レジェンド・オブ・エイトフィート

創作勢百物語企画! 子供を攫う不気味な巨人に狩人達が挑む!
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#1

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「レジェンド・オブ・エイトフィート」

2016-08-14 16:02:55
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ゲー…ゲー…中天まで登った太陽の光を背に、海鳥が気だるげに鳴く。そんな海鳥の声を聴きながら、スルト少年は小舟の上から海中に投じた投網を引き上げていた。「よっと」網の中身は色取り取りの魚で満ちていた。スルト少年はその中身を見て満足げな表情を浮かべると、小舟の床に投網を置いた。 1

2016-08-14 16:10:32
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「おー、兄ちゃんスゲー!」網の中身を見て、同乗していた弟のスノルが目を輝かせた。「へへっ、父ちゃんには内緒だぞ?ここかなりの穴場だからな」スルト少年は得意げに鼻の頭を掻くと、網の中の魚を取り出した。「さ、食えそうな奴を選んで早く帰ろうぜ!」「うん!」 2

2016-08-14 16:14:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

2人は網を解き、小ぶりな魚を海へ投げ捨て、大きな魚をそれぞれが持参した網籠へと放り込んだ。スルト少年はいつもより多い漁果を見てほくそ笑む。彼の父は村でも有数な漁のタツジンであった。艦娘によってある程度の制海権が取り戻された昨今、漁業もまた息を吹き返し始めていた。 3

2016-08-14 16:18:51
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

深海棲艦との戦争が始まった前後に生まれたスルト少年にとって、そのあたりの事情は知る所ではない。だが、数年前とは別人のように生気に満ち溢れた父親を見て、彼には対抗心が沸いていた。そこでスルト少年は、以前から噂で聞いていた「魚の多い海域」の話を頼りに、弟と共に漁へと繰り出した。 4

2016-08-14 16:22:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

結果は予想以上であった。海へ戻すような小さな魚はごく僅か。2人分の網籠ですら余るかのような量の魚が二人の前に齎された。「へへっ、父ちゃんの驚く顔が目に浮かぶぜ」スルト少年は己の漁果を前にして驚愕する父の顔を想像して更に笑みを深め、顔を上げた。そこに、スノルはいなかった。 5

2016-08-14 16:27:19
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「…スノル?」スルト少年は目を丸々と広げ、慌てて周囲を見渡した。まさか、自分が目を離した隙に海に落ちてしまったのか!?だが、周囲の海は凪いだかのように静かであった。そもそも、彼は海に何かが落ちた音を聞いていない。「スノル…どこだ?」スルト少年は顔を蒼褪めさせ、呼び掛けた。 6

2016-08-14 16:30:37
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

スルト少年の脳裏には、弟が消失したことへの困惑と、父に怒られてしまうかもしれない恐怖で綯交ぜとなった。「ハァーッ…ハァーッ…!」息が荒くなる。スルト少年は忙しなく周囲を見渡した。「スノル!どこ行った!悪戯なら兄ちゃん怒るぞ!」スルト少年がヒストリックに怒鳴った、その時だ。 7

2016-08-14 16:34:06
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ぽぽぽぽぽ……ぽぽぽぽぽ…… 8

2016-08-14 16:36:07
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

奇妙な声が聞こえた。「ヒィ!」スルト少年は悲鳴を上げ、さらに忙しなく辺りを見渡した。何もない。不気味なまでに。ぽぽぽぽぽ……ぽぽぽぽぽ……ただ音だけが苛むように響く。「す、スノル…なのか?」ぽぽぽぽぽ……「い、悪戯はやめろよぉ…こ、怖くなんかねぇぞ!」ぽぽぽぽぽ…… 9

2016-08-14 16:38:42
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ぽぽぽぽぽ……ぽぽぽぽぽ……ぽぽぽぽぽ……発生源不明の音は、嘲笑うかのようにスルト少年の周囲で響く。スルト少年は恐怖のあまり白くなるまで唇を噛み締め、身を震わせていた。「やめろよぉ…やめてくれよぉ…!」スルト少年は心の底からそう訴えた。やがて、音は消えていった。 10

2016-08-14 16:43:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「き、消えた…?」スルト少年は立ち上がり、何度目か分からぬほどに周囲を確かめた。やはり何もない。最初からそうであるかのように。「な、何だったんだ…」スルト少年は力なく小舟にへたり込んだ。「どこ行っちまったんだよ、スノル…」「兄ちゃん」不意に、声が聞こえた。弟の声が。 11

