- tsutsujishika
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それからは寝て、起きての繰り返し。薬のおかげで熱は大分下がったが、からだが怠く、おちつかない。今だって、こんな時間に目を覚ましてしまった。
2016-08-27 04:43:00と、見覚えのないシャツとスラックスがあった。自分のよりすこし、細身というか。ああ、そうか、これ。チョロ松のだ。返すの忘れてた。
2016-08-27 09:53:16先週会ってから一週間。その後どうだ?という脈絡のないメールだった。どうもこうも。何もかもうまくいっていない。風邪をひいて寝込んでいると返したら、すぐに電話がかかってきた。
2016-08-27 16:22:03「チョロ松、大丈夫か?」 「昨日よりもマシだけど」 「声がすこし枯れているな。待ってろ、すぐ家に行く」 「えっいいよ。僕もう大人だし。それに兄さん、土日は演劇の稽古あるでしょ」
2016-08-27 16:23:01「それはそうだが。稽古よりも弟の体調の方が大事だ」 「……僕は平気だから。もしどうしても来るんなら、稽古が終わってからにして。なにか、晩御飯にできるもの買ってきてくれると嬉しい」 「わかった。俺がくるまで大人しく寝てるんだぞ」 「はいはい」
2016-08-27 16:24:03「今日は泊まりで看病してやるからな!」 意気揚々と部屋に入ってくる。なんで嬉しそうなんだ。大分症状はおさまっているからそこまでしてもらうことがない。それにその食材はなんだ。ネギに人参に玉ねぎに…色々買ってきてくれるのはいいけど、お前まったく料理できないじゃん!誰がそれ処理すんの!
2016-08-27 18:53:18でっけースイカ貰ったから食いに帰ってこいって言えって母さんが!という文字と、謎のスタンプが押してある。なんでスイカごときでわざわざ実家に帰らなきゃいけないんだ。死ぬほど遠いってわけじゃないけどさあ。ごろごろ悩んでいると、日曜の晩御飯は焼肉だよ!とさらにメッセージが。よし。帰るか。
2016-08-27 21:01:19実家へ向かう電車は、出勤時には乗らない路線だ。この路は都心から遠くの県まで続いていく。そういえば、チョロ松の家の最寄りの駅もこの路線だ。と、思った所で、車掌が次の停車駅を告げる。そうそう。この駅が、チョロ松の家に一番近い。
2016-08-28 10:02:06ここまできてどうするんだろう。何も考えずに歩いてきてしまった。いや、やっぱりちょっと、心配だし。ラインの返事を返すタイミングも見失ったままだし。具合を見るだけでも、許してもらえないかな。……断りもなく家に行くなんて、まるでストーカーのそれだ。
2016-08-28 10:16:04さすがにすぐさま家に訪問する勇気はない。ウチに置きっぱなしの服を、口実に持ってくればよかったな。階段上って、一番奥のドアを、道路沿いから見上げた。まあ、ドアだけでは、チョロ松の体調がわかるわけもなく。そのまま帰るか、思い切って家へ乗り込むか考えていると、ちょうどその扉が開いた。
2016-08-28 10:17:02見送りなのか、チョロ松も玄関先まで出ている。パジャマに、薄手の上着を羽織っただけの、無防備な姿。相手の男の方の荷物はやけに多い。多分昨日は、泊まったんだろう。……俺のことは、拒絶した癖に。
2016-08-28 10:19:02踵を返す。足を動かす。離れたい。この場から。この心から!体の芯がマグマのように熱く、黒々とたぎっている。頭が爆発しそうになる。くそ、くそ、くそ! 俺はだめで、そいつはいいのか!
2016-08-28 10:20:11