ある日の晩酌inはまルーム

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次です! 今回は浜風ルームでの晩酌と食事事情についての諸々。 ぜひぜひおたのしみください! 続きを読む
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竹村京 @kyou_takemura

すると甘い柑橘の香りがふわりと漂う。熱いマグを両手で包んで、洗い物で冷えた指を温める。 「カルピスじゃないんだな」 「さすがに寒いですから」 ふー、と息を吹きかけて、少し飲む。温かさと甘さに、浜風の頬が少しほころんだ。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:03:25
竹村京 @kyou_takemura

「それで、ここで晩酌できなくなってもいいんですか?」 微笑んだまま、浜風がいたずらっぽく問う。 「そしたら……隊員クラブでも行くかな」 「隊員クラブって厚生センターの奥にあるあの怪しいお店ですか?」 「あれでも普通の居酒屋だぞ」#落ちぬい二次

2016-11-13 00:03:59
竹村京 @kyou_takemura

基地や駐屯地内で飲酒できる唯一の場所が厚生センターの中の隊員クラブと呼ばれる店である。ここも売店や委託食堂と同じく民間委託の居酒屋で、場所によってはチェーン店が入っている事も多い。 「営業してるところ、見た事ありませんけど」#落ちぬい二次

2016-11-13 00:06:20
竹村京 @kyou_takemura

当然である。営舎内居住者の大半は艦娘と少数の独身曹士および大佐のくせに住み込んでいる兵頭くらいなものだ。いくら若い男どもでも毎日居酒屋通いをすることはないし、飲酒できる艦娘は外出申請を出してでも洒落たバーに行く。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:07:51
竹村京 @kyou_takemura

到底毎日営業しても採算は取れないので普段は営業せず、宴会などで予約があった時だけ店を開くようになっているのだった。 「したらまあ……売店でつまみ買ってだな」 「飽きますよね」 「飽きるな」 「…………」 「…………」#落ちぬい二次

2016-11-13 00:08:45
竹村京 @kyou_takemura

「これ、おいしいですか?」 「うまい」 ビールのあてに出したソーセージのケチャップ炒めである。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:09:56
竹村京 @kyou_takemura

安いソーセージを半分に切ってケチャップを絡めたものに、兵頭の好みに合わせてほんの少しだけ一味唐辛子を入れて辛味を足してある。浜風の手料理は店で出すようなものではないが、兵頭の好みをがっちり捉えていた。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:11:26
竹村京 @kyou_takemura

「コンビニおつまみより?」 にまにまと、いたずらっぽいを超えて勝ち誇ったような笑みである。 「いや、今はコンビニにも高級缶詰とか売っててな」 「コンビニおつまみよりおいしいですよね?」 「おいしいです」#落ちぬい二次

2016-11-13 00:12:15
竹村京 @kyou_takemura

兵頭が飲んでいるビールはインドの青鬼という、苦味が強烈なIPAである。基地内の売店には置いておらず、浜風が外のスーパーに食材の買い出しに出た時についでに買って来た物だ。強い苦味と甘辛いソーセージのケチャップ炒めがよく合っている。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:14:10
竹村京 @kyou_takemura

「ですよね。素直な兵頭さん、好きですよ」 「それ恥ずかしくねえ?」 「全然。だって私、兵頭さんが好きですから」#落ちぬい二次

2016-11-13 00:17:44
竹村京 @kyou_takemura

兵頭はまっすぐな浜風の視線から逃げるように天を仰ぐ。染みの浮いた天井しかない。染みの一つが女たらしの長瀬のにやけ顔に見えて、心の中で対潜ロケットパンチを一発ぶち込んでおいた。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:18:21
竹村京 @kyou_takemura

あれ以来、浜風は堂々と好きと言うようになった。兵頭も好意を持たれて悪い気はしないが、それに応えられない理由をはっきり伝えているだけに少し後ろめたい気分になる。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:19:17
竹村京 @kyou_takemura

ケチャップ炒めを一つ食べ、胸中のもどかしさを洗い流すようにビールを飲む。甘味から辛味、苦味と目まぐるしく口の中の風景が変わり、実にうまかった。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:20:20
竹村京 @kyou_takemura

