#ダークエルフ王国見聞録　その９

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

術士の力量にも依るが、大量に生み出した泥人形を細やかに制御するのは難しいらしい。むろん、ゴーレムの膂力は恐ろしいものだが、ダークエルフ達の戦術は、土という無尽蔵な資材を利用してそれを塊にして動かし、堀を作ると共に、それらを敵に叩き付けるというものであった #ダークエルフ王国見聞録

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身動きが取れなくなった騎兵の集団に対し、横列を為した泥人形達が一斉に倒れ込む。石や礫も交じった大質量が上から叩き付けられ、下敷きになった騎兵を圧死させると共に、また人の形を作って起き上がり、また敵に向かって倒れ込みという行動を泥人形達はひたすら繰り返す #ダークエルフ王国見聞録

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重装騎兵が突破した戦列の穴を拡大させるため、後方から駈足で付いてきた諸侯軍の歩兵たちは、騎兵突撃の思わぬ失敗と恐慌状態で逃げ惑う騎兵達を認めて一気に戦意を喪失しつつあった。この戦況を認め、ダークエルフ達を率いる姫騎士は配下の将に何事かを下知する #ダークエルフ王国見聞録

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指示を受けた将は兵に用意されていた狼煙を上げさせる。すると、西方の空から深緑の鱗に覆われた飛竜が列を形成しながら上空を進んでくる。飛竜の尾には黒の鷲獅子が描かれた赤地の幟が結わえられている。ダークエルフの軍勢が誇る竜騎兵達が戦場へと襲来したのである #ダークエルフ王国見聞録

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前進する人間の歩兵達、もしくは更に後方に位置する弓兵達の上空に至った飛竜から、細長い布を後ろに付けた陶製の弾が次々と落とされる。地面に落下したそれらは陶器の破片を飛び散らすと共に、中に詰められていた赤褐色の粉と薬液が混じりあいブクブクと気泡を発する #ダークエルフ王国見聞録

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不気味な混合物から生み出された気体は、空中で独りでに発火すると主に、猛毒のガスを生み出す。不用意に水をかけると更に反応は加速し、落下点の兵達は或いは焼死し、或いは毒を吸って倒れる。この間にもダークエルフの陣からは間断なく矢と魔道の火が打ち出され続けていた #ダークエルフ王国見聞録

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彼ら歩兵の前方は、ダークエルフの戦士達による騎兵隊の虐殺の場となっていた。混乱で機動力を奪われ衝突力を失った騎兵ほど脆いものはない。泥人形の転倒攻撃をなんとか避けた騎士も、斧槍で馬から引きずり降ろされ、倒れたところを長刀や槍で突き刺されていく #ダークエルフ王国見聞録

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ある貴族の騎兵は、長槍を捨て、兜を脱いで馬上にて諸手を挙げ、ダークエルフ達に降服を申し出た。領地では浮名を流したであろう、その美男子の眉間へ無慈悲に矢が突き刺さり、彼は泥に接吻することとなる。名誉ある降服と身代金での解放といった習慣は彼女らには存在しない #ダークエルフ王国見聞録

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この惨状に、“灰色鷹”氏族の丘城への備えとして残されていた軍団が裏崩れを引き起こし、これに触発される形で前方でも兵士達の潰走が続発し、諸侯軍の陣立ては混乱状態に陥った。この機会を逃さず、城に詰めていた“灰色鷹”氏族軍は後方を遮断するべく打って出る #ダークエルフ王国見聞録

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統制を失い、西方へ逃走するために東西方向に伸びた軍勢を南側側面から突くことにになった“灰色鷹”氏族軍の攻勢は成功し、後方からも引き返す兵で更に戦列が乱れる諸侯軍に対し、竜騎兵の空襲を引き揚げさせた東側のダークエルフ王国軍が角笛を鳴らし前進を開始する #ダークエルフ王国見聞録

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王国軍の騎兵は、近衛に精鋭の重装騎兵が少数居るばかりで、あとは弓を装備した軽騎兵であり、その数は多くない。諸侯軍に迫るのは、長柄や長刀、戦棍を持ち、ビキニアーマーを着用した戦士達である。彼女たちは、目を爛々と輝かせ、血の香りに高揚した笑みを浮かべている #ダークエルフ王国見聞録

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「いやー、あの時しくじって、この通り片目を失ったわけですが、まぁ、大勝利でしたね」 隻眼の女兵士が語る通り、挟撃・包囲された諸侯軍は、絶え間ない魔術の嵐と殺到する技量に優れた戦士達により壊滅状態に至り、稀に見る大敗を被ることとなった。 #ダークエルフ王国見聞録

