イン・ザ・マウンテン・オブ・コープシーズ

中部海域グアノ環礁の地下深く。 駆逐棲姫の導きにより、咆哮艦隊は深海棲艦の闇を垣間見る。
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#1

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

深海棲艦………十数年前、突如として深海から現れた正体の知れぬ異形の者たち。彼らは群れを成し、瘴気を放ち、海の全てに害をなした。 1

2016-09-20 15:40:49
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

深海棲艦は物理攻撃では完全に滅びず、短時間で蘇る。人類がその脅威を認識した頃には、最初の戦場たるハワイ島は陥落し、命無き死の荒野となっていた。深海棲艦は、最新の流行病めいて世界各地の海に拡散し、やがて海は深海棲艦のテリトリーとなった。 2

2016-09-20 15:44:45
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

人類は、制海権を失ったのだ。 3

2016-09-20 15:45:48
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

深海棲艦の出現から数年後に誕生した科学と魔術のハイブリッド申し子にして、対深海棲艦最強兵団・艦娘。彼女らの活躍により、人類はある程度の海を取り返した。だが、人類は深海棲艦について何も知らない。彼の者たちのルーツは、深い闇に覆われている。 4

2016-09-20 15:49:21
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

だが、徐々に闇は晴れんとしていた。嘗て沖ノ島を解放に導いた光刃の英雄が“発見”した「深世」と呼ばれる海底文明。自らを嘗ての軍艦・春雨そのものだとする駆逐棲姫の鹵獲。そして先日、自らの意志で“亡命”してきた名を持った深海棲艦。深海棲艦の正体に、多角的に光が当たり始めた。 5

2016-09-20 15:54:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

それは同時に、深海棲艦との絶望的な戦いに勝機を見いだせることを意味する。今、人類と深海棲艦の戦争は、新たな段階へと進もうとしていた。 6

2016-09-20 15:57:15
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イン・ザ・マウンテン・オブ・コープシーズ」#1

2016-09-20 15:58:19
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

北太平洋。つるみだけ型中型艦娘母艦1番艦・つるみだけが海を往く。艦首が向きしその先には、黒黒と空を覆う瘴気の雲に、病んだ赤い光で染め上げられた赤い海。最早生命が絶えて久しいこの海を、人類はこう呼称する。「中部海域」と。 7

2016-09-20 16:10:03
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

中部海域は人類が初めて深海棲艦に奪われた海だ。事の始まりは十数年前。当時行われていた環太平洋合同演習参加艦が、一隻残らず撃沈させられたり事件に端を発する。発生当初、どこかの国のテロを疑われたこの事件だが、海に落ちた乗組員を皆殺しにする怪物の映像が届き、世界を驚愕させた。 8

2016-09-20 16:17:20
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

この映像を提出した兵士の行方は用として知れない。何故なら真実が公開されたその日に、深海棲艦は現れたのだ。ハワイ島の戦力は全滅。大国たちも互いへの嫌疑で瞬時に動くことも叶わず。こうしてハワイは僅か数日の内に陥落。人類は最悪の形で深海棲艦の脅威を刻みつけられたのだった。 9

2016-09-20 16:23:12
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そんな人類の最初の敗戦地を、つるみだけ艦首で憎悪を込めて睨む男が一人。無精髭に呪符めいた紙を額に貼り付けたその男は、タバコをイライラと吸い続けていた。男の名は葛葵冷士。鎮守府鹿屋基地の中将にして、「常勝の葛葵」と誉れ高い名将である。 10

2016-09-20 16:28:51
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

普段は掴みどころのない、飄々としたアトモスフィアで周囲を煙に巻く葛葵であったが、こうして剥き出しの憎悪を見せるのは珍しい。背後で見守るリカルドと吹雪は、ぼんやりとそう思った。「ああっ、クソ」葛葵はイライラと吸い尽くしたタバコを握り潰し、新しいタバコを取り出そうとした。 11

2016-09-20 16:33:58
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

だが、懐を漁ってもタバコは出てこない。「あれ…?」「おい」隣から声が掛かる。タバコを咥えた若葉が、葛葵に自分のタバコを差し出していた。彼女は法的には成人であり、喫煙に何の問題はない。「吸うか?」「あ、あぁ…助かる」「火は?」「…お願いします」 12

