カレシになったれまこ

沙織に頼まれて仕方なく彼氏のフリをすることになった麻子のお話 をダラダラと呟いたものをまとめました。
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mic @Mich2824

いじゃない!」 麻子の正論に反論する沙織。 「それで、私はどんな男の演技をすればいいのか考えたのか」 「それなんだけどさー…いつも通りでいいんじゃない?」 「どういうことだ」 「ほら、麻子って普段から堅い口調じゃん。だから特に意識しなくても真面目だけどぶっきらぼうな人の演技が

2016-07-24 07:53:28
mic @Mich2824

できてるんじゃないかなーって」 沙織の意見に納得しつつもどこか悔しさを感じる麻子。 普段から華のない喋り方をしているのは事実だし、それが一番話していて気楽なのも確かである。 ただ、男性に扮する演技の必要がないとまで言われてしまうと自分がどれだけ女らしくないのかと指摘されているよう

2016-07-24 07:55:53
mic @Mich2824

で複雑な思いだったのだ。 今は男物の服を着て、本番当日と同じように男装している状態だからか余計に気になった。 そんな麻子の心情を察していたのかそうでないのか、沙織はトリプルアイスの入ったカップを麻子の方へそっと押す。 「麻子ってさ、私の目から見てもすごく可愛いんだよ」

2016-07-24 08:00:29
mic @Mich2824

「…なんだ、藪から棒に」 「可愛くて、かっこよくて、朝が弱かったりそれで授業サボったりするのはどうかと思うけど、おばあちゃん思いで…私は、麻子のこと好きだよ」 好きだよ。 その言葉が麻子の頭の中でぐるぐると回る。 友人として好きである。 ただそれだけであるはずなのに、その四文字は

2016-07-24 08:03:57
mic @Mich2824

妙にしつこくねばねばと麻子の耳にまとわり続けた。 「案外私よりも先に結婚しちゃったりしてね」 「…そうかもな」 麻子は沙織をちらりと横目に見た。 同性の自分から見ても分かる、出るところがちゃんと出ていてふくよかな身体。腹の部分は少し引き締めなければならないかもしれない。

2016-07-24 08:07:34
mic @Mich2824

何故これで彼氏ができないのかと麻子は不思議に思う。 少し方向性がずれているかもしれないが沙織が如何に努力して、家事全般を平均的な女性を遥かに超える水準の技術を身に着けているのかを麻子はよく知っている。 今回の件に協力したのは日頃の恩返しの意味はもちろんあるが、平素の努力に報いて

2016-07-24 08:10:15
mic @Mich2824

やりたいという老婆心がないわけではなかった。 「口調は普段通りでいいとしよう。身分はどうする」 「大洗は女子校だからなあ…よその男子校から夏休みにうちに遊びに来てるってことにする?」 「大学生という手もあるぞ」 「カレは同い年か一つ上がいいなあ」 「…お前の理想を聞いてるんじゃな

2016-07-24 08:12:43
mic @Mich2824

いぞ」 「分かってるわよー…でも、麻子の身長だとあまり年上に設定しちゃうと突っつかれそうだし」 「…こういうのはどうだ、アマチュア無線の勉強を通じて知り合った人が偶然近くの男子校の生徒だった」 「あ、それいいんじゃない?共通の趣味から仲が深まるのって素敵よね!」

2016-07-24 08:15:22
mic @Mich2824

麻子は沙織の無線免許取得の際につきっきりで勉強の面倒を見てやったことがある。 実際に試験を受けた沙織よりも無線について習熟している可能性すらあった。 「この辺の男子校って何があったっけ?」 「近くだとひたちなか高校がある」 「うーん…近すぎるとそれはそれで妹も調べられちゃうから

2016-07-24 08:21:43
mic @Mich2824

後から面倒そうよね。思い切ってプラウダ辺りにしちゃう?麻子も行ったことあるでしょ」 「あるにはあるが…そもそもあそこは共学だったか」 「え?あそこも女子校なの!?」 「知らん。ただ、男子生徒は見かけなかった」 「…もう学校とかは適当に誤魔化そうか」 「その方が楽そうだ」

2016-07-24 08:23:52
mic @Mich2824

出身地以外の必要な情報は大体固めた。 設定を決めれば決めるほど、沙織の理想の男性像やそれがどれだけ稀少な存在なのかが浮き彫りになってくる。 「…ほんと、麻子がカレシだったら良かったのに」 重たい吐息と一緒に沙織が本音を吐き出す。 またか、と麻子は思いつつ黙ってそれを聞いてやる。

2016-07-24 08:28:05
mic @Mich2824

「私が男だったらそもそもここにはいない」 「分かってるわよ…分かってる。分かってるってば…」 仮定と呼ぶのもおこがましい仮定を持ちだした沙織はだらしなくカウンターに突っ伏してぐちぐちと語り続けた。 ありえないことだと自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、その考えにより深く囚われて

2016-07-24 08:30:41
mic @Mich2824

いくようだった。 夢みたいな話だからこそ、ずっとその中に浸って溺れていたくなるのだ。 麻子がカレシ。 麻子がカレシ。 そのフレーズが沙織に絡みついて離れない。 女同士だなんてことはよく分かっている。同じ風呂にも入ったし着替えもさせた間柄だ。 男扱いをすることが麻子の心を傷つける

2016-07-24 08:33:37
mic @Mich2824

ことも重々理解している。今だって麻子の嫌がっていることを親切心に甘えて無理強いしているのだと良心が咎めていた。 そこでふと沙織に天啓が閃いた。 「…麻子が、私の彼女だったらな」 「バカか、お前。男ひでりでとうとう血迷ったのか」 「はいはいバカでも血迷ってるのでもいいわよ…」

2016-07-24 08:36:22
mic @Mich2824

もちろん沙織に同性愛者になるつもりはなかった。 麻子との関係が心地よくて、このままの二人でずっといられたらいいなと心の底から思っただけだった。 ただ、それを世間が同性愛と呼ぶのならそれでもいいのかもとも感じていた。 「…ねえ、麻子」 「…なんだ」 「ありがとうね」 「…何をだ」

2016-07-24 08:40:49
mic @Mich2824

「ぜんぶ」 「…そうか」 「うん…ありがとう。私ね、麻子に会えて本当に良かったと思ってる」 「なんだその言い方は。今生の別れじゃあるまいし」 「そうだよねー…ごめん、変なこと言ってるわ、私」 「…まあ、その、なんだ。あまり気にするな」 「あー…そうそう。そういう気遣いがじみーに

2016-07-24 08:44:08
mic @Mich2824

ありがたかったりするのよねー…あーあ、麻子みたいなカレシ欲しいな」 懲りずに世迷い言を口にする沙織に麻子は呆れつつも、少しくらいは戯言に乗ってやるかと思い呟いた。 「…私でいいなら、何か弱音を吐きたくなった時はいつだって付き合ってやるぞ。沙織」 「あれ?私ってば告られてる?」

2016-07-24 08:46:12
mic @Mich2824

「お前は本当にばかだな」 「だよねー…あはは」 からっぽになったカップの底に、すくいきれなかったアイスが溶けて溜まっている。 それをぐるぐるとかき回しながら、麻子は乾いた笑いを続ける親友に合わせて笑っていた。

2016-07-24 08:49:16