- sweetblue818
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51. 「おもちっ!」 この前スーパーで買ってきた袋に入った餅。暑い中これを出したらどんな反応するだろうって遊び心で買ってきたのがずっと昔のことに思える。 「なぁ!これ食べてもええ?ルリには別のん作るから!」 「いいよ、同じので」 章はパッと笑顔になった。
2016-07-20 20:45:2853. 「お!結構食べたな」 安心したような表情を見せる。 「おいしかった」 「せやろぉ?暑い日のおもち!」 上機嫌の章。 「片付けるね」 台所に向かう。 「えーよ、俺やるって」 「ううん、もう大丈夫」 「ほな、一緒にしよ?」 ニコッと笑ってついて来る。
2016-07-20 20:47:2454. 「洗って。俺拭く」 「ありがと、」 「なんか新婚さんみたいやな」 隣で微笑む章に心が溶けていく。 じわりと涙が出て来て、それがばれないように笑った。 「はぁ、やっと笑ったぁ…」 嬉しそうな章の瞳もちょっとだけ潤んでいた。
2016-07-20 20:47:4655. ** チュッ。 頬にキスされる。ふふっと笑って今度は額にキス。 「章、片付かないよ、」 「ええやん?」 チュッ、鼻先にキス。 「もう、章ってば」 「泡つけたら、アカンで?」 手が泡だらけのわたし。 「ふふ、俺の思うがままぁ」 いたずらっこの笑顔。
2016-07-20 20:48:1656. 「章、片付け…」 「んー、」 チュッ。 「ね、」 「後にしよ」 章の両手が頬を包んだ。 優しく見つめたあとそっと唇を重ねる。少しずつ深くなるキス。泡をつけないように腕を背中に回した。 「んぁ…、作戦失敗」 章は目を閉じたままため息をついた。
2016-07-20 20:48:4857. 「流さな続けられへん、」 ムード切れるわ、吹き出したあと手を取って泡を流すともう一度私を抱きしめた。 「ルリ、聞いて?」 身体を離した章が真剣な表情で見つめる。 「俺がルリを守る」 「うん、」 落ちた涙に章はそっと口づけた。
2016-07-20 20:49:1058. *** 章に触れられる肌が熱い。 「章…っ」 「ええ?」 「ん」 「腕回しとき」 だんだん何も考えられなくなってく。 「っっ!」 「痛!!」 章の首筋にうっすらにじむ血。 「ごめ、」 「ええからっっ、」 つないだ手に力をこめる。
2016-07-20 20:49:5659. それから朝まで何度も愛し合った。 目が覚めたとき、章はしっかり手を握ってくれていた。 pic.twitter.com/2QyJHK2WL2
2016-07-20 20:50:3560. *** 「章、わたしが行くよ。」 頭痛薬を買ってくる、と部屋を出る章。 「んや、大丈夫。外の空気吸いたいし」 「けど、」 「いつものことやし。気にせんで家のことやっといて」 心配しすぎ、と笑いながら頭をクシャっとする。
2016-07-20 20:51:2661. 「すぐ帰って来るから。ちゃんと鍵締めときや?」 「…うん」 章と暮らし始めてから変なことは起きなくなった。 誰かに見られてる感じも。ひょっとしたら最初からわたしの勘違いだったのかなって。 章と一緒にいられる時間が今までの不安を上書きしていった。
2016-07-20 20:51:4862. 取り込んだ洗濯物を畳む。小柄に見えるのに、大きな章のシャツ。この大きなシャツがちょうどいいほどがっちりとした章の肩。さっきまで一緒にいたのに胸がキュンとなってシャツを抱きしめた。わたしはこの大きな身体に包まれて守られてるんだ。ゆっくりじわりとこみ上げる幸せ。 「章…」
2016-07-20 20:53:1863. *** 「何?」 ハッとして顔を上げると章がいた。 「ただいま」 「どうしたの?」 「財布忘れてん」 あった、と棚の上に手を伸ばす。 …? 「何してんねん俺」 何か…。 「…あ、やっぱりわたし行くよ。」 「いや、もうええわ」
