自由貿易(及び資本移動の自由)の弊害について (移民についても追加)

「貿易がその双方にとって利得を生む」という前提を受け入れた上でも、その利得を上回る弊害を齎し得るかもしれない。
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

自由貿易に関して久しぶりに議論したので、論理を整理しておきたい。 関連づけた最初のツイートにも書いたことだが、「重商主義の誤り」「比較優位の利得」を双方認めたうえでも、反自由貿易論は十分に成り立つ。 その議論の方向性はロドリックによると2種類ある。

2016-11-18 09:15:59
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

まず、「自由貿易による産業発展抑制」である。一次産品が比較優位にある国は、自由貿易のもとでは一次産品に特化することで比較優位の利得を得ることが出来る。 しかしそれは、新産業(例えば機械工業)への投資を抑制し、経済成長の面で遅れを取るようになる。(戦前のアルゼンチンが主要例)

2016-11-18 09:20:49
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

なお、「比較優位の利得」の議論自体、「資本移動の自由がないこと」を前提として置いているので、先に述べた「自由貿易による産業発展抑制」の論理も、当然その前提を共有している。 この前提が外れ、資本移動の自由が表れた場合、双方の議論ががらりと変わることになるのだが、後に扱う。

2016-11-18 09:23:25
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

さて、もう一つの論理は「自由貿易による産業変革のコスト」である。自由貿易による比較優位の利得を得るためには、比較優位産業への特化と比較劣位産業からの離脱が必要になる。しかし、当然のことながら、双方の産業の構成員は異なるし、基本的にその間の代替性は限定的なものにならざるを得ない。

2016-11-18 09:25:20
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

従って、自由貿易の推進は、基本的には固定的な「敗者」を生むことが知られている。しかし、自由貿易推進による利得が極めて大きく、その再分配が容易である場合は、敗者の損失を十分に和らげることが出来るので、自由貿易の恩恵を政治的に利用することが簡単になる。

2016-11-18 09:27:14
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

しかし、再分配が不十分でるか、自由貿易推進の追加利益が極めて小さい場合は、自由貿易推進を政治的に選択することが困難になる。 実際、ロドリックは、自由貿易が進んでいる国ほど、再分配の強度が強いことを指摘している。これは自由貿易の恩恵を「共有」するための必須の政策的バランスである。

2016-11-18 09:30:46
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

ロドリックは、「所得が51ドル増えるアダムと、50ドル減るデイヴィッド」を例示している。この例では全体所得が増えているが、その限界的利益が小さいため、恩恵を「共有」するには強力な再分配が必要だ。 この場合、アダムから50ドル以上所得移転しなければ、デイヴィッドは損をする。

2016-11-18 09:31:51
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

十分な再分配制度がなければ、自由貿易推進の恩恵を「共有」出来ないから、「自由貿易の利得の共有を目指す」限りにおいて、政治的には2つの選択があることが分かる。 一つは、「自由貿易推進と同時に再分配を強化する」 もう一つは、「再分配の強化が難しいので、自由貿易推進を抑制する」

2016-11-18 09:34:04
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

もちろん、前提を放棄して、「再分配を整備せず、自由貿易を推進する」という方向性もあるが、それは比較優位による分業が必然的に齎す経済的敗者に苦痛を与えることになる。そうした政治的軋轢は、自由貿易やグローバリズムに対する反動として機能するようになるだろう。(どこかで聞いた話)

2016-11-18 09:37:37
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

さて、棚上げしてきた資本移動の自由について少し話そう。 資本移動の自由がある場合、ベーシックな比較優位論は成り立たなくなるので、そこから考えなおす必要がある。 比較優位の議論では、各国の労働や資本は固有であり、それをどの産業に配分すれば効率的かが論じられているに過ぎないからだ。

2016-11-18 09:41:16
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

資本移動の自由の場合は、国内資本が、相対的にコスト(賃金だけでなく、教育レベル、治安、インフラの程度も含む)の安い海外労働力を利用することが出来るようになる。そのことにより、国内の資本所得は上昇することになる。一方で、当然海外にアウトソーシングされた分だけ国内労働所得は減る。

2016-11-18 09:47:09
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

もし資本移動の自由が当該国の利益になるとしたら、それは、国内で生産した場合の所得よりも、海外で生産させたときの資本所得が大きい場合のみということになる。それだけでなく、それが各人の厚生をきちんと改善するためには、資本所得が「元」労働者層に再分配されなければならない。

