キミに読む物語〜ラプンツェル（亮ちゃん）

うさぎ🐰ときどき妄想してました @eitars_h

1 トクトクと心臓が鳴っている 非常階段を駆け上がってきたから…やない ズボンのポケットに秘密を抱えて走ってきた そっと重いドアを開けて外へでると、冬へと向かう空気を孕んだ秋の香りに襲われる 目を瞑り郷愁にも似たその香りをやりすごして給水塔の影に座った #キミへ読む物語

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2 周りをさっと見渡して ポケットの中のモノをとりだして 開封済のソレから1本抜いて火をつけた 「っゴホッ…｣ 吸ったのはまだほんの数回目 慣れてへんから吸い込む時にむせてまう カッコ悪いけど誰もおらんしええやろ？ #キミへ読む物語

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3 何度目かを吸い込んでようやく慣れてきて、煙草を咥えながら寝転んだ …ええ天気やな カラスかトンビが頭上を旋回していた なんや？自由なんを俺に自慢してんのか？ 「ｯｳげほ…｣ また煙がおかしなとこに入って悶えながら起き上がった #キミに読む物語

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4 同時に非常階段の鉄の扉がぎぃっと開いた 来た…待ち人 つっても、待ち合わせはしてへんけど …マドンナ 古臭いニックネームやけど それしか思いつかへんくらいぴったりなその彼女は、俺には気付かずいつもの場所に向かう 校庭を見下ろせる手すりの元へ #キミに読む物語

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5 陽の光を浴びて茶色に輝く長い髪を片側に流し手摺に顎をのせる姿は、まるでおとぎ話にでてくるラプンツェルさながら 内容は知らんけど、絵本で絵だけは見たことがあんねん 何を考えてるんやろ… 彼女は南川流花 俺よりひとつ上で 話かけたことは1度もない #キミに読む物語

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6 ふと彼女が手摺に両手を付いて身を乗り出した え… ちょ、まっ、 「…っ何やってんねん！｣ 思わず飛び出していた やのに 『え…？』 予想に反し彼女はキョトンとして それから迷惑そうな顔をした #キミに読む物語

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7 『何か誤解をしてるみたいだけど、錦戸君』 え、俺を知ってる？ 『錦戸君でしょ？錦戸亮君。錦戸グループの御曹司』 「…！//いや…御曹司って｣ 『あーあ、無くしちゃった…』 「へ？｣ 『家の鍵。 下、落としちゃった』 それであんな顔？ #キミに読む物語

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8 「…あ、僕探してきますっ｣ 家の鍵って大事やんな 鍵なかったら入られへんやん って、彼女の家やってホテルグループのトップにあって 家には誰かしらおるはずやのにそこに思いあたれないくらい動揺してた 『いいよ、必要ないし』 それなのに 冷たい声 #キミに読む物語

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9 「けど、拾われて悪用されたら…｣ そう！それやっ 『ふwあんな家… 錦戸くんて、こんなとこで隠れて煙草吸ってるから不良かと思ったけど普通にマジメなんだね。笑』 あ…笑った…// やなくて！バレとった！ 「え、いつから…｣ #キミに読む物語

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10 『いつもいるのは知ってた』 「え、そぉなん？｣ 彼女は風になびく長い髪を鬱陶しそうにはらった 『それ、私にも頂戴？』 「それって？｣ 彼女の視線を辿る 「あ、これ？…でも｣ 『くれなきゃ先生にばらす』 「は？おまえアホやろっ｣ #キミに読む物語

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11 『おまえって…』 「あゴメ、｣ 言いかけてるとこへ手をさしだしてくるから 「…大丈夫なん？｣ しょうがなく煙草を1本取り出して渡した 「こっち｣ 給水塔の死角へ誘導して彼女の煙草にライターの火を近づける 「吸って｣ 『吸うって？』 #キミに読む物語

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12 「…吸わな火ぃつかないっすよ｣ 『わ、わかってるっ』 なんや、吸うたことないんやん 言われた通りにやると案の定… 『うっ！ごっ…ｺﾞﾎｯ…』 涙を流してむせる彼女から 「…気、済んだやろ｣ 煙草を奪うとそれを揉み消した #キミに読む物語

