ヴェリー・クローズ、インフィニトリィ・ディスタント・シー

深海棲艦と人類、彼らの棲む海は極めて近く、そして限りなく遠い
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「確かに、あなたに着いていけば暖かい場所で仲間と仲良く生きていけるのかもしれません…けど」シロは振り返り、電を見た。不安げな表情であった。安心させる様に、シロは笑った。「僕のエゴは、僕を助けてくれたこの人を、守ることなんです。だから、ゴメンナサイ。一緒には行けません」 52

2016-09-16 21:01:55
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「そうか…」ライオンハートは悲しげな顔を見せた。だが王はすぐに笑ってみせた。「それが君のエゴならば、仕方が無い。エゴに従えと教えたのは私だからな。インガオホーか」そう言って赤いマントを翻して、ライオンハートは踵を返した。KABOOOM!KABOOOM!爆音が遠く響き続けた。 53

2016-09-16 21:05:40
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「では、サラバだ。シロ・アケロオス=サン!そして艦娘の電=サン!」ライオンハートは王者の如く、堂々と別れの言葉を告げた。「君たちのエゴに、幸運のあらんことを!」そうして虐げられた者達の王は、海中の闇に消えて行った。シロと電は、自然と敬礼でそれを見送った。 54

2016-09-16 21:09:08
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ヴェリー・クローズ、インフィニトリィ・ディスタント・シー」#4 おわり エピローグへ続く

2016-09-16 21:10:04

エピローグ

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ヴェリー・クローズ、インフィニトリィ・ディスタント・シー」エピローグ

2016-09-17 14:22:52
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「アー…アー…」1週間後。鹿屋基地司令室前。手錠で拘束されたシロは所在なく喉を鳴らしていた。この手錠は何の変哲もないただの鉄製だ。これを壊さないと。或いはは拘束から逃れぬことは恭順の意志を示す。電からはそう説明を受けたが、暇なものは暇であった。 1

2016-09-17 14:28:55
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

シロは窓から海を、遠くに離れたポート・ブレアを見た。あの日、ライオンハートを見送った二人は、直ちに残存深海棲艦群を撃滅し、艦隊に合流した。同胞であるはずの深海棲艦の撃滅に手を貸したシロに対し、猜疑の目を向ける者は、もう誰もいなかった。シロはついに、信用を勝ち取ったのだ。 2

2016-09-17 14:33:25
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

シロは忘れないだろう。ポート・ブレアを離れる船に乗ったときに見た、平賀や艦娘たちの帽振れを。敬意を。ならば次は、自分が敬意を返す番だ。己の知りうる情報を、彼らの有利になる情報の提供。それが、今の彼にできる唯一の手段であった。キィ…と司令室の扉が開く。電が顔を出した。 3

2016-09-17 14:40:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「大人しくしてましたか?」「ええ」シロは朗らかに笑い掛けた。「長官も、大将や中将もいい人なのです。きっとシロの話を信じてくれますよ」「電=サンがそう言うなら、僕は 信じるだけです」シロはそう答え、電と共に司令室にエントリーした。 4

2016-09-17 14:45:13
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

8つの瞳、4人の男女がシロを出迎えた。長い黒髪に眼鏡を掛けた知的な女性。筋骨隆々な褐色肌の大男。額に呪符めいた紙を貼り付けた死人めいた髭面の男。そして長官席に座るは、一見特徴のない中肉中背の壮年男性。だが、その古狸めいた眼光は、彼がこの中で最も油断ならぬことを示している。 5

2016-09-17 14:50:27
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ドーモ」全員が何れも油断ならぬ古強者。欺瞞は死を意味する。シロは天井裏と自分たちがエントリーした扉の向こう側から感じる恐るべきカラテに臆さず、アイサツを繰り出した。「私はシロ・アケロオスです。あなた達人類が、深海棲艦と呼ぶ存在です」 6

