第10話 「監獄島に流れる時間」

脳内妄想艦これSS 独自設定注意
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-23「貴方達、『右手を上げる』事は出来る?」 綾波と浜風も招集し、雲龍が最初に3人に問いかけたのがこれだ。 「はぁ?どういう事よ…」 「えっと、こうですか?」 困惑しながらも3人はそれぞれ自分の右手を上げる。 面倒くさそうに。首を傾げながら。ぐーっと伸びをするように。

2016-08-02 22:28:28
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10-24「そうね、皆右手を上げる事は出来る。でも皆上げ方が違うのはなんでかしら」 雲龍にそう言われて、3人は各々の右手の上げ方を見合う。 全員「?」という顔だ。 「なんでって…なんで?」 「右手を上げる事への意識が違うからよ。どれが正しいという事は無いのだけど」

2016-08-02 22:29:22
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10-25「私達は歩いたり、走ったり、跳んだり、それこそ当たり前のようにしているけど、意識して動かしてるかっていうと違うでしょう?…要するに、私達は普段物凄く適当に身体を動かしているの」 雲龍は話しながらも倉庫の脇の廃材の中を探り、そこから廃タイヤを引っ張り出してきた。

2016-08-02 22:30:22
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10-26「歩く事一つとっても、モデルはランウェイを歩くためにトレーニングを行う。競歩みたいな特別な歩き方もあるわよね…」 出してきたタイヤを何やらビニール紐で固定しながら、雲龍は五十鈴を見て続ける。 「貴方は艦娘になる前にスポーツをやっていたのよね?それなら分かるでしょう」

2016-08-02 22:31:16
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10-27「筋力があれば、或いは体力があれば色んなスポーツが上手いのかしら?答えはノーね。勿論素地は必要なのだけど、幾ら筋肉があってもそれだけでは野球でホームランが出る訳でも、スキーのジャンプで遠くまで跳べる訳でもないし、幾ら体力があってもマラソンで速く走れる訳ではない」

2016-08-02 22:32:32
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10-28「…アンタの言いたい事は何となく分かった。私達は自分の身体の『本気の』動かし方を知らないって、そう言いたいのね」 「そういう事」 強く紐を結ぶと、廃棄されたドラム缶にタイヤが結び付けられた簡易の打ち込み台が出来上がった。 更に、雲龍は短い角材も拾い出す。

2016-08-02 22:33:08
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10-29「力の籠め方や角度、身体の捻り方…それから、打った後の力の抜き方と流し方…自分に合ったコツを掴めるまでは何百回でも何千回でも打ちこむのが一番ね。棒を使っても良いし、直接でも良いわよ」 涼しい顔で言ってのける雲龍。 「アンタ、何かのスポーツ漫画の中にでも住んでたの…?」

2016-08-02 22:34:19
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10-30 異次元の物でも見るような目つきで五十鈴に見られても何のそのだ。 五十鈴に角材を手渡し、彼女は今度は綾波と浜風の方に向きなおる。 「貴方達も、頃合いを見てやってみると良いわ」 「え、えーっと…私達は多分無理じゃないかなって…」 綾波は引きつった笑顔で遠慮する。

2016-08-02 22:35:23
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10-31「そう?それはちょっと勿体無いわね」 腕組みし、ゆっくりと目を閉じた雲龍が次に目を開いた時には…『彼』の雰囲気が現れ出た。 「『俺』にだって元々出来た訳じゃない。人間にゃ限度ってものがあるからな…全く、艦娘ってのは本当ズルい身体の作りをしてると思うぜ」

2016-08-02 22:37:13
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10-32「遠目にお前達の狙撃もよく見せてもらってるよ。良い腕してるじゃないか。流石に風見さんが仕込んだだけの事はある」 照海に突然褒められて二人は面食らった。 よもや彼からそんな事を言われるとは思ってもみなかったのだ。 「その、有難うございます」

2016-08-02 22:38:49
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10-33「兵卒時代も俺はそっちはからっきしだったからな。でも、お前達だって別に人間だった頃から上手かった訳じゃないだろ?」 照海はにっ、と笑って二人と目線の高さを合わせる。 「やるかやらないかの問題だ。お前達も、後ろで必死になってる奴も、きっと面白い事が出来るようになる」

2016-08-02 22:40:10
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

10-34 照海の後ろでドラム缶を前に打ち込みを開始した五十鈴が大きく舌打ちした気がする。だが、彼女も口を挟もうとはしなかった。 「気が向いた時はいつでも言ってくれ。たっぷりと鍛えてやるからよ」 「あ…」 綾波と浜風の両肩をポンッと叩くと、雲龍は五十鈴の監督に戻っていった。

2016-08-02 22:41:58
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10-35「…ですって。どうしましょう綾波、私達も頑張ってみるべきでしょうか…綾波?」 浜風が綾波の顔に視線を移してみれば、彼女は雲龍の後ろ姿をじっと見つめ、浜風の言葉が耳に届いていない様子。 「綾波」 名前を呼びながらつんと頬を突いてやると、漸く彼女の時間が正常に動く。

2016-08-02 22:43:17
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10-36「わっ!?な、なに?」 「…理由は後で教えてもらうからな」 二人は倉庫前を離れ、狙撃の演習に戻っていった。

2016-08-02 22:43:51
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

…綾波は分からなくなっていた。先日、風見や鳳翔から聞いていた昔の照海の姿と、ああして二人を諭していた照海の姿は、あまりにかけ離れている気がしたのだ。

2016-08-02 22:45:01
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

__ 第10話「監獄島に流れる時間」終わり 第11話「監獄島に渦巻く謀略」に続く __

2016-08-02 22:46:31