Side Story2 「捨てられた人形」 パート1

脳内妄想艦これSS...の、企画物 #創作勢百物語
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-1「そこまで!上出来だ、二人とも」 風見の合図で海上の綾波と浜風は手にしていた単装砲を下ろす。 両者ともに肩で息をしており、装備も服も細かいペイントでベトベトだ。 今日は風見の指導の下で一対一の白兵戦の演習が行われていた。 「一旦休憩だ。悪いがそのままで休んでくれ」

2016-08-20 14:38:07
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SS-2-2 雲龍の訓練も厳しいが、風見もそれに負けていない。普段調子では気乗りしない様子だが、ひとたび演習が始まると下手すれば雲龍より厳しい指導が待っていた。 今日の演習も、戦闘中に被弾によって制限のかかった状態を想定して行われているため、動きづらくて仕方がない。

2016-08-20 14:38:41
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SS-2-3「うぅう…体が重たい…」 波止場のブロックに腰掛けて水を飲みながら、綾波が呻いた。 ジリジリとした暑さが容赦なく体力を奪っていく。 「だから俺もこの時期の演習は嫌いなんだよ、ったく」 隣の風見も汗を地面に垂らしてごちる。 「そう言いつつも指導に手抜かり無いですよね…」

2016-08-20 14:39:22
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SS-2-4「それとこれとは話が別だからな。今何時だ…」 風見は服の内ポケットを探り、懐中時計を取り出そうとする。 と、その時時計と一緒にはらりと一枚の紙片が落ち、海風で飛ばされそうになる。 『しまった』という顔をする風見の前で、浜風が手で紙を押さえ付け、危なく紛失は回避された。

2016-08-20 14:40:38
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SS-2-5「あれ、これ…」 風見に紙を渡そうとする浜風の手が止まった。掴んだものは、紙切れでは無く写真だった。綾波も写真を覗き込む。 写真にはオッドアイの女の子が写っている…女の子の年の頃は、綾香よりも、綾波よりもずっと幼い。 「司令官、これはどなたでしょうか?」

2016-08-20 14:41:58
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SS-2-6「あー…」 風見の目が右へ、左へと泳ぐ。 「随分大事そうに持っていらっしゃいましたが」 「待て、変な誤解はするんじゃない」 はぁ、と観念したように溜息をつくと、彼は写真の人物について説明してくれた。 「俺がここに来るより、更に前の話になる」

2016-08-20 14:44:15
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SS-2-7「ふぁ…」 佐伯湾泊地直属の技術開発施設。 週末を目前に控えた金曜日の朝、週の疲れで寝ぼけた眼のまま奈津美は東ゲートを目指して歩く。 「後一日頑張れば取り敢えず休み…変な仕事とか回ってこないといいなぁ」 関係者以外が殆ど通る事も無い道。人通りはまばらである。

2016-08-20 23:02:46
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SS-2-8 入口が間近になり、鞄を探って認証カードキーを引き出す。ゲートを通るにはこれが必要なのだ。 「ん?」 カードを手に視線を前に戻すと、妙なものが彼女の目に入った。 西洋人形のような『ふりふり』の塊が道の真ん中に佇んでいるのだ。 「…」 奈津美は眼鏡の位置を整える。

2016-08-20 23:06:47
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SS-2-9 見間違いでは無く周囲の風景に不釣り合いな『それ』はそこにある。 近寄ってみると、どうやらそれは本人を埋めてしまいそうな量のふりふりの服を纏った小さな女の子である事が分かった。 「どうしたの?迷子になったの?」 放置する訳にもいかず、奈津美は屈んで女の子に話しかける。

2016-08-20 23:12:36
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SS-2-10 振り向いた女の子の目を見た奈津美は一瞬ドキッとした。目の色が左右で違う…オッドアイだ。 「マイゴ?」 女の子は首を傾げる。 「そう、迷子。お父さんやお母さんは、どこにいるの?」 暫くじーっと奈津美の顔を見つめてから、女の子は予想通りの言葉を返す。 「わかんない」

2016-08-20 23:17:32
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SS-2-11 やっぱりかー、と顔を手で覆う。もう直ぐ始業の時刻なのだが… 「中に連れてくって訳にもいかないし…あぁもうー」 そんな奈津美の様子を反対側に首を傾げて見上げていた女の子は、徐に鞄を引っ張って、研究施設を指差す。 「おしろ!」 巨大な施設がお城のように見えているのか。

