イン・ザ・マウンテン・オブ・コープシーズ

中部海域グアノ環礁の地下深く。 駆逐棲姫の導きにより、咆哮艦隊は深海棲艦の闇を垣間見る。
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イン・ザ・マウンテン・オブ・コープシーズ」#2

2016-09-23 15:03:20
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「しかし」若葉はタバコを吸い、紫煙を吐き出して空を見上げた。曇天めいた瘴気の雲に覆われた空は不穏な程に黒く、息苦しい。「あいつらは無事か?」「若葉ちゃん、まだ10分しか経ってないよ?」アイドルダンスの自主練習をしながら、那珂は呆れたように言った。「そんなにくーちゃんが心配?」 1

2016-09-23 15:09:48
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

若葉はタバコを吹かし、口元で紫煙を弄ぶ。「まぁ、多少はな」「ふーん」那珂は若葉の答えを聞き、興味を無くしたかのように、またアイドルダンスに没頭した。若葉は瘴気の雲と、そこから注ぐ病んだ赤い光を見て、物思いに沈む。((駆逐棲姫の言葉から、元々ここには来る予定だった…)) 2

2016-09-23 15:14:11
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

((だが中部海域は並大抵では済まない魔窟…調査航海に踏み出すなど主力三群クラスの猛者であることが最低条件…リカルドが二群にまで上がれたことと、あのシロとかいう深海棲艦の言った人工島の調査で葛葵が派遣されなければ、ここに来ることは叶わなかっただろう…それほどの幸運…)) 3

2016-09-23 15:18:50
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

((しかし、その幸運は私たちにとって吉なのか?……上層部の中には、こうした調査行為を嫌う連中がいると聞く。そして何が待ち受けているかわからんこの場所…私たちが、知らぬ間にタイガーの尾を踏んでいる可能性は?))若葉は思案を続ける。答えの出ない思案を。 4

2016-09-23 15:22:59
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

((今頃初霜は葛葵と共にピーコック島だろうか…不安だ…若葉がいなくなれば、誰があいつを守ってやれるんだ…誰が))「大艇ちゃんから連絡かもー!」秋津洲の大超えが、若葉の思案を吹き飛ばした。「連絡?」那珂は瞬時にカラテを構える。その眼光は姉たちと同じく、鋭い戦士のそれだ。 5

2016-09-23 15:28:25
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

秋津洲はその目に臆せず、二式大艇からの報告を読み上げる。「6時方向、敵見ゆ。数5、重巡1軽巡2駆逐2だそうです!」「増援かな?」「それか」若葉は主機から二丁のビストル型主砲を抜き、ピストルカラテを構えた。「哨戒部隊が戻ってきたか」「どっちにしろ、応戦だね」那珂は溜息をついた。 6

2016-09-23 15:36:20
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「実質2対5かぁ」「わ、私もやれば出来るかも!」言外に戦力外扱いされた秋津洲は顔を怒気を込めて反論した。「無理をする必要はない」若葉は秋津洲の手を取り、後ろに下がらせた。「わわっ」「あなたが傷付くのは、忍びない」「そ…その言い方は卑怯かも…」秋津洲の顔は林檎めいて紅潮した。 7

2016-09-23 15:43:59
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「相変わらず大胆だよね」那珂は湿った視線を若葉に送る。若葉は我感せず、と海に視線を向けるばかり。やがて、水平線に黒い影が5つ顕わとなる。「来たか」「よーし、那珂ちゃん頑張っちゃうぞ?」二人の艦娘は海へと躍り出た。退路を守るイクサが、始まらんとしていた。 8

2016-09-23 15:49:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

同時刻、グアノ環礁の地下深く。「ヒデェな…」緩やかな螺旋に降る洞窟を抜けたリカルドたちが目にしたのは、滅茶苦茶に荒らされた何らかの施設であった。人が4人ほど通れそうな横幅の洞窟に、砕かれ、中身が飛び散った何らかの実験用のガラス筒が複数立ち並んでいた。 10

2016-09-23 16:00:41
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドは地面に落ちたガラスをダマスクの足装甲で踏み潰し、“実験体”を持ち上げた。それは、足のあるクローン駆逐棲姫であった。既に息はない…否。リカルドはそれを見て顔を顰めた。「コイツは…」「どうした?」駆逐棲姫が問い掛ける。吹雪と春雨は奥のクリアリングに向かっていた。 11

2016-09-23 16:05:55
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「…なぁ」「何?」「クローンってのは、本来は自分の遺伝子をどうこうして、ガキ孕ませる要領で身体的には自分にソックリなやつを作る技術…だよな?」「多分」駆逐棲姫は、リカルドの言葉の意図がわからなかった。「コイツは…よく分からんが最初から死んでる」「見れば分かるじゃん」「違う」 12