浜風がこうして手料理を振舞ってくれるようになる前は自室で一人酒が当たり前で、それなりにうまく感じていた。あの頃はアルコールの多幸感があればよかった。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:20:43
竹村京 @kyou_takemura

だが今となってはこの晩酌が出来なくなるのは、正直、痛い。こうして浜風に相手をしてもらって飲む時間には、長門とバーで飲むのとは違う安らぎがあった。 ピリ辛のケチャップ味を堪能しながら思う。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:22:03
竹村京 @kyou_takemura

兵頭も一応自分の分の食費プラスアルファは出しているが、これではまるで家庭に生活費を入れているようではないか。 浜風に正面から胸の内を告白されてから、兵頭は浜風の事を女性として好きとも嫌いとも返答していない。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:26:22
竹村京 @kyou_takemura

まさかそれに業を煮やして搦め手から既成事実化する策略だろうか、いや浜風に限ってそんな回りくどい手を使えるだろうか、などと考えを巡らせていると、乱暴なノックが扉を揺らした。 「浜風ー、邪魔するよー!」#落ちぬい二次

2016-11-13 00:29:02
竹村京 @kyou_takemura

谷風を先頭にぞろぞろと第十七駆逐隊の三人が入ってくる。 今日は土曜で谷風と浦風は外出、磯風は長門に付いて料理の練習をしていたはずだが、消灯までの時間を浜風の部屋で過ごすつもりらしい。浦風は売店で買ってきたのだろう、スナック菓子をいくつか持っていた。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:30:45
竹村京 @kyou_takemura

「もしかして本当にお邪魔じゃった?」 浦風の気遣わしげな言葉ににやりと笑った谷風が握り拳を掲げて見せる。ただし親指を人差し指と中指の間に挟んだ拳だが。浜風は谷風の頭を軽く小突いて、三人を迎え入れた。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:32:11
竹村京 @kyou_takemura

「司令、しっしっ」 「上官を犬扱いとはいい度胸だな磯風」 「これでも褒めているつもりだぞ。犬なら番犬になるが司令はむしろ悪い虫じゃないか」 磯風が兵頭を足蹴にして場所を詰めさせるのを見ながら、勝手知ったる他人の部屋、谷風はさも当然のように冷蔵庫を漁る。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:34:37
竹村京 @kyou_takemura

「こら谷風、それは駄目です!」 谷風が手に取っていたのは水曜日のネコという水色の缶ビールだ。これはフルーティな味わいで女性に人気があるクラフトビールである。浜風はそれを取り上げ、改めて渡したのは金麦であった。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:36:12
竹村京 @kyou_takemura

「えー、いいじゃん飲ましてよー」 「駄目です。兵頭さんのですから」 「ケチー」 「わがまま言わんの。飲みたきゃ自分で買うてきたらええじゃろ」 口を尖らせる谷風を浦風がたしなめる。年齢や経験は谷風の方が上だが、こういう時は浦風の方がずっとしっかりしている。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:37:41
竹村京 @kyou_takemura

「人のお金で飲むお酒って最高においしいんだよ?」 「100円か200円の違いじゃろ?」 「浦風はわかってないね。缶ビールの100円200円は大きいんだよ!」 「そんなもんかねえ」#落ちぬい二次

2016-11-13 00:38:58
竹村京 @kyou_takemura

谷風は金麦を手に床にどかっと胡坐をかく。その仕草は到底少女らしいとは言い難く、下着が丸見えになっていたであろうが兵頭も敢えてそれを見ようとはしなかった。 「おっ提督いいもの食べてるねえ!浜風あたしにもちょうだい!」#落ちぬい二次

2016-11-13 00:40:24
竹村京 @kyou_takemura

浜風は呆れ気味に、小さな片手鍋からケチャップ炒めを取り分けて谷風の前に置いた。谷風はひょいひょいと指でソーセージを口に放り込み、器用に左手だけでプルタブを開けてビールを流し込んだ。#落ちぬい二次

2016-11-13 00:41:34