The last story...

その剣は穿つ。彼らの想いを乗せて。 運命を喰らう絶望を打ち払う為に。
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ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「イース!...くっ!」。片膝をつく戦友を一瞥し、ハイドは再び脚で地を蹴る。佇み動かない影に向かい跳躍し、ふた振りの短剣を振り下ろした。「......とお、らない...!!」。風翔龍の力と、炎王龍の力。古龍の強大な力を剣に乗せてもなお、計り知れない暴君の力はそれらをも上回る。24

2016-08-02 02:20:18
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

刹那、隣に気配と衝撃を感じる。神経を双剣に集中させつつ視線を横に動かすと、黄金色の鉄槌を持つイースの姿。「...?」。ふとイースの鉄槌を防ぐ暴君のオーラに、小さな亀裂があるのが見て取れた。「イース!戻れ!」。ハイドの声が名を叫んだ。反応を返したイースと共に、暴君と距離を取る。25

2016-08-02 02:35:19
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「...見えたか」。洞察力、判断力共に優れている彼も、きっと気づいているはず。視線は鋭く暴君を捉えつつ、言葉だけを隣に立つ戦友に投げ掛けた。「あぁ...恐らく、あの部分を的確に叩く事が出来れば、突破口になり得るかもしれないな」。小さく息を吐き、イースは武器を胸の前に構え直す。26

2016-08-02 12:31:01
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「俺が奴の片側から攻撃する。注意が少しでも此方に向いたら...」。横目でハイドの持つ双剣を一瞥し、言葉を続ける。「頼む」。小さく微笑むと、彼は地を蹴って暴君との距離を詰める。振り上げる鉄槌はオーラによって阻まれるが、イースの動きは鈍らない。「一瞬...たった一瞬の隙で良い」。27

2016-08-02 12:39:33
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

一瞬の時間さえ作ってしまえば、後はきっと。「ーーー!!」。無理な体勢から防御に入ったのか、暴君の纏うオーラの亀裂辺りがほぼ無防備な状態になったのが目に見えてわかった。更に視線の先、見慣れた人影の姿。「つまり、こういう事...だろう!」。業火の炎と零度の氷が、彼女の手で踊る。28

2016-08-02 12:44:12
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

剣の切っ先が描く軌道は、迷いなくただ一点を狙う。「舞い踊れ、ヴィルマフレア!」。一際大きな空気の振動と共に、暴君を纏っていたオーラの一部分が弾け飛んだ。《.....ッ!》。想定外の衝撃に思考処理が追いつかず、僅かだが暴君の体勢が崩れる。が、その禍々しいオーラは追撃を許さない。29

2016-08-02 23:31:13
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「くっ...!」。地に手をつき、衝撃で叩きつけられないようなんとか受身を取る。「ハイド、」。隣から聞こえるイースの声が鼓膜を震わせた。大丈夫だと意思表示をしながら、ハイドは視線を暴君へと向け直す。片腕を覆うオーラに乱れが出来たせいか、全身に纏うそれにも歪みを引き起こしていた。30

2016-08-02 23:42:35
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

纏うオーラが大きく乱れた今、もうこれ以上の好機はないかもしれない。再び武器を黒き魂へと向けた、その瞬間。「ーーー!?」。空気の色が、明らかに変わる。ハイドの体中を悪寒が走った。殺気のそれを通り越した、心臓が刹那に凍るような。心が全て抉り取られるような。不快感、違和感、異質感。31

2016-08-03 02:20:41
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「ぅ、ーーー!?」。重力に加わる圧倒的で強大な"何か"。押し潰されそうな感覚に陥るイースの口からも苦痛の声がこぼれ出る。《...お前達ナど、この姿で十分だと思っタガ...》。目の前に佇む暴君を纏うオーラが、少しずつ像を模っていく。瞬く間に変わっていく姿形。狂える紅の瞳が光る。32

2016-08-03 02:27:52
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

己達に牙を剥く巨躯。殺戮の本能を映し出す瞳。暴君の魂は、怒りを力へと変えし狂暴なる"竜"の姿へ変貌する。《...我が糧ニナルがいイ...!》耳をつんざくほどの咆哮が轟いた。空気を震わせるその轟音は、二人の頭を割らんとする。「ぐっ...!」。体が言う事をきかない。相棒が、重い。33

2016-08-03 02:50:08
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

だが、ここで逃げるわけには。具現した絶望を前に、霞む希望を見失うわけにはいかない。絶望に身を委ねる事は、即ち悲しみの記憶を再度呼び起こす事になる。「それだけは...絶対に嫌だ」。叶わないと思っていた。失われた時間を嘆き苦しむしか出来ないと。だから。「屈したり...しない!」。34

2016-08-03 16:03:55
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ーーーその力は刃を通さず、槌の打撃さえ無効化する。ハイドの双剣も、イースの鉄槌も。暴れ狂う負の魂の前に、なす術がない。巨躯なる絶望は、希望を絶やさんとする。二人の体力は刻一刻と限界値へ近づき、正確な判断力すら鈍らせる。暴君の雄叫びが曇天下に轟いた。紅の瞳が迫る。避けなければ。35