2016-11-18 09:48:50
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

もし再分配されない場合、「元」労働者層が一方的に損をすることになるだけでなく、非効率な資本流出も起き得る。 というのは 国内生産することの全体利得>海外生産することの資本利得 であったとしても、資本に所得が集中するなら、海外流出の方が資本家にとって利益になり得るからである。

2016-11-18 09:51:46
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

ここまで議論を進めると、資本移動の自由を比較優位の理論に少し近似できる。 各国は、労働による生産を行うか、開発・形成した資本を用いて海外の労働力を用いるかのどちらかを選択できる。どちらに特化するかは、相対的にどちらが効率的か(比較優位か)に依存することになる。

2016-11-18 09:55:58
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

こう考えたとき、海外から資本を得た国も、必ずしも得したとは言えないことが分かる。 そうした国は、比較優位に基づくなら、生産資本(単に設備に留まらず、技術やノウハウを含む)の形成が抑制され、労働力の量や質の向上に特化し、資本形成による所得成長を放棄することになるからだ。

2016-11-18 09:59:09
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

従って、理想解としては、資本流出国は、きちんと資本所得を再分配して非効率な資本過剰流出を防ぐことが重要であり、資本流入国は、海外資本依存に汲々とせず、(仮に比較劣位だとしても)資本形成にリソースを割くことで、将来的な所得の成長を目指すことが重要になる。

2016-11-18 10:01:33
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

以下は細かい議論になるのだが、たまに展開されるのが、自由貿易の利得として、比較優位ではなく、「自由化という刺激が元保護産業を活性化する」という自由信仰主義を用いる論法である。サクランボの自由化とその成功gendai.ismedia.jp/articles/-/231… …が引用されることが多い。

2016-11-18 10:06:29
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

しかし、サクランボの成功は、自由化に基礎づけられているわけではない。 ameblo.jp/5009125/entry-… j1sakai.blog129.fc2.com/blog-entry-359… したがって、自由化刺激が元保護産業を刺激するという機序は一般化できないし、比較優位に従えば基本的に淘汰される。

2016-11-18 10:08:35
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

また、日本は世界比較で見て特に農業が閉鎖的というわけではない。米やこんにゃく芋のようなごく一部の高関税品はあるが、全体で見た農業関税レベルはさほど高くないからだ。tppbot.jp/archives/381 農産物輸入額も大きい。maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j…

2016-11-18 10:12:56
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

日本の農業はこのように低障壁なので、その必然的帰結として、日本の農業は順調に衰退している。 私は「農業が衰退するのはダメだ」と言いたいのではなく、「自由貿易の論理に従えば、農業が衰退するのは当然だし、理想的ですらある」と言いたいし、自由貿易論者は皆そのことに同意し向き合うべきだ。

2016-11-18 10:15:18

移民受け入れはどう分析すべきだろうか

望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

ここで、資本移動による利得について論じたのだが、移民についても似たような議論が出来ることに気が付いた。 資本と労働で二分したとき、資本が発達している先進国では基本的に、国民資本と国民労働の組み合わせか、国民資本と移民労働の組み合わせがあり得ることになる。 twitter.com/motidukinoyoru…

2016-11-23 04:09:01
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

「自由貿易(及び資本移動の自由)の弊害について」をトゥギャりました。 togetter.com/li/1050982

2016-11-21 08:55:12
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

資本-国民労働の全体所得<資本-移民労働の資本所得のとき、移民活用は全体最適になり得る。(これは前提として、移民雇用が同質同数の国民雇用を減らしており、その分の失業や所得上の転落が起こる、という前提に基づいた話ではある) もちろん、資本所得が再分配されないと最適にはならない。

2016-11-23 04:13:34
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

仮に国民労働が不足しているなどの理由で、移民活用の国民的利益が非常に高まった場合も、移民と競合的な職業層(スキル、地域、それまでの所得などに基づく)の国民には必ず不利益になる、ということを比較優位の論理は示す。 この場合、当該国民への所得あるいは職業的な手当が不可欠である。

2016-11-23 04:17:39
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

資本流出や移民受け入れと並行しながら、「働かざるもの食うべからず」的社会圧力や社会福祉政策、あるいは公共的な雇用提供の抑止(実際、日本は公的雇用が抑制されている国)が働いてしまうようだと、そのあおりを受ける層が国民の中で必ず有意な規模で現れるだろうし、実際そう見える。

2016-11-23 04:19:49