#ダークエルフ王国見聞録　その９

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「おお、ゴブリン退治の時の、西の里のご両人じゃないか！どうした、こんな所で」 氏族長旗下の軍勢に在籍する彼女も、先日のゴブリン討伐に参加し、軍功一等のセラと付いて来ていた人間を覚えていたらしい。私も紫髪で眼帯を付けた伍人長の彼女になんとなく見覚えはある #ダークエルフ王国見聞録

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夕飯をここで食べていけと部下に私とセラの分の酒と酒肴を用意させようとする彼女に丁重に断りを入れ、もし可能であれば旅籠での夕飯に同席して頂けるかと申し出る。伍人長は明日の夕刻まで非番であるらしく、喜んで付き合うと言い、我々と共に町の旅籠まで来てくれた #ダークエルフ王国見聞録

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丸ごとの鯉をワインと酢で煮た宿の名物料理や、胡椒とパセリが効いたクヌーデルなどの夕飯に舌鼓を打ちながら、葡萄酒やエールを飲む。上機嫌になった伍人長は言う 「西にある人間の国との、大いくさの話には興味ありますかい、学士殿。ゴブリン退治の比じゃありませんよ」 #ダークエルフ王国見聞録

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隻眼の女兵士の言うところの、“西にある人間の国との大いくさ”というのは、ダークエルフ王国とその西方にあり、諸侯達の連合する領邦国家との戦のことであろう。おおよそ２５年前の戦であるが、現在まで国境での紛争状態が継続されているのは以前に記した通りである #ダークエルフ王国見聞録

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領邦国家側の発表では、「邪悪」な闇エルフに侵略の動きがあったため、それを阻止するために選帝侯家および辺境伯を中心とした諸侯軍がダークエルフ王国に果敢に攻め入り、多くの被害をこうむったものの、闇エルフの攻勢を先んじて封じ、現在の膠着状態となったとしている #ダークエルフ王国見聞録

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諸侯軍を率いたボルスカブラム辺境伯の戦死、メーベン選帝侯家の長男の戦傷とその後の廃嫡という事実から考えるに、実際には壊滅に近い、より甚大な被害があったのであろう。ダークエルフ側に責任があるとする開戦の理由も何ら根拠がなく、相当に怪しいものである。 #ダークエルフ王国見聞録

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それはともかく、この戦によって、人間の国家からダークエルフ王国に入ることのできる道そのものの存在が明らかになったのが、文化他種族学における大きな光明であった。しかしながら、そのルートは、目下の紛争で閉ざされているのも以前に記した通りである。 #ダークエルフ王国見聞録

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さて、私が人間側の発表として聞いている内容を彼女らに伝えると、隻眼の女兵士は「やれやれ、随分と勝手なことを言ってくれるもんですわ！」とあきれた顔をしながら肩を竦めてみせる。隣に座っている女戦士のセラも、抗議の弁こそないものの、眉をしかめている。 #ダークエルフ王国見聞録

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隻眼の女兵士が語ってくれた戦のあらましは以下のようなものだった。ダークエルフ王国西方は深い森と南北方向に連なる高山によって人間の領域と隔てられているが、“千里を見下ろす灰色鳶”氏族領には、その高い山脈が途切れ、狭い平野が広がる東西方向の回廊が存在する #ダークエルフ王国見聞録

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時に奴隷狩りの人間や流浪するゴブリンやオークなどの異種族がこの場所を越えて王国に侵入することがあるため、国境の低山には関となる砦が設けられ、西方の深い森を監視していた。晩夏のある日、砦の監視兵は森の中に幾重もの煙が立ち、木を切り倒す音が響くのを認めた #ダークエルフ王国見聞録

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領邦国家の諸侯軍が森を切り開きながら突然の侵攻を開始したのである。敵軍襲来の知らせは、砦から“千里を見下ろす灰色鳶”氏族長へ、次いで王都へと届いた。女王は軍勢の召集を宣言すると共に、氏族長へ最低限の遅滞戦闘をした上で救援を待つように命を下した。 #ダークエルフ王国見聞録

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国境の監視砦では、人間の軍勢に弓矢を射かけ、魔道の術を浴びせて少しの時間を稼いだものの、砦に籠ることはせず、早々に兵は退却して山に逃れた。この砦を燃やして気勢を上げた後、王国に侵入した諸侯の大軍は平地に下ると街道沿いの集落への略奪・狼藉を開始した。 #ダークエルフ王国見聞録

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周辺のダークエルフは、或いは山に逃れ、或いは山間の回廊の東端にある氏族長の城に避難したが、運悪く人間に捕まり慰み者にされた女性や美童も少なくないという。“千里を見下ろす灰色鳶”は隘路の東側出口にあり、街道を抑える城に旗下の氏族軍と共に住人達を籠らせた。 #ダークエルフ王国見聞録

