#ダークエルフ王国見聞録　その９

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

行商人の馬車なども載せられる大きさの艀は水面を静かに渡る。そうすると霧が晴れていき、対岸の様子が見渡せるようになってきた。対岸では弓に矢をつがえたダークエルフの兵達がこちらを監視している。枝や蔦で偽装された小屋もあり、狭間にも兵が控えているのであろう #ダークエルフ王国見聞録

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彼女達のいる関所の門と小屋の後ろには、氏族領と天領の境にある城が見える。水濠の役割を果たしているこの川が、南北に流れる川に合流する地点の西岸にある崖に築かれた巨大な城には、鷲獅子の軍旗が風にはためいている。氏族長の本拠となる岡城よりも大規模なものだ #ダークエルフ王国見聞録

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その城内には何本もの大樹が見え、切岸が茨や薊の緑に覆われており、氏族領の城と同じく草木に包まれていることは共通しているが、所々に石造りの矢倉や垂直に近い角度で聳える石垣なども認められる。“土の城”と“石の城”を折衷させたような造りだ。 #ダークエルフ王国見聞録

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関所から再び南北に延びる街道は、城郭の西側にある郭と郭の間に堀底道として位置し、両脇には矢倉が立つ。この城が川の往来を監視すると共に、街道を抑える要の城として機能していることを物語っている。その威容に感銘を受けている内、艀は独りでに岸の桟橋へと接岸する #ダークエルフ王国見聞録

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桟橋を降りて関所に向かおうとすると、こちらに矢を向けたままの兵士達に加え、鉾槍を持った兵がこちらにやってくる。氏族軍の郷士や民兵達と異なり、支給されているであろう揃いの鎧や武具には統一感がある。彼女らの機敏な動きには、氏族領側の関所との緊張感の差がある #ダークエルフ王国見聞録

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「そっちの郷士はともかく、アラクネーに人間とは珍妙な組み合わせだな。この弱そうな男が、団長が言っていた例の者だろうか？」 「とにかく番屋まで連れて行く。妙な動きをするなよ、人間め。」 明らかに敵対的な雰囲気があるのは不安であるが、彼女らの言う通りにする #ダークエルフ王国見聞録

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彼女らに氏族長から預かった通行許可証と女王に召喚された旨を記した添え状を提示する。 「事情は聴いているし、許可証も本物であると認めるが、人間の関わることだ、どうも信用ならんな。荷を検めるぞ。学士とやらは服も脱げ、何を隠しているか分かったものではない」 #ダークエルフ王国見聞録

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関所の長と思しき十人長の言葉に、横で大人しく彼女らの言葉に従っていたセラの堪忍袋の緒が切れたようである 「先程から無礼にも程があるぞ！こやつは人間とはいえ、我ら氏族の客分、こやつへの非礼は氏族長様への非礼と知れ！ましてや陛下の召還による旅路だぞ！」 #ダークエルフ王国見聞録

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「田舎武者が何をほざくか！陛下の御領地で氏族領の法を通そうとするな。我々の差配に従えぬのならここは通せない。なんだ、人間の男にでもたぶらかされたか」 「十人長如きが陛下の名を笠に借りて好き放題か、我らが氏族の剣をなめるなよ」 二人は鋭く睨み合う #ダークエルフ王国見聞録

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一触即発の空気が漂い、困惑する私と知らぬ存ぜぬのアラクネー、同じく困惑している王国軍の兵士の後ろから声が掛かる。 「何をしているのですか。“山を覆う翼の熊鷹”からのお客様に失礼があってはなりませんよ」 振り返ると従卒を引き連れた位の高そうな将が現れていた #ダークエルフ王国見聞録

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「見張り台から御一行の到着を知らされて来てみれば何ですか、この有様は。兵長、仕事熱心なのは感心ですが、頭に血が上ってはいけません。相手をよく見なさい。人間一人に郷士殿とアラクネーをどうにか出来ると思うのですか」 #ダークエルフ王国見聞録

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叱責されて押し黙る十人長からこちらに顔を向けた彼女は続ける。 「皆様、遠路はるばる陛下の天領にようこそいらっしゃいました。私はこの城に駐屯する兵団の副長をしております、アシピトリースと申します。ささ、案内しますので城内にどうぞ」 #ダークエルフ王国見聞録