2016-08-03 16:15:21
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

頭では理解していた。しかし、体は瞬時に動かない。「ーーーハイド!」。ほんの一瞬の出来事。右側から強い衝撃を受け、彼女は少し離れた地面へと倒れ込んだ。"助けられた"と悟ったのは。視線の先で、鋭利な牙の並ぶ虚空の闇に、イースの体が消えていくのを、見た時。「....、...!!」。36

2016-08-03 16:23:25
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

反射的に体が動く。ほぼ無意識と言っても過言ではない。胸の中に押し込んだ、過去の記憶が抉り起こされる。「ーーー!」。"イース"。彼を呼ぶ声は、微かに震えていた。イースを飲み込んだ魂のオーラは闇夜のように広がり、彼の姿を覆い尽くす。伸ばした手も虚しく、弾かれた体は後ろへよろけた。37

2016-08-03 23:39:49
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「っぐ、.....!!」。バランスを崩し片膝をつくが、またすぐに立ち上がる。相棒であるヴィルマフレアを、幾度となくその障壁へと向ける。それでも。零度の冷たさも、業火の熱さも。暴君の前には無力に崩れ去る。「ーーー届け、届いてくれ...っ」。己を責める時間すら、与えられないまま。38

2016-08-03 23:46:48
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「...私はなぜ、こんなにも...!!」。歯を立てた唇から、血がゆっくりと滴る。無力さを嘆いても、非力さを憂いても。「あああぁ!!」。最早気力だけが彼女を動かしていた。渾身の力を振り絞るように、その手に抱くふた振りの剣を暴君へと振り下ろす。競り合う両者の力の差は、歴然だった。39

2016-08-03 23:53:17
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

斬撃をいとも簡単にいなし、暴君の波動は彼女の体を軽々と弾き飛ばした。地に叩きつけられた際の衝撃は、ハイドの意識を奪わんとする。力が入らない。手にも、足にも。辛うじて残った力で視線を上げると、霞ゆく視界の先、禍々しく渦巻く"闇"と、煌々とした紅の光が、揺らめいていた。40

2016-08-04 00:02:45
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《奴は、既に我ガ捕らえた》。薄れゆく意識の中、ハイドの頭の中にどす黒い何かが広がる。耳から脳へと流れてくる、狂える魂の声。《最早希望など無イ。混沌なる闇に沈ミ、もがき苦しむガイい》。光を失っていく視界の中、彼女の瞳は。憎悪の念と己の無力さを悔やむ心で、暗く沈んでいったーーー。41

2016-08-16 13:22:45
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ーーー闇が広がっていた。目を開けているのか、閉じているのか。それさえ見失う果てしのない"黒"。「...」。何かが、微かにハイドの鼓膜を揺らす。遠くで轟くその音は、重く低い。まるで、龍が咆哮しているかのように。少し、また少しと声が近付くのがわかった。「...何を、惚けている」。42

2016-08-16 17:59:13
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

頭上から聞こえた声に、ハイドは倒れていた体を起こした。いつの間にか、視界はクリアに広がっている。いや、そんな事よりも。「...貴方は...でも、なぜ」。目の前の人影は、ハイドの言葉を簡単に奪った。"ここに居るはずのない"その存在は、彼女を見下ろす。「...久しいな、ハイド」。43

2016-08-16 18:06:16
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「...ベルゼ、」。ハイドの見据える視線の先。そこには、狂暴竜によってその体を蝕まれながらも、かつての時を共に戦い、最期は己の力を仲間に託したーー仮面ベルゼの姿があった。何故ここに?生きていたのか?言葉が頭に浮かんでは、声になる事なく消えていく。思考回路が現実に追いつかない。44

2016-08-17 17:04:22
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「...お前は、こんなところで何をしている?」。沈黙を破った彼の表情は変わらず、低い声がゆっくりと言葉を紡ぐ。「...ここは絶望の淵...お前のような奴が来る場所ではないはずだ」。ハイドの返事を待つ事はなく。ベルゼの手は、力なく腰を落とす彼女の胸倉をおもむろに引き上げた。45

2016-08-17 17:08:30
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「...私は...わ、たしは...」。微かに溢れたハイドの声は、震えていた。先の記憶は未だ鮮明に彼女の頭を支配する。この力は、愛する者すら守る事も出来ないという真実を、無慈悲に叩きつけるように。「...お前の強さなど俺の知ったことではない」。彼女を掴み上げる手に、力が加わる。46

2016-08-17 17:14:08
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「...お前は自分の罪から逃げようとしている。...自分の弱さを言い訳にしてな!」。強くなる語尾。ベルゼの声は、無数の棘のように彼女を刺す。突き飛ばされるように離されたハイドの体は、力なく後ろによろけた。「...私には...私には、あいつを守る力など......っ!」。47

2016-08-17 17:23:09
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

抱いていた感情が暴れ出す。彼女の瞳から涙が溢れ出た。守りたかった。共に生きたいと願った。この想いを剣に込めても、その未来が許されないのなら。「...自分の犯した罪は自分でしか拭えない」。ハイドの言葉を遮るように、ベルゼの声が重なった。彼の瞳は、彼女の心の奥すら見透かすように。48

2016-08-17 17:27:44
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