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国境の兵を潰走させ、さしたる抵抗もなく里々の環濠を踏破したと思い込み、勢いにのった諸侯軍は、数日の略奪の後、東進し、回廊出口に位置する丘城にはためく灰色鷹の軍旗と共に、この回廊を塞ぐ様に展開した赤地に黒の鷲獅子を描いた王国軍の軍旗に行く手を阻まれた #ダークエルフ王国見聞録

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金で集めた傭兵も合わせ、二万五千余を擁する諸侯軍に対し、女王の長女が率いる近衛三千、主力を北方でのオーガとの戦に向かわせている国軍二千、王都周辺から参集した各氏族軍計三千からなる計八千余りのダークエルフ側の軍勢は兵の数で大きく劣っていた #ダークエルフ王国見聞録

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隻眼の女兵士は、当時この屯所から王都に向かい、“熊鷹”氏族の軍勢の一人として戦に参加していたそうである 「黒鳥の羽を飾った白銀の甲冑に真紅のマントを召して、近衛の騎士達に囲まれた姫殿下は、それはそれは凛々しかったですよ」と彼女は言う #ダークエルフ王国見聞録

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色とりどりの軍旗を風に揺らす諸侯軍は、城への押えを残しつつ、喇叭や太鼓を鳴らしながら歩兵が戦列を整え、それらの集団の合間と両翼に重装騎兵が縦隊を形成する。ダークエルフ達も角笛を吹き鳴らし、弓兵が射撃位置に入ると共に、その前に展開する槍兵達が斧槍を構える #ダークエルフ王国見聞録

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ダークエルフの射手達は風の精霊の加護を願う呪文を唱えながら複合弓を構え、指揮官達の号令によって一斉に矢を放つ。諸侯軍でも、指揮旗が各所で打ち振られ、歩兵の戦列の後ろに陣取る長弓兵達が矢を放ち、諸侯軍と王国軍の戦は弓の射撃戦によってその幕を開けた #ダークエルフ王国見聞録

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両陣から空に撃ち上げられた矢は雨の如く地に降り注ぐ。ダークエルフ達の矢は敵陣に届くのに対し、人の矢はダークエルフの戦列の前に無為に落ちていく。これは弓の技量の差に加え、ダークエルフの魔道兵達が彼女らにとって追い風となる様に風の呪法を用いているためでった #ダークエルフ王国見聞録

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通常の矢尻に加え、火蜥蜴とトリカブトの毒を塗った猛毒の矢尻も合わせて諸侯軍へと間断なく撃ち掛けられ、軽装の雑兵や弓兵は次々と倒れていく。射撃戦の非常な不利を悟り、またダークエルフの槍衾が薄いことを認めた諸侯軍は重装騎兵の突撃での決着を企図した #ダークエルフ王国見聞録

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喇叭が吹き鳴らされ、槍歩兵の合間から縦隊のまま前進した重装騎兵は、速歩を以て横に広がり、ダークエルフの陣全体を圧迫する横隊を形成する。第三列まで形成される騎馬集団は、陽光に照らされた鎧が煌びやかに輝き、馬と槍を飾る色とりどりの布が揺れる #ダークエルフ王国見聞録

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馬上槍を掲げながら前進する重装騎兵は、ダークエルフの陣に接近すると、駈足次いで襲歩へと馬の速度を上げ、槍を倒して喊声を上げながら突撃態勢に入る。魔道の火に倒れる騎士も出るが、弓矢を鎧で弾きながらひたすらに前進する重装騎兵の恐るべき突撃は止まらない #ダークエルフ王国見聞録

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槍先の揃えられた重装歩兵の第一列がダークエルフ達の戦列に達しようかというその時、ダークエルフの陣の前の土が一斉に盛り上がり、形作られた巨大な泥人形が壁となって重装騎兵の前に立ち塞がる。泥人形達が前進した跡には、その体積の分、深い堀が掘り出されていた #ダークエルフ王国見聞録

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或る騎兵は泥人形達の土の壁に衝突して馬を損ない、転倒し、或る騎兵は泥人形を避けた先に突然現れた堀に落ちて馬もろとも重傷を負う。第一列の壊乱を目にした後列の騎兵たちは馬の速度を緩めようと必死になるが、整然とした横隊は崩れ、騎兵達はその場でひしめき合う #ダークエルフ王国見聞録

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「学士殿は、戦場でのゴーレムの一番良い使い方は何だと思いますか？」 そう聞いてくる隻眼の女兵士に、戦のことはよく分からないが、やはりその大腕を振るって敵をなぎ倒すことであろうかと答える 「なるほど、それもいいですが、一番は単に倒れさせるのがいいんですよ」 #ダークエルフ王国見聞録