2016-08-14 16:45:06
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「す、スノルか!」スルト少年は喜色の笑みで振り向いた。悪夢は終わったのだ。どうせ弟の性質の悪い悪戯であったのだ。後でこっぴどく叱らなければ。そう思って振り返り、スルト少年の表情は凍り付いた。ぽぽぽぽぽ……ぽぽぽぽぽ……ぽぽぽぽぽ……ぽぽぽぽぽ……ぽぽぽぽぽ…… 12

2016-08-14 16:47:47
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そこに居たのは、果たして何だったのだろうか。スルト少年はへたり込んでそれを見上げた。それは、長い黒髪を振り乱す、見上げるほど巨大な女であった。その口からは、あの奇妙な音が零れた。ぽぽぽぽぽ……ぽぽぽぽぽ……女は口らしきものを歪めた。それは笑みのようであった。 13

2016-08-14 16:49:44
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ア…アア…」スルト少年は恐怖のあまり涙を流した。女は節榑立った両手で、スルト少年の胴体を、掴んだ!「アイエエエエエエ!ヤメロー!」スルト少年は狂乱し、逃れようと身を捩る。だが、見た目に反して込められるマンリキめいた力によって逃れることは叶わない!「アイエエエエエエ!」 14

2016-08-14 16:53:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

女はその様子を見て満足げにほほ笑むような仕草をすると、現れた時と同じように、静かに、唐突に海の中へと姿を消した。「アイエエエエエエ!?」絶望の悲鳴が響く。だが、それは一瞬であった。波すら立たせず、女と少年は姿を消した。海には、大量の魚で満ちた小舟が残るばかりであった。 15

2016-08-14 16:54:44
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

タウイタウイ基地指令室。「はい、確かに鹿屋からの物資、受領しましたよ」小太りなタウイタウイ基地長官は人好きする笑みを浮かべ、サイン書類をリカルドに手渡した。「あんたは仕事が早くて助かるぜ」リカルドは獣めいた笑みを浮かべると、書類を隣の吹雪に手渡し、ケースに収納させた。 17

2016-08-14 17:03:25
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ところで時間はあるかい?いい茶葉が手に入ったんだが」タウイ長官は自身のデスクから高級そうな紅茶葉の缶を取り出して言った。リカルドは苦笑して言った。「あるっちゃあるが、次の積み荷の指示をしなきゃいけねぇからな。残念ながら、今回は遠慮させていただくぜ」「そうか…」 18

2016-08-14 17:08:05
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

タウイ長官は残念そうな表情を浮かべ、紅茶缶をデスクに閉まった。その時だ。ターン!「海軍=サン!」乱暴に扉が開け放たれ、ぞろぞろと十数人の男たちがなだれ込んできた。「ワッザ?」「何ですか、この人達…」リカルドと吹雪は横へ押しやられ、訝しんだ。代表者らしき男が前に出た。 19

2016-08-14 17:13:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

代表者らしき男は勢いよく頭を下げた。「お願ぇだ海軍=サン!」集まった日焼け肌の男たちも一斉に頭を下げた。「俺達の子供たちを探してくんねぇか!」「いや、何度も言うがね…」タウイ長官は困惑したように答える。「深海棲艦がらみでないのなら、我々はこれ以上人員を割けれないんだ」 20

2016-08-14 17:17:18
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「我々は飽く迄対深海棲艦用の組織だ。もちろん人命救助などはお手伝いするが、これ以上の干渉は国家間の問題に…」「いや、国の連中なんて頼りにならねぇんだ!」代表者は語気を強めた。「相手は化け物なんだからよ!」「化け物…?」リカルドが目を細めた。男たちは古いテレビを持ち出した。 21

2016-08-14 17:20:31
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

代表者は再生機器に旧式DVDを挿入して、神妙な表情で言った。「俺達はついに見つけたんだ…子供たちを攫った化け物を!」そして再生スイッチを押す。画面が揺らめいた。『BRATATATATATATA!』まず銃声が聞こえた。『追え!逃がすな!』『そっちに行ったぞ!』続いて怒号が。 22

2016-08-14 17:31:29
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

KRAAASH!破壊音が響き、映像が乱れる。破壊された木片が宙を舞う。宙を飛ぶカメラが捉えた。小さな船の群れに囲まれた、巨大な白と黒の女のような…やがてカメラは海面に叩き付けられ、ブラックアウトした。 23

2016-08-14 17:40:41
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