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多くの騎士は名誉を守って最後まで戦ったため討ち死にし、武具を捨て平身低頭の命乞いをした者達のみが許された。それでも、傭兵や騎士は許されず、捕縛された後に、姫騎士の前に引きずり出され、やはり捕えられた人間の指揮官数名の前で次々と首を刎ねられた。 #ダークエルフ王国見聞録

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更には、氏族軍の獣使い達が恐狼と猛禽を戦場の周辺に解き放ち、山林や草原での敗残兵狩りを開始した。恐怖に震えながら隠れていた人間の兵達は、或いは恐狼にかみ砕かれ、或いは怒りに燃える地元のダークエルフに発見されてなぶり殺しの憂き目に遭うこととなる #ダークエルフ王国見聞録

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なお、農兵や軍勢についてきた民間人については、捕虜としての扱いが為され、遺体の処理といった戦場の清掃に使役された後、領邦国家に戻ることが許された。とはいえ、国に戻ることができた兵は大変に少なく、矢傷や毒気によって廃兵となった者も多いと言う。 #ダークエルフ王国見聞録

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領邦国家に生還した彼らにはダークエルフ側からの講和条件を記した書面が持たされていた。多額の賠償金を支払い、国内にいるダークエルフの奴隷を解放し帰還させ、侵略を謝罪し二度としないことを約束すれば、捕縛した選帝侯家の長男らを返してもよいと書面には記されていた #ダークエルフ王国見聞録

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領邦国家側は惨敗に近い結果もあってこの講和条件を飲み、賠償金の支払いと奴隷の解放を履行した。選帝侯家の長男を含め、命を許された数少ない指揮官の騎士達は、襤褸を着せられ、鎖でつながれたまま徒歩で領邦国家へ帰還させられるという屈辱を味わうこととなった #ダークエルフ王国見聞録

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勇猛かつ聡明で知られた美男子である選帝侯家の長男は、戦傷に加え、類稀なる大敗のショックと屈辱の扱いによって精神を病んだのであろう、前述した通りに廃嫡された。また、主だった騎士が失われたことで領邦国家の軍事力は一時的に大きく低下することとなる。 #ダークエルフ王国見聞録

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軍事力が低下したことによる流れゴブリンやオークの跋扈、生じたダークエルフへの恐怖・警戒に他国から流れ込む軍事支援や諜報活動、屈辱的な大敗を挽回したいと考えるタカ派の独断によるエルフ・ダークエルフに対する散発的な軍事行動と、領邦国家は混乱に陥ることになった #ダークエルフ王国見聞録

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また、ダークエルフの側では、主戦場となった山間の回廊を天領として接収し、焼き討ちされた里の再興を進めると共に、砦や城郭の増強と国軍の駐屯、隘路の封鎖など、再侵攻に備えた措置を取った。今も国境には戦の火種が多々あるが、大規模侵攻はこの会戦以来行われていない #ダークエルフ王国見聞録

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以上が、隻眼の女兵士の語る領邦国家との戦のあらましである。彼女の言葉にもまた誇張や誤解があるのかもしれないが、当事者として古参の兵が語る言葉には迫力と説得力があった。酒を飲みながらの戦語りに上機嫌となった彼女は、外套を着て屯所に戻ると告げる #ダークエルフ王国見聞録

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彼女に戦語りの礼を述べ、ここの飲み食いの勘定をこちらで持つことを申し出る。更に上機嫌になった隻眼の女兵士は、明朝にアラクネーを迎えに行く際にまた兵舎に寄るように言い、冷たい空気の夜空の下、宿を出て屯所へと戻っていった。 #ダークエルフ王国見聞録

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私は女兵士の戦語りで一つ得心のいかない点があった。人間の側にも領主達お抱えの魔道士が居たであろうに、ダークエルフ達の魔術に対抗した様子は語りにはなく、彼らは何をしていたのだろうかということである。隣で残りの酒を干しているセラに尋ねてみる #ダークエルフ王国見聞録

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「さすが、良い所に気が付くな。戦を知らぬというが、よく頭が回る」 破顔して私を褒めてくれる女戦士はその理由を説明してくれる。彼女らの里長や氏族長がそうであるように、この国では政（まつりごと）の長は、同時に黒の女神と精霊に祈りを捧ぐ司祭の長でもある。 #ダークエルフ王国見聞録

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黒の女神の血族であるとされる王族は、魔道の要となる精霊との契約において国内で最上位の存在であり、王国軍を率いた姫騎士はその血の力を以て精霊たちに働きかけ、ダークエルフ達の魔道を高めると共に、人間たちが魔力を引き出すことを阻害したのだと彼女は説明する #ダークエルフ王国見聞録