- fuyutuki67
- 1278
- 3
- 0
- 0
艤装には様々な機能がある。その中で最も厄介な部分、艦娘自身に内臓された生命維持機能が大淀の人生に止めを刺した。柱に押し倒され空爆と砲撃にさらされた彼女の命と意識を繋ぎとめようと艤装が自動起動、通常ではあり得ないほどの出力を出し機械部分と生体部分が癒着してしまった。 #広報艦隊
2016-08-19 20:05:16癒着した生体部分は心臓。手術でなんとか一定の機能を維持させる事は成功したが元どおりにはならなかった。解体とは艦娘から艤装の一切を切り離すことでありそれができない身体になった彼女はもう人の身には戻ることはできない。「不安、そうなった時は私に伝えて下さいと」「でも……」 #広報艦隊
2016-08-19 20:08:51「でもではありません。貴女を受け入れる時にそう約束しました。貴女には報告義務があります」私の鎮守府、いえ鎮守府というには些か無理がある組織は彼女のような艦娘を受け入れる組織。何らかの理由で戦場に立てなくなった艦娘をこうして後方業務に従事させることが私の任務だった。 #広報艦隊
2016-08-19 20:12:10「申し訳ありませんでした」「……病院にはちゃんと行って下さいね」「すいません」「分かりました。もう」「ごめんなさい」「だからもう」「私ダメなんですよね。私が生き残ったのが悪いんです。ちゃんと死ねなかったダメな私が悪いんです。ここで降ろして下さい。大淀、今度こそ立派に」 #広報艦隊
2016-08-19 20:21:28車を脇に寄せ、サイドブレーキを引き、ドアロックを確認し、私は右手で錯乱する大淀の頬を撫でこちらを向かせ、左手で力一杯顔面をブン殴った。何が起きたと固まる大淀の顎を先ほど顔面を殴った腕で掴み今度は右で殴り続けた。しばらく殴った後、今度は首を掴み助手席に押し押し付けた。 #広報艦隊
2016-08-19 20:26:43「俺の車で騒ぐな」首が締まり彼女は腕を掴み身体を動かしながら抵抗する。「なんだ死に損ない、まだ惨めに生きたいんじゃねぇか」私は抵抗に合わせて締め加減を変え彼女の反応を一頻り楽しんだ。酸素が切れ始めた時の顔、僅かな酸素が入った時の顔、ああ、またやってしまった。 #広報艦隊
2016-08-19 20:35:26割れたメガネレンズが車内に散らばり大淀の顔には青痣が浮かんでいた。眼前にある男の拳、なんとか防ごうと手で顔を覆っても払いのけられ自分を殴打していた拳。大淀は恐怖していた。艦娘である自分が人間に、一方的に殴られた事実に恐怖し歯は震え涙すら零していた。 #広報艦隊
2016-08-23 23:09:58いくら不意を突かれたとはいえ艦娘が一方的に人間から殴打され防げないなどという事があるのだろうか。結論から言えば普通は無い。しかし大淀は普通では無かった。初着任から数時間で提督と自分の未来を失った恐怖が彼女の中で強く生き残っていたのだ。 #広報艦隊
2016-08-23 23:11:58首から下が一切動かない入渠ドックでやり場の無い感情が渦巻き、痛みが自分を正気の世界と狂気の世界をスイッチさせる。そうして大淀は壊れてしまった。身体は戦う事ができず、心には取り返しのつかない傷跡が残った。痛みは彼女をあの日へ戻し、あの日の無念と狂気を想起させていた。 #広報艦隊
2016-08-23 23:15:49入渠ドックが彼女の狂気の揺籠、生温い液体と静寂で優しく育った消えない傷は爆心地で産まれていた。無数の爆撃と砲撃の中、瓦礫の下敷きにされ仲間の断末魔すら聞こえない状況で彼女は生き残った。爆音と振動が止み、どこよりも静かな世界ができた時に彼女は狂ったのだ。 #広報艦隊
2016-08-23 23:22:31同時に脳裏に襲ってきた数分前まで目の前にいた提督の上半身が一瞬で吹き飛んだ光景、自分も死ぬと理解した瞬間に訪れた砲撃、瓦礫の上から降り注ぐ空爆。静かな世界に唯一響く自分の鼓動、生き残った実感があった。痛みもある、腕も動く、声も出る。誰も答えない。 #広報艦隊
2016-08-23 23:28:54なんとか身を起こそうとしても身体の上に横たわる瓦礫は動かず激痛が身体を蹂躙する。誰か生き残っているはず、早く、早くと痛みに耐え脱出を試みていた彼女をさらに不幸が襲った。ガス爆発だ。 #広報艦隊