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13 『自分だけずるい』 「は？何が？｣ 『いつも好きなことして好き勝手して煙草も上手に吸えて』 はぁ？ 「好き勝手って？ …先輩やって好きなことしたらいいじゃないすか。自分の人生なんやし｣ 『ふーん？好きなことが校則違反？』 #キミに読む物語

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14 痛いとこ突いてくるやんけ 「…なあ、もしかして。 こっから抜け出したいん？｣ いつもこの高い場所から下界を見るのは、自由になりたい欲求と闘ってるからやないのか？ やって俺がそうやから 何もかもから逃げたくてもがいてる 「僕がここから──｣ #キミに読む物語

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15 『え… ───っ！』 頭上を低く通り過ぎたジェット機にかき消された言葉の代わりに 彼女の手をつかんだ ＊＊＊ 『ちょっと…見つかるって』 駐輪場を過ぎて比較的高さのない塀をまずは彼女を越えさせて、次は俺 「大丈夫やから早く！｣ #キミに読む物語

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16 学校を抜け出すのは俺も初めてやけど、彼女を守らなアカンていう使命感と悪いことをしている背徳感で背中がゾクゾクしていた 『ね…どこ行くつもり？』 息を切らしながら彼女が聞いた 「…俺んち｣ 『え…』 #キミに読む物語

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17 「……｣ 無言で手を引いて歩いた こういう頭でグダグダ考える奴にいちいち説明してもしょうがないし 俺やってなんも考えてへん ただつまらない現実から逃げられればええねんから 「…入って。日中は誰もおらんし｣ 戸惑う彼女を強引に引き入れた #キミに読む物語

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18 「ボスただいま｣ 部屋へ入るとすぐにアイリッシュセッターのボスが嬉しそうに尻尾を揺らしながら駆けてきて飛びついた 「コラっ、ボスお客やぞ。大人しくせぇよ｣ 勢いよくのしかかられて尻餅をつく ルカはそれをなんとも言えない顔で見ていた #キミに読む物語

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19 「犬ニガテ？｣ 『…うん、飼ったことない』 「触ってみる？｣ そう聞くと、ルカは両手を重ねて握りしめる 笑… 「大丈夫やって、ほら抑えとくし｣ 見つめると彼女はゆっくり近づいて手を差し出した #キミに読む物語

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20 『…柔らかい…』 「せやろ。笑 ボス！静かに｣ 興奮するボスをなだめるように背中をなでた手が、ルカの手を掠めた さっきまで手を繋いで走ってきたはずなのに、それとはまた違う…電気が走ったような感覚 ワンっ！ ボスが吠えてハッとした #キミに読む物語

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21 『さ、参考書がいっぱい…』 ───ああ…苦笑 「親がな。僕落ちこぼれなんで、親の期待する進路なかなか進めへんねん。こんな馬鹿高い参考書こんなにあっても宝の持ち腐れやねん。…ルカ先輩は頭いいっすよね｣ いつも学年トップ… #キミに読む物語

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22 『勉強なんて…別に頭良くても…』 「頭良くて、顔も綺麗でホテルグループのトップに立つMINAMIGAWAのご令嬢なのに？｣ 『っ//…錦戸くんだってそうじゃない』 「おれ？｣ ベッドに座って 自分でも考えてみた #キミに読む物語

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23 『───私は、、錦戸くんみたいに生きることはできないから』 「…どういうことや｣ 『…本当の両親じゃないの』 「え？｣ それはめっちゃ小さな声で一瞬空耳かと思った #キミに読む物語

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24 『私が赤ちゃんの時に両親は事故で亡くなって、叔母さん夫婦にひきとられたんだ…私の受け継ぐ遺産も一緒にね。 叔母さん夫婦にはその頃まだ子供はいないし自営の仕事もうまくいってなくて…そんな時に私ひとりが残された事をチャンスと思ったのかもしれない』 #キミに読む物語

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25 いや、でも… 「チャンスって…実の姉妹がなくなったのに？｣ 彼女は…笑った 『人の欲は人を変えるのよ』 そして立ち上がり俺の前に来て 『あなたもそうでしょう…？』 屈んで…彼女の柔らかい唇が… ───重なった… #キミに読む物語