レジェンド・オブ・エイトフィート

創作勢百物語企画! 子供を攫う不気味な巨人に狩人達が挑む!
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

その中の一人、彼らの代表者はただ真っ直ぐに海を見据えていた。彼は信じていた。あの狩人を。やがて、陽が上った。陽光が港湾部の闇を払う。「あれは…」誰かが言った。そして指差した。太陽の向こう側。海原を掛ける一隻の船を。彼らの目は捉えていた。その船の上で手を振る、子供たちの姿を。 2

2016-08-16 20:39:03
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「おーい!おーい!」呼ぶ声が聞こえた。代表者の男は、知らず涙を流していた。「ありがとう…ありがとう!」彼は心の底からの感謝の言葉を吐き出すと、顔を上げて手を振った。「おーい!おーい!」 3

2016-08-16 20:44:07
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

シュッ…シュッ…輸送船「あもり」甲板上。潮風を浴びながら、吹雪は手元の木片に何かを彫り込んでいた。そのナイフ捌きは慎重であり、厳粛なアトモスフィアを纏っていた。やがて、吹雪は木片に彫り込んだものを確認すると、張りつめていた空気を吐き出した。「ふぅ」「何してんだ?」 5

2016-08-16 20:51:46
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

その背に、リカルドが声を掛けた。吹雪は振り返った。「司令官」「珍しいな、彫り物なんてよ」そう言って、リカルドはリカルドは柵に凭れ掛かった。その手にはウィスキーの小瓶。吹雪も策に凭れ掛かり、己が彫ったものを見た。それは、簡略化された地蔵であった。 6

2016-08-16 21:00:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「神様を祀るもんだったか?」リカルドもそれを見て、ウィスキーを呷った。「ええ、そのようなものだったはずです」吹雪は太陽に透かすように木彫地蔵を天に掲げた。「…弔いか」「ええ」リカルドの言葉に、吹雪は頷いた。「あそこで大昔に死んだであろう子供たちに、そしてエイトフィートに」 7

2016-08-16 21:03:18
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「律儀なこった」リカルドはサングラス越しに太陽を睨む。「私にできるのは、忘れずに弔うことですから」「…そうだな」リカルドは薄く微笑むと、ウィスキー瓶を懐にしまった。「で、あの島どの辺だったか」「あの辺りかと」「そうか」2人はエイトフィートの島の方角へ向き直り、手を合わせた。 8

2016-08-16 21:06:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そして二人は目を閉じ、祈りの言葉を口にした。死者への鎮魂の言葉を。「ナムアミダブツ」「ナムアミダブツ」しばしの沈黙が流れた。やがてリカルドは目を開けると、「むず痒いもんだな」と呟いて船内へと姿を消した。吹雪はそれを見送ると、手元の木彫地蔵を海へと投げ込んだ。「イヤーッ!」 9

2016-08-16 21:10:44
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

それは、死者への献花代わりの行いであった。地蔵は海へと着水するはずであった。だが、海から突如として伸びた長い腕が地蔵を掴んだ。吹雪は目を見開いた。節榑立った指を持ったその腕は、ぐるりと地蔵を持って一回りすると、現れた時と同じように唐突に海の中へと消えて行った。 10

2016-08-16 21:13:25
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ぽぽぽぽぽ……アリガトウ……腕が海に消える瞬間、そんな音が聞こえた気がした。吹雪はただ静かに微笑むと、再び両手を合わせ、死者へと祈った。「ナムアミダブツ」 11

2016-08-16 21:15:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「レジェンド・オブ・エイトフィート」おわり

2016-08-16 21:15:27
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