2016-07-20 20:54:4964. 章は今手にしたばかりの財布とポケットから出した携帯をテーブルに置いた。 「章?」 「あんなとこ見せられたらさ、」 さっき抱きしめたシャツに目を向ける。 「行ってほしないやろ」 身体を引き寄せられて一瞬で章の腕の中に納まった。 …ほんのかすかな違和感。
2016-07-20 20:55:2265. (何かが違う) 顔も、体も、声も章だ。だけど、何かが違う。 「ベッド行こ」 「まだお昼だよ」 身をよじって章から離れた。 この感じは何? 「何考えとるん?」 顔を覗き込む章。章がまとう雰囲気がさっきまでと違う。でも何が? 「なした?」
2016-07-20 20:55:5366. いつもの優しい笑顔。 何? (ほな行って来るわぁ) (ただいま) !! 違う。この人。 「あなた…誰?」 「何ゆーてんねんな。どうした?」 笑顔を見せる。でもその目は笑ってない。 「また怖なった?大丈夫やって。俺おるから」
2016-07-20 20:56:3667. 「違う…、あなた章じゃない。」 「俺、ショウやで」 「違う!」 「何がちゃうねん」 表情を変えることなく近づいてくる。 「見て?」 首筋の傷を見せる。 「見覚えあるやろ」 「どうして、」 「どうしてって自分がつけたんやろ?」
2016-07-20 20:57:3268. 冷たい目。静かに言葉を続ける。 「これ痛かったわぁ。今度から気つけてな?俺“関係ないのに”痛い目あわなアカンくなる」 「なんで…」 「なんでって、わからへん?俺、ショウやから。あんたが大好きな。顔も声も傷も全部同じ」 pic.twitter.com/Ew8aCcgy6z
2016-07-20 20:59:3269. 「同じやから、」 「俺でええよな?」 「いや…」 首を横に振ることしかできない。 「何で?何でアカンの?何が違うん、俺とアイツ」 逸らせない目。 「身体だって同じやで?」 壁際まで追い詰められる。吐息交じりに耳元でささやく。
2016-07-21 20:52:0670. 「左耳に髪かけられんの、好きやんな。こうやって右頬に手で触れられて。これが二人の合図」 「俺、全部知ってる。あんたのどこを触れれば、どう反応するのか。あんたの身体のこと、ぜーんぶ」 「こないだやって俺とで気持ち良かったろ?」 「!!」 無邪気な笑い声。
2016-07-21 20:52:4471. 「俺な、何でも知っとんの。あんたのことだけじゃなく、アイツのことも。あんたはきっと俺で満足するし、アイツはきっと許してくれる」 「そんなわけない!」 「何でよ。俺、ずーっと見てんねんで。二人のこと。何でもわかんねん。たとえば、」 含み笑いがすーっと消えた。
2016-07-21 20:53:1872. 「1週間前あんたはアイツに帰れゆーた。けどアイツは帰らへんであんた休ませて飯作った。作ったもんは季節外れの餅。夕食後あんたが皿を洗ってアイツが拭いた。途中アイツはあんたにキスをした。両手が泡だらけだったあんたは抵抗できなかった。そのキスはだんだん激しくなって、」
2016-07-21 20:54:4773. 機械が話しているかのように抑揚なく早いスピードでまくしたてる。 「ベッドで抱き合っている最中あんたはアイツの首元に爪を立てた。それでもアイツは止まらなかった」 「あんたらがヤッたこと、もう少し“詳しく”話そか?」 「やめて!」 「何でよ、当たってるやろ」
2016-07-21 20:55:3374. 楽しそうな笑顔に背筋が凍る。 「なーぁ、教えてぇや」 「…?」 「何で気づいた?アイツちゃうって」 「…言い方。“ただいま”の言い方。あなたと章では微妙に違う」 (ただぁーいまぁ) (ただいま) 「ふっ、そんなんで。あんたホンマにホレてんねな。アイツに」
2016-07-21 20:56:5875. 「何でアイツばっかり」 「腹立つ」 言葉とは違う、感情を読み取れない冷たい目。 「返さへんよ。あんたに章は。章にあんたは」 pic.twitter.com/wElGMhUJXn
2016-07-21 20:57:43