第13話「輸送任務と黒い波」 パート1

脳内妄想艦これSS 独自設定に注意
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

__それはある夏の日、南西諸島 オリョール海にて。

2016-10-04 23:01:02
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13-1-1 オリョール海海上輸送ライン。夏の日差しが照り付ける煌く海の上を、白い尾を引きながら輸送船団が進み行く。 ー深海棲艦の侵攻に対して比較的優勢なこの南西の海。前線で防衛ラインを維持、押し上げるための各戦力への物資の輸送は、絶やせないライフラインとなっている。

2016-10-04 23:02:11
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13-1-2「…それは重々承知しているつもりなんだけどね」 その輸送船団の傍らで、ツインテールを黄色いリボンで留めた駆逐艦が大欠伸をする。 「こう何度も何度も繰り返してると、最初は綺麗に思ってた景色にも飽きるし、暑いのも嫌だしスコールも来るしで、正直嫌気がさしてくるわ…」

2016-10-04 23:04:20
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13-1-3「これは護衛任務です、陽炎。物見遊山のクルージングではないのですから、そもそも楽しくないのは当たり前です」 厳格な面持ちの同型の駆逐艦が陽炎、と呼ばれたその駆逐艦を諭す。 「しーらーぬーい、アンタのその仕事に対する熱意は一体全体どっから湧いてきてるのよ」

2016-10-04 23:06:58
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13-1-4 不知火は陽炎の不満げな声を聞いても表情一つ崩すことなく、辺りの警戒を続けている。 お互いがお互いの事を呆れた調子で見ているこの一幕は傍から見ると滑稽だが、姉妹の間で任務の度に飽きもせずほぼほぼ同じ内容がリピートされる。いわば生活の一部のようなものだ。

2016-10-04 23:09:20
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13-1-5「いっそ景色がバーッと変わってくれたりしたら少しは退屈せずに済むのに…」 「そんなの、本当に起きたら天変地異じゃないですか…」 姉の無茶苦茶な不満に、不知火は嘆息する。 「まあねー、それは流石に……」 「…?」 不自然な沈黙。 振り向くと、陽炎は驚きで固まっていた。

2016-10-04 23:10:59
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13-1-6「…天変地異」 陽炎の目線の先、オリョール海の水平線。 澄んだ海が局所的にどす黒く染まり、そして… …彼女達の方へ向かって来ていた。

2016-10-04 23:12:54
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__ 澄んだ海に生まれ出でるは __

2016-10-04 23:13:13
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__ 第13話「輸送任務と黒い波」パート1__

2016-10-04 23:13:23
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13-1-7 早朝の監獄島。夏の日差しも和らぎ、肌に感じる朝の風が幾分か心地良い。 朝食の準備を早々に済ませた鳳翔は、屋舎から出ると装備品の格納庫に向かう。 鳳翔自身が戦線に出る事は現在は無い。が、雲龍が配属されて以来、使用する艦載機は作戦前に鳳翔が万全な状態に手入れしていた。

2016-10-04 23:16:45
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13-1-8 しかし、鳳翔の目的はそれだけではない。 シャッターを開けると、格納庫に入った彼女は迷うことなく奥の棚を目指し、機体を手に取る。 …二式艦上偵察機。 明石が週に一度の割合で、ここに用意してくれている。 そして偵察機を格納庫から持ち出した鳳翔が向かうのは…東側の高台。

2016-10-04 23:19:15
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13-1-9「アナタにも辛い仕事を任せる事になってしまうけど…お願いね」 鳳翔の寂し気、苦し気な言葉に偵察機の妖精さんはびしっ、と敬礼して覚悟を示す。 「どうか無事に辿り着きますように」 高台より鳳翔の手から夜明けの太陽に向けて放たれた偵察機は、空に溶けて見えなくなっていった…

2016-10-04 23:21:16
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13-1-10「あー…それでは今回の特務の経緯を説明する」 それから数時間後の風見の執務室。 部屋に集合した『鳶』の前には…一目に普段の数倍はどよりと澱んだオーラを放つ風見の姿があった。 「し、司令官?何というかその、大丈夫ですか?」 「というか今にも死にそうな顔をしてるけど?」