2016-09-20 16:40:49
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

若葉は慣れた手つきでタバコを手渡し、片手でライターに火を付けた。葛葵は屈み込んでタバコを咥えると、若葉の火でタバコに火を付けた。一服し、紫煙を吐き出す。「ふぅ…」「落ち着いたか?」若葉は端的に問う。葛葵は目を丸くして若葉を見た。「苛ついているようだったか」「マジで?」 13

2016-09-20 16:46:10
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「いや、無自覚だったのかよ」思わず、リカルドは声を上げた。「てっきり、中部海域を見て何か思うことでもあったのかと」吹雪がそれに続く。「あー、うん。無いわけじゃないんだけど…」「何だ、歯糞でも詰まったみてぇな言い草だな」「司令官。下品です」 14

2016-09-20 16:50:55
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ごめんなさいね。皆様」遠くで自体を見守っていた翔鶴が苦笑しながら近づいてきた。「この人。この前からずっとこうなんです」「この前?」「ちょっ、翔鶴」葛葵は静止しようとした。だが、翔鶴は無慈悲に言葉を続けた。「電ちゃんをシロ君に取られて、ちょって嫉妬してるんですよ」 15

2016-09-20 16:57:22
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ああ」「成程」「そうでしたか」三人は白けた視線を葛葵に向けた。葛葵にとって、電は初めて自分の麾下に入った艦娘。即ち思い出深い部下にして、己のセンセイに他ならない。そしてシロ。シロ・アケロオスと名乗った亡命ネームド深海棲艦と電は、理由こそ不明だが親密な仲であった。 16

2016-09-20 17:01:59
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「し、しょうがないだろう!?」葛葵は情けない悲鳴を上げた。「久しぶりに会ったらどこぞの馬の骨とも分からん深海棲艦と仲良くなってるんだぞ!?気にしないほうが無理だろ!?」「シロ=サンは西方海域の生まれと聴きましたが」「何だ。産地特定されてんじゃねぇか」「翔鶴ぅ!」 17

2016-09-20 17:05:27
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「このカラテバカ共が虐めてくる!」葛葵は恥も外聞もなく、翔鶴に泣き付いた。「はいはい」翔鶴は苦笑しながらも、葛葵の頭を抱きしめた。「まぁ、娘が彼氏を連れてきたようなものか」若葉は納得したように頷いた。「普段会わない電=サンでこれですか…」吹雪は呆れた様に葛葵を見た。 18

2016-09-20 17:11:06
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「もし大鯨=サンや初霜=サンに彼氏ができたら、この人憤死するのでは…」「ヤメロォ!想像させるなぁ!」葛葵は血を吐くような悲鳴!「つーか、吹雪。そこまで言うならお前が彼氏連れて来いよ」リカルドは吹雪に対し、催促する様に言った。「戦争が終わったら考えます」「またそれかよ…」 19

2016-09-20 17:14:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドは諦観のため息を吐くと、中部海域の空を見上げた。「しかし、本当にあるのかねぇ…」「私は気持ち的に無い方に賭けたい」「理由は?」リカルドは葛葵を見下ろして問うた。葛葵は名残惜しげに翔鶴の胸元から頭を離し、立ち上がった。「正直、深海棲艦からの情報だなんて胡散臭い」 20

2016-09-20 17:18:45
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

その瞬間、若葉が剣呑な視線を葛葵に向けた。「ああ、違うぞ若葉」葛葵は己の非を察し、訂正する。「言い方を変えよう。我が身可愛さで亡命してくるような奴なんて、根本的に信用できないって話さ。断じてあのくーちゃんが信じられないって訳じゃない」そう言って、葛葵は後方へと視線を向ける。 21

2016-09-20 17:23:26
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そこでは、リカルド麾下の春雨とくーちゃん…駆逐棲姫が、艤装妖精と楽しげにお喋りに興じていた。駆逐棲姫が葛葵達の視線に気が付き、手を振った。葛葵は振り返し、言葉を続けた。「中部海域は南方海域以上の激戦区。深海棲艦の巣窟と言っても過言じゃない。攻略可能性は絶望的だ」 22

2016-09-20 17:29:04
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

葛葵はシロから齎された情報を思い出し、苦虫を噛み潰したかのように顔を歪めた。「そんな場所に、守備の手薄な人工島があるだって?しかも中枢泊地に攻撃できる距離に?嘘を疑わない方がおかしいだろ」「まぁ、普通ならな」リカルドも同意するように頷いた。「だが、赤レンガは違うんだろ?」 22

2016-09-20 17:36:24
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