イン・ザ・マウンテン・オブ・コープシーズ

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ああ」葛葵は納得の行かぬ表情で頷いた。「赤レンガの諜報部が、シロの情報を裏付けた。曰く、その位置に島が無ければ、起こり得ない攻撃が報告されているらしい」「出来過ぎてんなぁ…」「それとも、永く制海権を握り続けていて油断しているか、だな」「どっちにしろ、俺には渡りに船の話だ」 23

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドはケモノめいて笑う。「ちょうどコッチもグアノ環礁に用があったんだ」「その為に二群に入ったんだっけ？」葛葵は感心したかのように口角を上げた。「くーちゃんの為に、頑張るねぇ」「それもあるが、これは俺個人の好奇心からの行動だ」「へぇ？」葛葵は意外そうに片眉を吊り上げた。 24

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「単純に俺が知りたいだけさ。深海棲艦ってのは結局は何で、何処から来て、何処へ行くのか…ハンターの性だな。知らない敵なんて、戦うには怖すぎる」「私は、あんまりそういうのは考えたことが無いねぇ」「柄じゃねぇだろ。アンタはデスクワークが似合いだ」 25

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「現地調査は、俺が勝手にやるさ」リカルドはケモノめいた笑みを強めた。「俺のカラテは、その為には買われたんだからな」 26

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

――――― 27

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

グアノ環礁海域。中部海域の深海棲艦集中ポイントの一つにして、恐るべき難所。深海棲艦の制圧に前後して、この海域の潮流は恐ろしく変貌した。小回りの利かない船が迷い込めば、たちまち座礁し、深海棲艦の餌食となる。それは、軍艦の化身たる艦娘も同様であった。 28

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

重巡洋艦以上の艦娘が乗り込むことは、死刑宣告に等しい。この海域に攻め込めるのは軽巡洋艦以下の装甲の薄い艦娘のみ。しかも深海棲艦は潮の流れを熟知しており、戦艦級を潮の流れを受け難い環礁の程近くに配置している。攻略には軽巡洋艦以下の水雷戦隊で戦艦を屠る必要が出てくる。 29

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そして、何よりの恐怖は……見よ。環礁にできた洞窟の前に陣取るあのクローン駆逐棲姫を。幽鬼めいて佇む彼の者の表情から、自我は伺い知れない。複数の戦艦級とクローン駆逐棲姫。これが、グアノ環礁海域が難攻不落たる最たる理由であった。「ン…？」戦艦タ級が、ふと顔を上げた。 30

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ドウシタ？」もう一隻のタ級が問うた。「イヤ、今変ナ音ガ」「音？」タ級たちは耳を澄ます。ザザーン…ザザーン…環礁に波が打ち付ける音が響くのみ。「何モ聞コエンゾ」「…気ノセイ、カ？」「耳ニ塩デモツマッタンジャナイカ？」「ソウカモ知レンナ」「「ガハハハハ！」」 31

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

タ級たちは快活に大笑いし、哨戒に戻らんとした。ザザーン…ザザーン……バルルル……ザザーン…バルルルル……ザザーン……「……ヤッパリ…何カ聞コエル」「奇遇ダナ。私モダ」二隻は揃って外洋に耳を澄ませた。ザザーン……ザザーン…、バルルルル……バルルルル……バルルルル！ 32

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ナ、ナンノ音ダ！？」「エンジン音？オイ、誰カスコープヲ」バルルルル！バルルルル！「イヤーッ！」「グワーッ！？」タ級の一隻が吹き飛ばされる！「ナ、ナニガ！？」もう一隻のタ級は見た。己の相棒を吹き飛ばした、白い船体を模した怪物じみた水上バギーを！その上に仁王立つ死神を！ 33

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ！」死神は電撃的速度でチョップ突き！「アバーッ！」タ級の心臓摘出！「ドーモ…」死神はジゴクめいた声でアイサツを繰り出した！「艦娘・吹雪です…早速ですが、ここで殺す！」「アバーッ！」タ級の心臓が緑の炎光で焼き尽くされる！「サヨナラ！」爆発四散！ 34

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「敵襲…ダト！？」吹き飛ばされたタ級はどうにか環礁上に復帰し、エントリーした吹雪を見た。「次は貴女の番だ」「クソガ！オイ！」タ級が声を掛ければ、海中から深海棲艦が続々と這い出す！たちまち吹雪は深海棲艦に包囲された！「何ノツモリカ知ラナイガ、一人ナノガ運ノ尽きキヨ！」 35