2016-10-04 23:22:49
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13-1-11 綾波と五十鈴がその様子に狼狽えて思わず彼を気遣う。 「あぁ、すまないな。今回の作戦の内容が関係しているんだが…」 風見は目を逸らし、小さく忌々し気に舌打ちをする。 「恐らく今までで一番危険な任務だ。敵の正体が掴めん、というかそもそも何が待っているのかが分からん」

2016-10-04 23:25:39
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13-1-12 風見はイライラを隠せぬままにいつもの海図の前に移動し、南西諸島、オリョール海のエリアにマーキングする。 「半月程前、オリョール海で輸送任務が行われた。先ず、この海での輸送は今に始まった事ではなく今までに何度も行われている…戦況も優勢で、比較的優勢な海と言えよう」

2016-10-04 23:26:22
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13-1-13「…だが、その輸送任務に参加した輸送船、及び護衛艦が任務中に揃って消失するという怪事が起きたそうだ」 「あの海で…?」 五十鈴が訝し気な顔をする。舞鶴所属時代にも何度か出た海だ。 「ああ…但し、重要なのは『K.I.A』ではなく『M.I.A』である点だ」

2016-10-04 23:27:10
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13-1-14「けーあいえー?えむあいえー?」 「平たく、戦死と行方不明の違いよ」 首を傾げる綾波に、雲龍が捕捉する。 「そうだ。通信が突如途絶え、何が起きたかを確認するために急遽艦隊が派遣されたようだが、どうも『何一つ』消息地点、及びその周囲からは痕跡が確認出来なかったらしい」

2016-10-04 23:29:57
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13-1-15 風見は消息地点にバツ印のマグネットでマーキングをすると話を続ける。 「本土の連中は焦っただろうな。有力な艦隊が編成され、海域の調査に乗り出した…ところが、海は平和なもので敵の伏兵も無ければ強力な侵攻勢力もナシだ」 風見の語調にはどこかせせら笑う調子が含まれていた。

2016-10-04 23:32:00
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13-1-16「…南西の海は有利を掴んでいる海。いつまでも手をこまねいてる訳にもいかない。消失の件は解決していなかったが、次の輸送隊が護衛をより強化する形で編成され、輸送任務が再実行された。それが先日の事だ。そしてその結果…輸送船団は再度『消失』した」 …部屋の空気が重みを増す。

2016-10-04 23:32:51
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13-1-17「…それで、連中は私達に何をしろと?」 雲龍が沈黙を破るように口を開いたが、風見の憂鬱の原因は全員この時点で予想がついていた。『危険な特務』- 「まぁ、想像の通りだ。お前達の任務は、この消失の謎を明らかにし、その上でオリョール海の安全を確保する事にある」

2016-10-04 23:35:02
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13-1-18「…私達が『適任』という訳ですか、提督。使い捨てても痛手の出ない私達こそが」 暫く何かを考えていた浜風が、皆の気持ちを代弁する形となった。 「そういう事だ、浜風。これが我々に提示された道…分かってはいたが、こうして初めて突き付けられると中々くるものがある」

2016-10-04 23:36:17
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13-1-19『特務』と言えば聞こえは良い。だがそれは便宜上与えられた単語に過ぎない。 「私達にはこれからも表には出せないような任務や、本土の有力艦隊が務めるにはリスクの高過ぎる任務が割り当てられる…そうね?提督」 ずい、と更に辛気臭い雰囲気を割って進み出るは『鳶』旗艦、五十鈴。

2016-10-04 23:37:40
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13-1-20「そうだ。そしてその都度、お前達にはキツい役割が回ってくる。危険手当てナシでな」 「上等じゃないの」 五十鈴はフン、と鼻で笑ってみせる。強がりではない、確固とした表情だ。 「それなら私達はその都度それを乗り切って見せつけてやればいい。アピールのチャンスよ、提督」

2016-10-04 23:38:25
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13-1-21「これはこれは。頼もしい部下を持ったものだよ」 五十鈴の豪胆な発言に、風見は驚いたように、そして呆れたように応答する。 「…これまでに起きた事実、そして相手が見えない事から考えても危険度は非常に高い。重々注意して任務に当たってくれ、五十鈴。残りの面々も、いいな?」

2016-10-04 23:39:19