2016-09-23 16:09:49
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドの表情は理解できぬものへの恐怖とそれでも理解できたものへの憤怒がない混ぜとなり、ブッダデーモンめいた形相となっていた。「こいつは最初から死体だった。いや、肉で出来た人形って表現が正しいか?ここで作ってたのはクローンなんてもんじゃない。肉を繋いで像を作ってるだけだ」 13

2016-09-23 16:14:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「つまり…?」駆逐棲姫はゴクリと唾を飲み込んで続きを促した。「これを作るのに、何を使った?無から有は生まれない。必ず元手がある。これが肉の人形なら…」リカルドは視線を巡らす。ガラス筒の側、ダストシュートめいた機構が目に入った。その側に落ちる、人間の腕も。「素材がある」 14

2016-09-23 16:18:13
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……」駆逐棲姫は白磁めいた肌を青褪めさせた。リカルドは憎悪を込めて唸った。「ここにいた奴は…これを作るのに、何人、何匹殺した…!」「リカルド…」駆逐棲姫は何とかリカルドに声をかけようとした。その時だ。「イヤーッ!」「イヤーッ!」洞窟の奥からカラテシャウトが響く! 15

2016-09-23 16:22:26
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「吹雪!」「春雨!」リカルドはクローン駆逐棲姫をガラスのない地面に横たわらせると、駆逐棲姫と共に奥へと駆け出した。「イヤーッ!」「イヤーッ!」二人はやがて広い空間へと出た。半球状の広い洞窟に、壁一面に中身入りのガラス筒が虫の卵めいて貼り付いていた。そして中央で戦う人影! 16

2016-09-23 16:28:13
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ!」「ンアーッ!?」一人の影がイクサから弾き出される。「イヤーッ!」リカルドはそれを受け止めた。蒼黒の甲冑の上に、ピンク色の髪が広がった。「司令官…」「無事か、春雨」「何とか…」春雨はリカルドから体を離し、立ち上がった。「イヤーッ!」吹雪が連続バク転で合流する。 17

2016-09-23 16:32:23
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ほう?」吹雪を相手取っていた者が、リカルドたちの姿を認め、動きを止めた。「今日は訪問者の多い日だ」それはギリシャの賢人めいて布を纏った戦艦タ級であった。露出した右肩には、クリスタルでできた正十字のエンブレムが埋め込まれていた。タ級はアイサツする。「ドーモ、カストルです」 18

2016-09-23 16:39:02
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ドーモ、リカルド・ベレンゲルです」リカルドは代表アイサツを返す。そしてヨロイ・カラテをかまえた。「テメェがこの施設の親玉か」「いえ、私はただのボディガードです」カストルは緩やかにジュー・ジツを構える。そして駆逐棲姫を見て意外そうな顔をした。「おや、お戻りになられたので?」 19

2016-09-23 16:42:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「エッ」駆逐棲姫は体を強張らせた。「逃げたものとお聞きしましたが、戻ってきて頂けるとは好都合。あなたには、色々とインタビューをしたいことがございまして…」「インタビューをするのはこちらだ、カストル=サン」吹雪が矢のように駆け、チョップを繰り出す!「イヤーッ!」「イヤーッ!」 20

2016-09-23 16:45:59
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪とカストルのチョップが鍔迫り合う。吹雪のチョップが纏う緑の炎光に触れ、カストルは眉を顰めた。「これは…」「この非道施設の正体。目的。洗いざらい吐いてもらおうか。その上で、貴方は惨たらしく殺す!」「できるものならやってみるがいい!イヤーッ!」カストルは蹴りを繰り出す! 21

2016-09-23 16:49:35
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ!」吹雪は蹴りを膝蹴りで受け止め、後退する。「吹雪!任せたぞ!」リカルドの声。カストルが首を巡らせば、奥へと進む3人の姿。「司祭殿の所へ行くつもりか…?させんよ」カストルは左腕を翳し、肉を蠢かせる。左腕は瞬時に主砲を形作った。カストルは一瞬、狙いを定める為に集中。 22

2016-09-23 16:54:38
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

だが、カストルは万が一にも、深海棲艦殺しの死神に、一瞬の猶予を与えるべきでは無かった。「イヤーッ!」先程よりも速く死神は躍りかかる。カストルは吹雪を見た。吹雪はピースの形で指を突き出した。サミング!「グワーッ!?」カストルの眼球摘出!BLAM!砲撃は明後日の方角へ! 23

2016-09-23 16:59:20
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