イン・ザ・マウンテン・オブ・コープシーズ

中部海域グアノ環礁の地下深く。 駆逐棲姫の導きにより、咆哮艦隊は深海棲艦の闇を垣間見る。
1
前へ 1 ・・ 9 10 次へ
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「呪うってのは、名前が最も重要なファクターだからね。今の私は、さっきまでと別人なのさ」「チクショウ!」ドールマスターは歯を食いしばり、憎悪の表情でソードリリィを睨み付けた。その体は、半ば程が黒く汚染されていた。「因みにそれは私の中の怨嗟の声さ。アンタに一矢報いたいそうだよ」 16

2016-09-27 15:41:27
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「アバッ…」ドールマスターは青黒い血を吐いた。ソードリリィはカイシャクの為にグラディウスを構えた。「春雨、見るんじゃないよ」「返せ…!」「何さ」ドールマスターは血の涙を流し、オバケじみた声で吠え、春雨に残った左手を伸ばした。「返せ!それは、私の物だ!」 17

2016-09-27 15:44:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

春雨は、その悍ましい気迫に後退る。「物、ね」ソードリリィは哀れみの言葉をかけた。「物じゃないだろ。アンタの親友はさ、陽子=サン……これ以上、友達を泣かせんな」ソードリリィはグラディウスを掲げた。「今ここでドールマスターとしての罪を償い、もう一度眠れ…イヤーッ!」 18

2016-09-27 15:47:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ガギンッ!ソードリリィのギロチンめいたカイシャクの刃が、今まさにドールマスターの首を断たんとしたその時だ。突如として現れた金色の瓶が、グラディウスを受け止めた。「は…?」ソードリリィは突然現れた闖入者を見た。それはル級めいた深海棲艦であった。ル級は左目でソードリリィを見た。 19

2016-09-27 15:53:23
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

その左目には、正十字のクリスタルが埋め込まれていた。ル級は瓶を右腕に嵌め込んだまま、アイサツをした。「ドーモ、サダルスウドです」「ドーモ、ソードリリィです…お前、何処から!」ソードリリィはグラディウスを構える。つい1秒前まで、このような深海棲艦は何処にもいなかった筈だ! 20

2016-09-27 15:56:40
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「答える義理はない」サダルスウドは瓶から8門の主砲を生やし、ドールマスターを守る様に立った。「あぁ、それと」サダルスウドは左手で上を指差した。「こちらのアイサツはまだ終わってはいない」「イヤーッ!」サダルスウドの言葉が終わるよりも早く、上空から何者かのカラテシャウト! 21

2016-09-27 16:02:13
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「なっ、イヤーッ!」ソードリリィは咄嗟に頭部狙いのカワラ割りパンチを防ぐ!KRAAAASH!「防ぐとはやるな!」アンブッシュ者は空中でヒラリと回転し、着地と同時にオジキをした。その姿は牡牛の兜を被ったヲ級!「ドーモ、アルデバランです。ウチの新入りが世話になったみてぇだな」 22

2016-09-27 16:10:52
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「なんだ、あいつ等!?」リカルドはその光景を見、只々絶句した。彼の目には、突然虚空から出現したようにしか見えなかった。「何処から…いや、どうやって!?」「残念だが企業秘密だ、ニンゲンよ!」アルデバランは豪快に笑う。その右目に埋め込まれた正十字のクリスタルが怪しく輝いた。 23

2016-09-27 16:13:42
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「無事か、司祭」サダルスウドが屈み込み、ドールマスターの状態を確認する。「アバッ…」既に体の殆どが黒く染まっていた。「ノロイか…アルデバラン」「何だ?」「近くに呪具があるはずだ…破壊してくれ」「ああ、あれだろ?」アルデバランはソードリリィのグラディウスを指差し、笑った。 24

2016-09-27 16:18:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「もう壊したさ…我がツイゲキ・ケンがな」CRAAAASH!「は…?」ソードリリィは唖然とした。突如としてグラディウスが砕け散った。まるでカラテで殴られたかの様な衝撃を受けて。グラディウスは黒い色を失い、ピンク色の唐菖蒲の花飾りに戻った。ドールマスターの体色も元に戻る。 25

2016-09-27 16:21:50
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「さぁて」アルデバランは獰猛に笑い、拳と拳を打ち付けた。「誰からぶっ飛ばそうか?」「いや、そんな時間は無い」サダルスウドは巨人を見上げた。次の瞬間、巨人の全身が罅割れた。「司祭は気絶した。もうジツは維持できん」「なんでぇ。つまらん」アルデバランは退屈そうに溜息を吐いた。 26

2016-09-27 16:26:14
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

巨人の崩落が始まった。ライオンハートは状況判断し、素早く海に飛び込んだ。リカルドはこの奇怪な深海棲艦たちに吠えた。「テメェ等、何者だ!」「そうだな。司祭をここまで追い込んだのだ。教えてやろう…敵よ」サダルスウドは淡々と告げた。「我らは“拝神派”…最新の使徒だ」 27