2016-08-20 23:21:38
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SS-2-12「はいはい、お城、お城ねー…」 「おはな!」「くも!」 奈津美の様子に構うことなく、女の子は楽しそうに物を指差していく。 「道の真ん中で一体何をやってるんだ、神埼君?」 不意に声を掛けられて奈津美は飛び上がる。 「うぁあ!?…あ、おはようございます、大薊少将…」

2016-08-20 23:27:16
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SS-2-13 声を掛けてきたのは大薊(おおあざみ)少将…奈津美の上官でもあり、この施設の管理者だ。 「朝一から良いリアクションだな君は…その子はどうした?」 「それが、どうも迷子みたいで。この場に放っておく訳にもいかないですし」 後ろの女の子は依然楽しそうに周囲を見回している。

2016-08-20 23:33:36
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SS-2-14「迷子ねぇ…仕方ないな。周りには俺が連絡して親を探すから、奈津美君、その子を応接室に通して暫く面倒を見ていてくれないか?」 「え、良いんですか?」 驚く奈津美の前で、彼は朗らかに笑う。 「なに、内部まで入れなければ問題にはならないだろう。ちゃんと見ておいてくれよ?」

2016-08-20 23:37:25
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SS-2-15「分かりました。えーっと、それじゃ…ねぇ、あなた、名前はなんていうの?」 奈津美は屈んで女の子と目線を合わせると、優しく聞こえるように努めて話しかける。 「なまえ?」 「そう、貴方の名前はなんていうの?」 彼女の問いかけに、フリルの塊は元気良く答えた。 「モル!」

2016-08-20 23:42:08
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SS-2-16 施設入口近くの応接室。少なくとも自分の作業場よりは快適な椅子と簡単な調度品が揃ったその部屋に、奈津美は『モル』と名乗ったその少女を連れて来た。 最初は奈津美も『子どもの面倒なんてどうしたら…』と思っていたのだが、モルの様子を見ているとその心配は要らなさそうだった。

2016-08-20 23:47:47
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SS-2-17「(元気な子ねぇ)」 モルはとにかく見たもの全てに『ぱぁっ』顔を輝かせては近づき、興味深げに眺めては奈津美の事を呼んで物の名前を聞いてきた。 その度にその問いかけに答えているだけでも彼女は嬉しそうにし、教えた名前を繰り返し、次の知らない物を探す…を繰り返していた。

2016-08-20 23:51:43
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SS-2-18「ナツミ!これは、これはなんていうの?」 「それはね、花瓶だよ」 かびん、かびん、と数回繰り返すとモルはまた周りを見回し、次はカーテンを指差す。 「これはなんていうの?」 「それはね、カーテンだよ。…?」 …繰り返していく内に、奈津美の頭にはふと疑問が浮かんでいた。

2016-08-20 23:56:17
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SS-2-19「(この子は何でこんなに物の名前を聞いてくるんだろう?)」 女の子の年齢を外見だけで判断すると、3歳はゆうに超えているだろう。 …奈津美自身に子どもは居ないので子どもの事は詳しくは分からないのだが、それにしてはモルは物の名前を妙に知らないように思えた。

2016-08-21 00:00:20
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SS-2-20 そして、その疑問は直ぐに確信に変わった。 「ねぇねぇ、ナツミ!それじゃあこれは、なんていうの?」 モルがその時カーテン指差したのは、あろう事か『窓』であった。 「そ、それはね、『窓』っていうんだよ」 若干顔を引きつらせながらも、笑顔でモルに教えてあげる奈津美。

2016-08-21 00:04:14
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SS-2-21「(おかしい。花瓶はともかくカーテン、それに窓?親はこの子に何も教えていないとでも言うの?)」 奈津美は妙な不安を覚え膝の上で拳を固くする。 「(これは、大薊少将にも伝えておいた方が良いのかな…)」 怪訝な目線を他所に、モルは小さな足で応接室の探検を続けている。

2016-08-21 00:08:31
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SS-2-22 と、その時応接室の扉が開き、大薊少将が姿を現した。 「あっ、少将!ちょっとお話したい事がありまして…」 奈津美はそこまで言いかけて、彼の顔を見て言葉に詰まった。 なにやら彼も浮かない表情をしている。 「…君の方もか。…先に話してくれるか」 大薊は彼女の言葉を促す。

2016-08-21 00:15:15
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SS-2-23「…あの子、あれからずっと物の名前ばかり私に聞いてくるんです。それくらいなら子どもらしくもあるかもしれないんですが…それこそある物殆ど全部。カーテンや窓に至るまで私に聞いてきて…」 子ども相手に必要あるかは分からないが、奈津美の話す声の音量は自然と絞られていた。

2016-08-21 00:17:19