【白鯨-mobby dick-】 ♯2

おいしいコロッケ
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葛葵中将 @katsuragi_rivea

その様子を横目に、海鷲が"花火"の中へ吸い込まれるように飛び立っていくのを認め、飛鷹は憂いの心情をため息混じりに口にした。 「もう…最悪だわ。本当に最悪…」 それというのも…この演習が始まる時点からとんだ出来レースであることが既にほぼ、決まっているからであった

2016-11-21 20:25:19
葛葵中将 @katsuragi_rivea

(―――ちょっと待って!?正規空母三人を軽空母の私達だけで相手する、ですって!?)         演習が始まる一時間ほど前、 (そうだね。この演習の目的が、実験を兼ねているからだ) 単冠湾に彼女達を率いてこの地に訪れた責任者たる男――葛葵は端的に告げた。

2016-11-21 20:26:33
葛葵中将 @katsuragi_rivea

皆の視線を集める中、愛用の煙草から紫煙をふかし、ふてぶてしい態度を見せつつ 空技廠で開発をしている新型艦載機の性能テスト、そう銘打たれ計画された演習において 試験中の兵装に過度な負荷をかけることは厳禁。そう葛葵は口にした

2016-11-21 20:28:06
葛葵中将 @katsuragi_rivea

新型を扱えるのは飛行甲板に耐熱式の樹脂を飛行甲板にあしらった装甲空母に限られた。 飛鷹や隼鷹、龍鳳には搭載出来ない程に大型化し、木造の飛行甲板では扱うことが出来ず さらに、燃料を燃焼させることで機体の推力へと変換する機構を持つ、俗にいう…噴進機 それが新型となる機体である。

2016-11-21 20:29:48
葛葵中将 @katsuragi_rivea

故に彼女達はこの演習においてその新型の機動性と攻撃性能を確かめるための"敵側"… すなわち深海棲艦役を演じる役目を負うハメになったのだった。 …それだけならまだいい。

2016-11-21 20:31:00
葛葵中将 @katsuragi_rivea

搭載数でも艦載機の性能でも劣る上に――― 「…相手はあの"白鶴"。彼女達が少し…気の毒な気がするんだけど?中将さん」 緑髪の少女、夕張は少し呆れ顔を浮かべながら葛葵の顔を覗き込み、語りかけた。 白鶴―――鹿屋機動部隊の長と言えば彼女をおいて他ならない

2016-11-21 20:32:16
葛葵中将 @katsuragi_rivea

空を制すことはその後の戦局を左右する。航空母艦は海上戦力としてその要となる その中にあっても鹿屋の"白鶴"といえば指折りの実力者としてその名を各地に轟かせていた。 自身は謙遜するだろうが、一航戦と称される者たちに一歩も引けを取らない…紛れもない精鋭であることは明白であった。

2016-11-21 20:33:38
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「まぁ、そのほうが新型の性能を確かめるにはいいんですけど」 夕張に応えたのは楓がその配下におく機工科に属する工作艦、明石。彼女の手にする今回の演習に関する資料、 その名簿には今回の演習に参加している艦の名が記されている。 件の白鶴…装甲空母翔鶴、正規空母飛龍、同じく葛城。

2016-11-21 20:35:19
葛葵中将 @katsuragi_rivea

白鶴だけではない、単冠湾でも屈指の実力者”多聞天”の飛龍。 それらをサポートする葛城も”八咫烏”などと一部からささやかれるまでに成長した新鋭の空母。 …紛れもない空母戦力としては並々ならぬ物を持ち、近隣どころか日本中を探しても比肩するものはそう多くはない。

2016-11-21 20:36:39
葛葵中将 @katsuragi_rivea

そんな彼女達正規空母陣営と対峙するのが…鹿屋に籍を置く軽空母三人組。龍鳳、飛鷹、隼鷹という組み合わせ。 誰の目から見ても彼女達…飛鷹、隼鷹を含む軽空母側が圧倒的不利という状況に、 元の性格が高飛車であることもあってか、いの一番に飛鷹が激昂し不満を申し立てた。

2016-11-21 20:38:01
葛葵中将 @katsuragi_rivea

(ちょっとそれはおかしいんじゃないの!?贔屓にも程があるじゃない!) ばつの悪そうな正規空母達を余所に、自身の心情を素直に司令官葛葵にぶつけたが、 存知の通り、彼が他者の苦情など受け入れる許容の心など持つはずもなく、

2016-11-21 20:39:26
葛葵中将 @katsuragi_rivea

隼鷹と龍鳳の賢明な窘めと、ひたすら謝り倒す翔鶴と葛城にその場を丸め込まれ、 このあからさまな待遇の差に異議を唱えた飛鷹の意見具申は見事に退けられたのだった。

2016-11-21 20:40:43
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「まーまー飛鷹、そんな機嫌悪くすんなよぉ」  不機嫌そうに眉間にしわを寄せる飛鷹に隼鷹が間延びした声をかける。 飛鷹が視線を送ると彼女は、相手艦載機から落とされる演習用爆弾を軽やかに避けつつ、対空砲火までこなしていた。 その顔には満面の笑みを浮かべる。