2016-09-27 16:30:32
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「我らは神に最も近しく仕えるモノ。神の御意に従うモノ。そして、この世の全てを敵とするモノだ」サダルスウドたちの姿が、次第に消えていく。「近い内にまた会うだろう、ニンゲンよ。その時は、我らの願いが成就する時だが、な」「待て!」リカルドは走り出した。拝神派の姿は完全に消えた。 28

2016-09-27 16:35:35
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

現れた時と同じ様に、彼の者たちは、虚空へと姿を消したのだ。果たして、いかなるジツか。だが、今のリカルドにそれを考える時間はなかった。「リカルド!」ソードリリィが叫ぶ!「早く逃げるぞ!」「あ、あぁ!」巨人が完全に崩落する寸前に、3人は海へと飛び込む!「「「イヤーッ!」」」 29

2016-09-27 16:38:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

北太平洋。つるみだけ型中型艦娘母艦1番艦・つるみだけが海を往く。その船体には至る所に傷が刻まれ、この艦が経験したイクサの激しさを如実に示していた。日本への帰路に着くつるみだけの艦首に立つのは、古希めいた白髪オールバックの褐色肌の大男。 31

2016-09-27 16:44:41
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

男の名はリカルド・ベレンゲル。このマッポーの世界に落ちてきた異なる世界の怪物専門ハンター。この世界では、艦娘にカラテを教えるカラテ教導官。リカルドは物憂つげに、海をぼんやりと眺めていた。「珍しいねぇ」背後から声。葛葵が物珍しそうな表情で近付いて来た。 32

2016-09-27 16:48:05
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「考えるより先に動くアンタが考え事かい?」「……そんな日もある」葛葵はキョトンとした顔でリカルドを見た。いつもならば軽快な悪態が飛んでくるものであったが、どうやらその余裕すら無いらしい。「…拝神派」リカルドはボソリと呟いた。「グアノに出て来た深海棲艦が名乗った一派だっけ?」 33

2016-09-27 16:53:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「奴らは神に仕えていると言った」「神ねぇ。私はそんなもの信じないよ。オカルトなんて、馬鹿馬鹿しい」葛葵はタバコに火を付け、紫煙を吐き出した。「何が出てきても倒すだけさ。この海に平和が訪れるその時まで」「それは、そうだか」「しっかりしてくれリカさん」葛葵はリカルドの背を叩く。 34

2016-09-27 17:00:52
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「こっちは人工島を見つけちまったんだ。事態は否応無く動く。上のアンタが迷ったら、部下の艦娘たちも惑う。示しが付かないぞ」葛葵は笑って振り返った。リカルドも葛葵の視線を追う。見れば、艦娘たちが思い思いにイクサ後の休憩を楽しんでいた。遊ぶ者、語らう者、ザゼンする者。 35

2016-09-27 17:06:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

その中で、ソードリリィと名を変えた駆逐棲姫が駆逐艦娘たちに囲まれ、物珍しそうに生身の足を突き回されていた。「ちょ、ヤメロ!ヤメロって!春雨!笑ってないで助けてってー!」「な。一番大変だったあの子が笑ってるんだ。胸を張れ」「そうかもな」リカルドは立ち上がり、葛葵の背を叩いた。 36

2016-09-27 17:10:23
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

パンッ!と乾いた音が次第に青く晴れる空に響いた。「痛ぇ!」「ありがとよ」リカルドは思わぬ痛みに悶絶する葛葵に礼を言うと、ザゼンする吹雪の側に座り込んだ。「司令官」「どうなるのかね、これから」リカルドはザゼンを組み、ただぼんやりと呟いた。 37

2016-09-27 17:14:07
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「さぁ」吹雪は首を横に振った。そして、決断的に言った。「ですが、戦うだけです。私が望む未来の為に。あなたが教えてくれたこのカラテで」「…そうか」リカルドは薄く笑うと、目を閉じて調息した。「スゥーッ…ハァーッ…スゥーッ…ハァーッ…スゥーッ…ハァーッ…」 38

2016-09-27 17:18:26
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪も目を閉じ、調息で己を調える。「スゥーッ…ハァーッ…スゥーッ…ハァーッ…スゥーッ…ハァーッ…スゥーッ…ハァーッ…」「「スゥーッ…ハァーッ…スゥーッ…ハァーッ…スゥーッ…ハァーッ…スゥーッ…ハァーッ…」」静かな呼吸音が喧騒の中に溶けて消えた。空が青さを取り戻す。 39

2016-09-27 17:20:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

艦娘やつるみだけの乗員たちは空を仰いだ。そして決意を新たにする。中部海域にこの青空を取り戻してみせる、と。彼らはすぐにその為の戦いに身を投げ出すだろう。その日は、近い。 40

2016-09-27 17:23:51
前へ 1 ・・ 9 10 次へ