はまだ3枚落ちれば良い方ですよ…」

2016-08-02 22:18:51
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-15 この射出機は、綾波の演習場での射撃訓練を見た風見が『より高難度な』訓練が出来るよう、廃棄予定の砲をベースに明石に作らせた物である。 確かに、初めてすぐ、偶然当たれば良かった程度の頃に比べれば大分上達したとは言えるかもしれない。 だが、やはり納得はいかなかった。

2016-08-02 22:19:50
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-16「でも、もし訓練じゃなくて戦いの場だったら、私に向かって飛んでくるのは金属板なんかじゃなくて艦載機とかだもの…全部撃ち落とせて初めて成功なんだよ」 「自分に厳しいですね、綾波は」 そんな綾波の様子に、浜風はクスッと笑う。 「ピアノの練習でぐずってた頃とは別人だな?」

2016-08-02 22:20:47
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-17「こんな所でちっちゃい頃の話を出さなくていいよ…って、まぁ確かに『別人』と言えばそうだったっけ」 そんな話をして二人で笑い合いながら、水筒のお茶を飲んで一息入れる。 日光は何にも遮られる事なく熱気を振りまくが、海の傍は比較的涼しい。 それでも適宜の小休止は不可欠だった。

2016-08-02 22:21:45
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-18「でも、どっちかと言うと向こうの方が厳しいよね」 綾波が目線で示した先、倉庫の前では五十鈴と雲龍が組手を行っていた。 といっても、雲龍は見ている限り五十鈴に一切手を出そうとはしない。 五十鈴が一方的に雲龍に打ち込み、雲龍はそれを軽い動きでいなし続けているのだった。

2016-08-02 22:22:48
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-19「ぬっ…ぐっ…このっ…!」 右、左、右ボディブロー、下段蹴り、掌底打ち、ロシアンフック、二段ハイキック、右ストレート、左肘打ち… 五十鈴が流れるように繰り出す打撃を、雲龍は全て最小限の動きで回避するか、ガードで打ち払って流していってしまう。 「まだまだね」

2016-08-02 22:24:12
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-20 五十鈴が繰り出した上段への後ろ回し蹴りを深く沈んだ姿勢でかわしたところで、雲龍は五十鈴の軸足に素早く足払いを仕掛ける。 「ひゃわっ!?痛った…あっつつつつぃいい!!」 日光でたっぷりと熱されたアスファルトに転倒し、五十鈴は叫び声を上げて飛び上がった。

2016-08-02 22:25:02
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-21「初めに比べれば様になってきたけど、行儀の良い体術ね」 「行儀良いって…」 五十鈴は若干涙目で腿をさすりながら歯噛みする。 「もっ、もう一回よ!」 「待ちなさい、闇雲にやっても仕方ないわ」 子犬のように食って掛かって来る五十鈴を制止し、雲龍は綾波達の方をちらっと見た。

2016-08-02 22:26:41
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-22「そうね、今が良いタイミングみたいだし、あの子達にもまとめて教えておきましょうか」

2016-08-02 22:26:56