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フォビドゥンフォレスト2話「バケグモ大進撃」 #21 「回収」

フォビドゥンフォレスト2話「バケグモ大進撃」 まとめ http://togetter.com/li/1024051 1話 「英雄たちの遺産」まとめ http://togetter.com/li/1020459 続きを読む
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フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

片桐は新種の死体に近付く。蒸発に伴う溶解液の発散に注意し、頭上のエイジを手で庇うようにしながら、シラヌイ部分に顔を近づけてみる。その時、エイジがごく小さくハサミを打ち合わせた。片桐ですら聴き逃しかねない小音だった。本人すら自分の感知能力を訝しんでいるようだった。 19

2016-11-16 02:00:14
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片桐は双剣でクモの背を上下に切り裂く。左右方向にも中心から外側に向けて大きく切り開くと、右側を鞘にしまい、代わりにエイジを手の中に包み込んだ。左剣であちこち切り裂いては、裂いた部分に右手のエイジを近付けていく。 「片桐君?危ないですよ」 義奥の静止に構わずに続ける。 20

2016-11-16 23:19:10
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佐佑里も止めようかとは思ったが、すぐに思い直した。レコードを交換して銃を構えて待機する。 「ここは彼に任せましょう。ボックスをお願いします」 義奥は折り畳み式の捕獲ボックスを開けた。大型の虫籠サイズで、色柄は蛍光赤と黄のモザイク模様という毒々しい箱が半自動展開する。 21

2016-11-16 23:24:25
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片桐は動きを止めた。ハサミを強く鳴らすエイジを制して頭に戻す。保護手袋を着けると、煙を上げるクモの肉に右腕を捻入れた。腹にある気門付近を背の側から探り… 「コイツだ!」 何かを掴んで引き摺り出す。毒々しい汚れたクリーム色のそれを地面に置き、剣と腕で更に解体する。 22

2016-11-16 23:29:56
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…やがてソレが現れた。30㎝くらいの長さの紐状のソレは糸腺か神経にも見えたが、よく見れば明らかに自律的に蠢いている。蟲型の妖怪だ。 「…なんですかソレ?」 「さあね…こういう環形動物型の妖怪は種類が多過ぎる上に、すぐ死んじまうんでよく分かんねぇんだよな」 23

2016-11-16 23:37:03
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最下級のF級妖怪にはこの様な普通の蟲と見分け難いものが多い。種類が多い上に個体差が激しい為、同定は困難を極める。一方で単体では常人の投石で殺せるほど弱い…つまり脅威度が低い。何より禊の効果で追い払えてしまう。これらの事情から、彼等については殆ど研究が進んでいないのが現状だ。 24

2016-11-16 23:42:46
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「確か、人間や他の妖怪に宿る寄生虫型の妖怪自体は今までにも確認されてますよね」 「そうだけど…妖怪の体をここまで弄る奴は知らねぇな。冬虫夏草みてぇに苗床にするタイプくらいがせいぜいだろ?」 何にせよコレが今回の黒幕には違いない。片桐は蟲を肉へ押し戻すことにした。 25

2016-11-16 23:47:00
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「…うわっ」 蟲が手袋の掌に体を押し付けている。何度かやって上手くいかないと見ると、体をバネの様に縮め出した。一瞬「目」が合った。 「先輩!」 「はい!」 <Blizard!/ネット!> 宙に放り投げられた蟲が氷の檻に閉ざされる。落ちるのを義奥が受け止め、ボックスに入れる。 26

2016-11-16 23:52:36
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「野郎…人間も乗っ取れんのか?」 片桐は忌々しげに手をパタパタと振る。 「生存者の身体検査もするように急いで報告しておきましょう」 義奥は手短にドローンに伝言を吹き込んで西に飛ばす。 「恐らく私達は禊のお陰で大丈夫だとは思いますが…」 佐祐里は顎に右手を付いて懸念する。 27

2016-11-16 23:59:28
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低級妖怪の体内への侵入などの干渉は禊の効果で殆ど防げる。一番危険なのは生存者達だ。この蟲に人体への寄生能力がある場合の危険は言わずもがなだが、寄生生物は寄生・定着し損ねた場合に体内を迷走して破壊する危険もある。早めに外に連れ出して禊を受けさせたほうが良い。 28

2016-11-17 00:04:55
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3人は協力して虫が潜んでいた周辺の肉の他、変質の激しい部位を中心に体組織を氷結させ、可能な限り捕獲箱に放り込んだ。義奥は箱を持って急いで撤退した。残った2人は残る死体を慎重に分解・消滅させていったが、他に蟲は見つからなかった。死体がほぼ消えた頃、恵里達が戻ってきた。 29