2016-08-23 23:33:53文字通り彼女は”焼かれた”。一瞬で吹き飛ばせるモノを吹き飛ばし焼けるモノを焼き尽くした。激痛と絶望と酸欠、ここで彼女は死ぬはずだった。しかし艤装がそれを許さず生き残った、生き残ってしまった。爆風が瓦礫を飛ばし僅かな光明から見えた世界、そこにはもう誰もいなかった。 #広報艦隊
2016-08-23 23:38:20大淀は見た。点々とあった残り火が人魂のように一つ、また一つと浮かび消える光景を。彼女はもはや形ならない感情を絶叫した。それは喉の奥などという浅いところではなく真に腹の底から何かが飛び出したような絶叫だった。 #広報艦隊
2016-08-23 23:43:35見たくない、聞きたくない、理解したくない、記憶したくない、生きたくない。叫びが途切れた時、ようやく彼女の意識は途切れる事を許された。 #広報艦隊
2016-08-23 23:49:52「やえ、やべぇで、くだ」リアルな痛みと濁流のように自我を飲み込もうとする記憶の中で彼女が唯一できた抵抗はこの言葉だけだった。しかし拳は止まない。一頻り殴り終えると首が絞められ意識が飛びそうになると解放されて再度殴られる。次に大淀が目覚めたのは事務所の仮眠室だった。 #広報艦隊
2016-08-24 00:01:29傷は手当され、枕元には新しい眼鏡が置いてあった。虚ろな目を開き眼鏡をかけ、周囲を見ると奥のソファーに提督が座っていた。寝ぼけた頭は一瞬で覚醒し大淀は咄嗟に布団で自分の身を隠し震え上がった。「おはようございます」布団の外から声が聞こえる。 #広報艦隊
2016-08-24 00:04:45「痛みの具合は如何ですか?どこか治療漏れがあるといけないのであれば教えて下さい」冷静で事務的な言葉、車内での彼とは違ういつのも声。「ああ、先程伝え忘れた件が一つ、枕元に貴女が欲しがっていたモノが置いてありますよ」布団の隙間から見えるモノ、子袋に分けられたソレ。 #広報艦隊
2016-08-24 00:09:44枕元にはいくつかの結晶が入った袋とパイプ、そしてライターが転がっていた。大淀は驚き身を震わせながら布団から這い出た。その驚きは自分が一糸纏わぬ姿であると気づかないに。見れば結晶は日頃見たことのない大きさで曇りは少なく硬さからそれが高純度であることが分かる。 #広報艦隊
2016-08-24 00:15:14「それは元々最前線に配備される部隊などに支給されるモノでしてね、市場に出回っている物はあくまでそれの紛い物か2級品の横流し程度なんですよ。けれども今貴女が持っているそれは正真正銘の正規品です」男の言葉に大淀は耳を疑った。そんな物が何故、いや、あったとしても値段がと。 #広報艦隊
2016-08-24 00:18:13「今更貴女にそれを止めろと言っても無駄でしょう。ならば何かトラブルを起こされる前にこちらでそれを用意します。まぁ細かい話は後にしてまずは一服如何ですか」夢だ。これは夢に違いない。こんな物は夢にしかないハズでこんな事は夢でしかない。夢ならば、誰も傷つけないで済む。 #広報艦隊
2016-08-24 00:21:20大淀は結晶をパイプの皿に置き、ライターをつけ炎の先端でゆっくりと炙り始めた。白く薄い煙が枕元のランプに照らされ登る。パイプを咥え、熱を吸わないよう肺の奥へとゆっくり煙を吸い込む。「はぁ……」味わったことのない安息が大淀を包み込む。痛みも恐怖も無い世界、リラックス。 #広報艦隊
2016-08-24 00:27:53敷布団の上、大淀は全裸でリラックスし始めた。「満足頂けたならば何よりです。そのままで構いませんのでいくつか質問に答えて下さい」視線が声の主を見つめ答えた。「ではまず痛い場所はありますか?」大淀は首をゆっくりと振る。「結構。では次に私に隠している事はありますか?」 #広報艦隊
2016-08-24 00:33:10「あ、るぅ」「それは何?」「わるいこ」「悪い子とは何ですか?」「これしてぇ、すっごいことして」「はい」「きぼちいい……」頬は緩み眼の焦点は飛び恍惚とした表情のまま大淀は自らの身体を弄り始めた。「凄い事とは?」「いやなの、みんな、いなくなって、これ、これぇ〜」 #広報艦隊
2016-08-24 00:39:13