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪は己を取り囲む深海棲艦を見渡し、言い放つ。「それで？殺してもいないのに勝ったつもりですか？」「黙レ狂人メ。ソノ無謀ヲ後悔サセテクレル」「できるものならな…ああ、それと一つ」「アァ！？」「誰が一人だと？」「エッ」バルルルルルル！バルルルルルル！バルルルルルル！ 36

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ナンダ！？」轟く3つのエンジン音を聞き、深海棲艦たちは一斉に外洋を見た。おお、見よ！海面を引裂き、矢の如く疾走る3隻の黒い水上バギーを！その姿は前方の軍艦を模した車体と背部のロケットブースター群が流線型に一体化した、洗練されたマシーンであった。「「「イヤーッ！」」」 37

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

3隻のマシーンは一斉に深海棲艦の群れに飛び掛かった！「ナ！？」タ級は想定外のアンブッシュに驚愕する！「驚いている場合ですか？」背後から吹雪の声！「馬鹿ナ」「イヤーッ！」「グワーッ！？」タ級を抱え、上空へ飛び上がる吹雪！深海棲艦を轢き散らすマシーン！ 38

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

マシーンから降りた6人の戦士たちが、逃げ惑う深海棲艦たちを蹂躙する。タ級はその光景を見て、悲鳴を上げた。「ソンナ！コンナ簡単ニ！？」「油断が生んだインガオホーと知れ…ハイクを詠め！」吹雪とタ級はそのまま頭を下に回転しながら落下を開始した！吹雪の腕に緑の炎光が灯る！ 39

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「グワーッ！」タ級は松明めいて炎上！そしてそのまま、地面に頭から叩き付けられた！暗黒カラテ・アラバマオトシ！「サヨナラ！」タ級爆発四散！吹雪はグレーター・ウケミで着地。周囲を見渡す。環礁上の深海棲艦は、その殆どがアラバマオトシの完成までに撃破されていた。 40

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ！」「イヤーッ！」残るは春雨と駆逐棲姫が戦うクローン駆逐棲姫のみ。「イヤーッ！」BLAM！クローン駆逐棲姫は砲撃を放つが、春雨たちはしゃがみ回避。そして素早く駆逐棲姫が先行。春雨はドラムハンマー投擲！「イヤーッ！」「グワーッ！」直撃！クローン駆逐棲姫苦悶！ 41

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「同じ顔してんじゃないよ！」駆逐棲姫はフロート機構を最大出力稼働させ、跳躍！そして空中でフロート機構が可変、踵部に刃を備えた鋼鉄の脚と化す！「気味が、悪いんだよ！イヤーッ！」駆逐棲姫は空中踵落とし！備わった刃で、クローン駆逐棲姫を袈裟掛けに引き裂いた！「アバーッ！」 42

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「真似するなら、私以外にしな」駆逐棲姫は着水し、己のクローンを射殺した。BLAM！「サヨナラ！」爆発四散したクローンを一瞥し、駆逐棲姫は駆け寄ってくる春雨に笑い掛けた。「ナイスアシスト！」「うん、ちゃんとできたなら良かった…で、くーちゃん。ここが」「ああ、ここがそうだ」 43

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「やっぱりここなのか？」リカルドが黒い水上バギーを動かし、近づく。マシーンの側面には「羽々矢」と極太ミンチョ体でショドーされていた。「うん、間違いない」駆逐棲姫は頷いた。「そうか…若葉！那珂！秋津洲！お前らは残って退路を確保！」「了解」「オッケー！」「わ、わかったかも」 44

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「羽々矢はここに置いていく。最悪お前たちだけで逃げろ」「そうならんことを祈ろう」若葉は懐からタバコを取り出し、春雨と駆逐棲姫を見た。「お前たちも、気を付けろよ」「は、はい」「安心してよ若葉。私がしっかり春雨を守るからさ」「むしろお前が心配なんだか…まあいい」 45

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「話は済んだか？じゃあ、行くとするか」リカルドは環礁にできた洞窟を睨んだ。極めて最近形成され、人工的に整えられた洞窟を。「深海棲艦のクローン工場、見せてもらおうじゃねぇか」 46

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イン・ザ・マウンテン・オブ・コープシーズ」#1 おわり　#2 へ続く