2016-11-17 00:12:27
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「流石にちょっと疲れたわね…こっちはどうだった?」 肩で剣を担ぐ恵里の声と表情は、まるで疲れを感じさせなかった。少なくとも初対面の人間がこの場にいればそう見えただろう。 「こっちも大分綺麗になったな…あとは遺体だけか…」 礼太は新種が崩した岩の辺りを見る。 30

2016-11-17 00:25:55
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「流石に私達で全員をお連れするのは難しいでしょうね…」 バケグモの犠牲者は中身を吸われ骨と皮だけになっている。重量的には持ち帰ることは不可能ではないが、少し扱いを間違えば簡単にバラバラになる。特に岩などで潰された遺体なら尚更だ。迂闊に手を出さない方が良い。 31

2016-11-17 00:29:36
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後援部隊もここまでの犠牲は想定外だろうから、充分な遺体回収装備はないかもしれない。遺体も残さず食われた犠牲者がいれば、その残遺留品の捜索は困難だ。更に言えば洞穴突入前に助けた二人の様に、外に連れ出された者やここに攫われる途中での犠牲者がいたことも考えられる。 32

2016-11-17 00:35:51
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「そもそも、どうやって人を大量に攫ってきたかもまだ謎なんだよな?」 「ええ。その辺りも含めて最終的な収束には何日掛かることか…涼平のアホも呼び戻さないといけないのに…ともかく私達は後を任せて撤収しましょう」 外から大勢の人の気配が近付いてくる。後援部隊だ。 33

2016-11-17 00:39:55
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佐祐里は欠伸を飲み込んで両頬を打つ。時刻は3時40分頃。恵里と礼太と違って仮眠を取り損ねた上、片桐程には変則的な睡眠時間に慣れていない彼女が一番眠気を感じるのは無理もないことだ。敵を片付け援軍が来たことによる安堵も有るだろう。水筒の水を少し浴びて顔を拭いた。 34

2016-11-17 00:48:06
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「失礼しました。では西側と合流する前に黙祷をしていきましょう」 帰還の儀の際に改めて部隊全員で行うことにはなるのだが、やはり最前線で命のやり取りをしたものとしては現地でやっておきたい。佐祐里を先頭、片桐を後ろ、恵里達が真ん中に並んで北に向けて黙祷する。 35

2016-11-17 00:58:09
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バケグモの犠牲者…訳も分からぬままに怪物に監禁され、死の恐怖の中で次々に生きたまま食われていった人々に対しては勿論だが、自分達が倒したクモ達に対しても黙祷する。偶々人に害をなす存在として生まれたが為に倒さねばならないが、彼等もまた生き物なのだ。 36

2016-11-17 01:03:19
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本来は倒したその都度行うべきではあるが、想定外続きでその余裕が無かった。もっとも殺人生物相手の祈りであるから、形だけになっている者も少なくはないのだが…。20秒ほどで黙祷を終え、佐祐里が3人を振り向く。 「さあ、後援に引き継ぎをして私達は撤収…片桐くん…?」 37

2016-11-17 01:06:34
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佐祐里の驚く声に恵里が後ろを振り向くと、片桐の顔が近付いてきた。 「え…ハル?」 そのまま、ふらりと体が前に傾く。顔がぽふり、と恵里の胸へと沈み込む。 「………ハル!!?え、あ、ええ…いや…ちょっと!?え!?ハル…?何!?」赤面し混乱する恵里は、やがて気付いた。 38

2016-11-17 01:13:50
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「ちょっとハル…!ハル!」 半分胸に埋まったままの顔を掴んで揺さぶる。 「あの…かなり酷使した後ですからあんまり揺さぶらないほうが…」 「どうしよう…ハル…息してない…!」 「えっ!?」 礼太が飛び付いて片桐を抱き起こす。 39

2016-11-17 01:21:34
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脈は…ある。口の前に手を当てる。息は… 「あ、ゴメン。言い間違えたかも。意識がないって言ったつもりだったんだけど…」 「バカ!」 「痛!」 礼太は恵里の頬を張った。跡が残らない程度には軽くだが、容赦は無かった。片桐は鼾に近い音ながらも普通に息をしていた。 「本当ゴメン…」 40

2016-11-17 01:26:27
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「全く…ハルが無事なら良いけどな…俺も叩いてゴメン…」 「いえ、完全に無事とも限りませんよ。脳を酷使した後ですからね…少し熱がありませんか?」 佐祐里は片桐の額に手を当てる。サイバーグラスを掛けバイタルを表示すると熱が平熱より1度弱上がっている。 「早く連れ帰りましょう」 41

2016-11-17 01:33:12