2016-11-21 20:42:09
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「本当、翔鶴も飛龍も葛城も、容赦ねぇよな…っと!」 避けた先にも追撃をせんと襲いかかる艦載機群の不意打ちにも対応し、 無駄口を叩ける程の余裕を見せる彼女の練度もまた相当なもの。 天性で恵まれた体格と咆哮艦隊で培われた経験を活かし、相手の攻撃を舞うように巧みに回避をしていく

2016-11-21 20:43:17
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「あの髭のオッサンが訓練に甘くないとは聞いてるけどさ…あんまりじゃないかい?」 隼鷹はそう口から漏らしながら、その元凶となる男がいるであろう監視所に苦笑いを向け、目を細めた。 (飛んだ食わせ者だよねぇ…なんかあくどい企みでも、してるのかねぇ?)

2016-11-21 20:44:24
葛葵中将 @katsuragi_rivea

あの男、葛葵という男は鹿屋では知らない者がいないほどに 「食わせ者」や「道化師」など言われるしたたかな面を時折見せ、 何をしでかすかわからない破天荒さを持つ。それを知っている隼鷹はその思惑、真意がいかほどのものか、それを確かめるために目を光らせていた。

2016-11-21 20:45:37
葛葵中将 @katsuragi_rivea

(ま、そんなんだからうちの大将も信用しているんだろうけどさ) 隼鷹自身も葛葵の手腕については一定の評価はしている。 実力もそれを支える知略も無ければ「常勝の智将」などとは呼ばれるはずもない。そんな考えに意識を預けていた隼鷹だったが、 背にかかる声に意識を引き戻すこととなる。

2016-11-21 20:49:44
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「提督は…私達を試してるんだと思います」 先程の隼鷹の疑問に、龍鳳が答えた。懸命な滞空迎撃を行いながら空を睨み続ける彼女は目もくれず僚艦の二人へと語りかけた。 その意外な答えに隼鷹も、聞き耳を立てていた飛鷹も目を白黒させる。

2016-11-21 20:50:52
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「常にこちらも全力で敵を迎え撃てるというわけじゃありません」 龍鳳は艦載機、装備換装、機体整備、それらは全てがいつでも万全な状態で戦闘に臨める訳ではない。 相手の方が性能、戦力において優勢におかれる状況で何をするか、 どのような対処が出来るかは各々の技量が試される。と語った

2016-11-21 20:51:51
葛葵中将 @katsuragi_rivea

龍鳳は、この演習における葛葵の真の意図を把握していた。 彼女の脳裏に浮かぶのは、先だっての西方海域において起こった葛葵艦隊にもたらされた大きな事件。 「…うちの初霜さんも、まだ戦線に復帰出来ていませんから」

2016-11-21 20:53:11
葛葵中将 @katsuragi_rivea

先程まで不満を垂れていた飛鷹も押し黙り、龍鳳の言葉に耳を傾けた。 先の独立反抗勢力コシュタ・バワー、その一介による強襲により起こった悲劇は 飛鷹、隼鷹共に聞き及んでいた。

2016-11-21 20:54:19
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「正体が図り知れない相手に急襲された場合は現場で戦う者達に一任することを余儀なくされるからだよ」 「つまり、この演習は新型機のテストを兼ねた…彼女達の対応力を試す意味合いもあるんだ?」 遠目に蚊帳の外から戦況を見守っていた葛葵と楓が言葉を交わす。

2016-11-21 20:55:00
葛葵中将 @katsuragi_rivea

先の「空色の巡洋艦」との戦闘、 その緒戦においてその場に居合わせた初霜及びグラーフ・ツェッペリンは 司令部との連絡を取る手段を遮断された。加えて訓練中の出来事であり弾薬の換装も 済んでいない状況に立たされ、初霜の健闘も虚しく一度敗北を喫した。

2016-11-21 20:55:57
葛葵中将 @katsuragi_rivea

その案件は所属艦隊のみならず、海軍全体に教訓として伝わり、 敵は深海棲艦だけではない。背後から突然、内側の者から刺されることになるかもしれない という隣人からもたらされる恐怖、警戒心は常に持ち続けなければならないという危機を改めて皆が思い知ることとなった。

2016-11-21 20:56:44
葛葵中将 @katsuragi_rivea

その一件を一番重く見ているのはほかでもない… 「ホント、素直じゃないんですから。でも彼女達、中将の意図に多分…気づきますよ?」 「うるさい。余計な口挟むんじゃない、黙って見てなさい」 葛葵は不機嫌そうに夕張が嬉々として茶化す声に焦れこみ、鼻をふくらませた。

2016-11-21 20:57:31