【ザ・ソウル・メイド・ウィズ・ヘヴィ・メタル】
- juteion_smynin
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「小僧、いつの間に…」「リュウゴだよ!リュウゴ・シギ!」 驚く二人を尻目に、リュウゴと名乗った少年は店内を跳ね回り始めた。 「俺、『アラシヨビ』のほうが好きだけど、『狂い蜂』は他と違う音だから好きだぜ!『アラシヨビ』は今かかってる『駈けよ龍』が一番好き!」12 #juteitxt
2016-08-14 20:04:21少年はさも楽しそうに笑うと、洗練された高速ギターリフに乗ってボサボサの髪を振り乱した。彼は薄汚いTシャツを着、体のあちこちに生傷を作り、裸足であった。年の頃は10歳にも満たないだろうか。お世辞にもまともな環境で育っているとは思えぬ出で立ちであった。13 #juteitxt
2016-08-14 20:07:22リュウゴが『咆哮』に入り浸るようになったのはそれからだった。毎日、開店から閉店まで、飽きもせずスピーカーから響く音に飛び跳ね、CDやTシャツを眺めては目を輝かせていた。 「ここは天国だ!いいな天国!」と笑う少年はやはり破れかけの薄汚い服を着ていた。14 #juteitxt
2016-08-14 20:10:551週間ほど経ったある日、開店時刻にいつものようにリュウゴが店に現れた。しかしその体にはいつにも増して痛々しい傷が目立ち、顔には痣があった。 「どうした」 リュウゴはTシャツの裾を握りしめて俯いたまま動かない。カシラはリュウゴに近づき、頭に手を置いた。15 #juteitxt
2016-08-14 20:14:09それがトリガーとなったのか、リュウゴは嗚咽を漏らし始めた。懸命に泣くまいとしていたが、涙がポロポロと落ちてきた。 「ウウッ…母ちゃ、久々にっ…帰っ…のにっ…知らない、奴、…来て、ウッ…俺を、殴った…アアア!」「……そうか。よくここまで泣かずに来た」16 #juteitxt
2016-08-14 20:17:23「俺だって!俺だって一発!くらわせた!」 リュウゴは今やしゃくり上げながら大声で叫んでいた。 「おう、おう、えらいぞ」 カシラは静かにリュウゴの頭を撫でた。リュウゴが落ち着きを取り戻すのを待って、カシラはおもむろに何かを手渡した。17 #juteitxt
2016-08-14 20:20:41それは『アラシヨビ』のTシャツだった。リュウゴの腫れた顔が見る見る輝いた。 「いいの?いいの、これ?!」「ああ。今日からおめえさんにここを手伝ってもらう。そいつはユニフォームだ。大事に着ろよ」 カシラはニヤリと笑顔を作った。「その前に傷の手当だがな」18 #juteitxt
2016-08-14 20:23:50上等なスーツを着たサラリマンが、珍しく雨の降りやんだ夜のヨリマツ・ストリートを闊歩する。この繁華街において、そのような服装は不注意であると言わざるをえない。『咆哮』に訪れるごく一部のカチグミも、野暮ったいブルゾンやレインコートで身なりを隠して来る。20 #juteitxt
2016-08-14 20:28:33だがそれは通常であればの話だ。そのサラリマンは背後にボディガードを連れていた。ずんぐりとした体格、異常なほど太く巨大な前腕部と拳、筋肉質な体躯を包むジュー・ウェアめいた装束と、ネオンの光を冷たく反射する武骨なメンポ…そう、ニンジャである!21 #juteitxt
2016-08-14 20:31:31ハナキン・ウィークエンドの夜。酩酊した人々は、筋骨隆々たるニンジャが目の前を通っているのにさしたる注意を払わない。千鳥足の人々の間を器用にすり抜け、スーツの男はある雑居ビルの前でピタリと足を止めた。22 #juteitxt
2016-08-14 20:34:37一階のバーからは若者らと思しき笑い声が騒々しく響いてくる。彼らとそう年齢が離れてはいないだろうスーツのサラリマンは、眉を不快そうに歪めた。彼はバーの入口脇に設置された看板を一瞥すると、踵を返し再び歩き出した。 黒くわだかまった雲から、雨が再び降り出した。23 #juteitxt
2016-08-14 20:37:57(これまでのあらすじ:ヨリマツ・ストリートでメタルショップを営むカシラのもとに、リュウゴという浮浪児じみた少年が現れた。少年はなりこそ汚いが底抜けに明るく、メタルが好きで仕方ないようだった。毎日遊びに来るリュウゴだったが、ある日傷と痣にまみれた姿で現れる) #juteitxt
2016-08-15 17:57:31(リュウゴが母親の交際相手から虐待を受けたと知ったカシラは、リュウゴを店の手伝いとして受け入れる。ところが、そんな彼らの知らぬうちに暗い影が忍び寄っていた……そこにはニンジャの存在も!メタリスト達の慎ましやかな日々はどうなってしまうのか?) #juteitxt
2016-08-15 17:59:39リュウゴが店を手伝うようになって何週間が経過しただろうか。リュウゴは仕事をすぐに覚え、覚束なかった読み書きも少しずつできるようになっていた。当初彼を奇異の目で見ていた客にもすっかり可愛がられるようになった。リュウゴはカシラを「オヤジ」と呼んで慕った。24 #juteitxt
2016-08-15 18:02:19