常若(とこわか)ディスタンス
- kagachi_ecm
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群議が、ほんとうに終わることがなかったので、慈童を酈縣(てつけん)という深山(しんざん)へ流した。かの山は帝城(ていじょう)を、はなれること三百里、山が深いので鳥さえも鳴かない、雲が(たちこめて)くらいのでトラやオオカミがたくさんいた。
2016-11-07 19:58:27王は慈童を、おあわれみになられて、かの8句の内の普門品(ふもんぼん)にある2句の偈(げ)を、ひそかに慈童に、お授けになって「毎日、十方(じっぽう)を一礼して、この文を1遍(ぺん)、唱えなさい」と、おおせになられた。
2016-11-08 19:38:14慈童は、ついに酈縣に流されて、深山(しんざん)・幽谷(ゆうこく)の底にすてられてしまった。慈童は君の、ありがたいおおせにしたがって、毎朝、この文を唱えた。忘れないようにと、かたわらにあった菊の葉に、この文を書いておいた。
2016-11-08 19:39:34その後、この菊の葉についた露(つゆ)が自然と落ちて流れに入った。谷水がみな天の霊薬(れいやく)となって、慈童は、のどがかわくと、この水を飲むと、天の甘露(かんろ)のようであった。味は百種類の珍しい(食べ物)より、まさっていた。
2016-11-08 19:40:36【註】 霊薬:不思議な効能のある薬。 甘露:天の神々の飲み物。甘い液体。 味は百種類の珍しい食べ物:原文「宛(アタ カ)百味ノ珍(チン)」
2016-11-08 19:41:21それだけでなく、天人(てんにん)が花をささげて、鬼神(きしん)が、まとめひきいて奉仕(ほうし)した。トラやサル(のような)悪獣(あくじゅう)の(おそってくる)心配がなくなって、かえって、換骨(かんこつ)羽化(うか)の仙人になった。
2016-11-08 19:42:12【註】 まとめひきいて:原文「手ヲ束(ツカネ)テ」 換骨羽化:換骨は換骨奪胎か?骨をかえること。羽化は羽が生えるように人間が仙人になること。
2016-11-08 19:42:59この谷水の流れをくんで飲んだ、民(衆)の三十余家は、みんな病(やまい)が、すみやかに消滅(しょうめつ)して不老不死の上寿(じょうじゅ)をたもった。
2016-11-08 19:43:31その後、時代が、うつろって八百余歳まで、かの慈童は、少年の(容)ぼうがあって衰老(すいろう)の、ようすがなかった。魏(ぎ)の文帝(ぶんてい)の時に、彭祖(ほうそ)と名(前)をあらためて、この術(じゅつ)を文帝に授(さず)けてさしあげた。
2016-11-09 20:15:01帝は、これを受けて菊花(きっか)の盃(さかづき)を伝えて万歳(ばんさい)の寿(命)となった。今の重陽(ちょうよう)の宴(えん)というのは、これである。その後より皇太子が位を天から、お受けになる時に、この文を受持しなさる。
2016-11-09 20:16:03これによって、普門品を『当途王経(たうつはうきょう』ともうすのだ。この文が、我が朝に伝わって、代々の聖主が、ご即位の日に、必ず受持しなさる。もしも、幼主の君の践祚(せんそ)の時は、摂政が、まず習受して、ご時世の始めに君に、お授けさしあげる。
2016-11-09 20:16:52【註】 当途王経:ルビ ママ。現代かなだと「とうづおうきょう」か? 我が朝:日本のこと。 聖主:天皇。 践祚:天皇の位を引き継ぐこと。践祚ののちに即位式がある。
2016-11-09 20:17:30この8句の偈は、三国伝来にして理世安民(りせいあいみん)の治略(ちりゃく)、除災与楽(じょさいよらく)の要術(ようじゅつ)である。この8句の偈をば、天台の即位法ともいい、四海領掌の法とももうすのだ。
2016-11-09 20:18:04【註】 三国伝来:インド・中国・日本の3国に伝わった。 理世安民の治略:国を治めることを格調高くいった語。 除災与楽の要術:災(難)をさけ、(安)楽をあたえる、かなめとなる方法。要術には妖術の、ふくみも?
2016-11-09 20:19:11乙 1説 彭祖仙人(ほうそせんにん) cf.「菊士童(D)(資料一」
また、1説にいうには、9月9日の酒は寒温(かんうん)の2気の境(界)なので、酒を今日から、わかして飲むので、いろいろな病がおこらない。ゆえに寒をふせぐ力が強くなるのである。
2016-11-09 20:21:42