2016-09-17 14:55:08
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

シロは電と共に寝ずに考えた言葉を、朗々と紡ぐ。「私は深海から迫害を受け、亡命を希望しています。無論、タダでとは言いません。私の知りうる有益な情報をお教えします…例えば…」シロはそこでひと呼吸置き、切り出した。これから歴史を動かす情報を。 7

2016-09-17 14:59:34
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「太平洋中部海域。深海棲艦がハワイの近くに建造した人工島の正確な座標を、お教えします」 8

2016-09-17 15:00:59
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

遠く、太平洋は中部海域にほど近い洋上。深海棲艦が現れ、ハワイが陥落したあの時から、この周囲に生命が溢れた事はない。瘴気の雲に覆われた空は、病んだ赤い光を海に投げかけるばかり。ライオンハートは、そんな海を漫然と歩き続ける。その背にはエクスカリバーと名付けた自作の巨剣。 10

2016-09-17 15:12:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そしてその手には、断末魔の表情で凝固するクローン戦艦棲姫の頭部。コワイ!王は進み続けた。やがて、王の目の前に闇が起き上がった。否、闇めいた黒い襤褸ローブを纏った何者かが立ち上がったのだ。ライオンハートは破顔し、交友的なアイサツをした。「ドーモ、久しいな。我が友チェルノボグ」 11

2016-09-17 15:17:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ドーモ」チェルノボグもまた、交友的なアイサツを返す。「その様子だと上手くいったようだな、レオ」「ああ」ライオンハートは戦艦棲姫の首級を掲げ、ニヤリと笑った。「戦艦水鬼直属部隊のクローンの首だ。さぞや情報を蓄えている事だろうさ」「そいつは最高だ。リンクスも仕事が捗るだろう」 12

2016-09-17 15:23:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「彼には迷惑をかけるな…後で何かねぎらいをしなければ」「誰かのニューロンでも覗かせればどうだ?趣味だったろう?」「まぁ、それは追々考えるとしよう」ライオンハートは首級をチェルノボグに投げ渡す。チェルノボグは受け取り、まじまじとそれを見た。ローブの下の表情は窺い知れない。 13

2016-09-17 15:26:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

一通り凝固した皮膚を触り、ボソリと呟く。「アルキドクセンの奴、いい趣味をしている…」「それが彼のエゴだからな…ああ、そうだ」「どうした?」「実は、新しい友達が出来たんだよ。それを手に入れる途中でね」「ほう、仲間か?」「残念ながら、仲間にはなってくれなかったがね」 14

2016-09-17 15:31:29
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ライオンハートは肩をすくめた。「珍しいこともあったものだ。人たらしのお前が、勧誘に失敗するとは」「彼には既に守るものがあった。それだけさ」「成程」チェルノボグは納得したかの様に頷いた。ローブの中から、黒い三つ編みが幽かに零れた。「何、お前ならまたいつか会えるさ」 15

2016-09-17 15:35:49
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「そうだな…」ライオンハートは遠く続く海を見た。「この海の何処かにいるのなら、必ず会えるか」「その為には」「ああ、その為には」二人の怪物は目を合わせた。青い瞳と、鬼火めいた緑の炎光が灯る左目がかち合う。「「神を殺す」」「俺達の」「自我を手にした我々の」「「自由の為に」」 16

2016-09-17 15:41:51
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「行くぞ」チェルノボグは踵を返し、歩き出した。「イクサは近い」ライオンハートはそれに続かんとし、もう一度遠く続く海を見た。限りなく遠い海を。だが、友に会うには極めて近い海を。やがて、ライオンハートも歩き出した。次なるイクサへ向けて。神を殺す準備をするために。 17

2016-09-17 15:45:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「行くぞ」チェルノボグは踵を返し、歩き出した。「イクサは近い」ライオンハートはそれに続かんとし、もう一度遠く続く海を見た。限りなく遠い海を。だが、友に会うには極めて近い海を。やがて、ライオンハートも歩き出した。次なるイクサへ向けて。神を殺す準備をするために。 17

2016-09-17 15:45:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ヴェリー・クローズ、インフィニトリィ・ディスタント・シー」おわり

2016-09-17 15:45:42
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